1 なんか心配です
世界観は後々掘り下げてくので普通のラブストーリーみたいに捉えてください。
一応異能系です。
「■■■■■■」
声がする。
遠くからだ。
部屋の鍵はかかっているんだったか、と男は思い出す。
解錠する気は無い。
取り敢えず「起きたよ」とだけ返事をした。
「起きた?おはよう〜」
『おはようございます』
ドア越しから聴こえてくる声に少し安堵する。
いつ死んでいてもおかしくない引きこもりに、本気で心配している自分が居た。
とある星。とある街。
ヒトのすむ世界。
弱肉強食も廃れ、年功序列が時代錯誤とされる場所。
そんな世界で彼は自室に引きこもっていた。
『ご飯置いておくね』
と聴こえて、タッタッタッと階段から急ぎ足で去る音がする。
義妹?彼からすると未だに幼なじみだ。
歳の離れた、というかさして変わらない。
だからこそ余計にやりづらい。
というか両親も両親で彼女を受け入れているというか、受け入れざるを得ない状況だったから。
彼女は覚えていない。
とある事が起き、彼女は孤独となった。
理由は両親も隠している。
彼女が気づいたら、傷つくからだろうか。
男は知っている。
その事実を。
だからこそ、漏らさないように接することを絶っているのもあるのだ。
「学校には行かないのですか?」
声を張って問うてみる。その返答次第では入浴とゴミ捨てを済ませてしまうのだが。
トテトテと登る音が聞こえて、僅かな衝撃音とドアが質量で軋む音がする。
『今日は休みだよ。これから友達と遊ぶんだけどね〜…………でも男の人がいるらしいから、ちょっと』
そういう事か
「そうですね。それは少し怖いかもしれない」
まだ高校生の幼馴染、仮にとはいえ義妹に不安を感じている。
ふわふわとしているが、察しがよく、頭も回るのだからドギマギもする。
彼もドアへ向かうと、その前であぐらをかいてみる。
『ねぇ、陸成…………』
「いつも言ってますが」
「いいですよ、昔みたいにナリくんで」
彼も自分でも変なあだ名だと思っている。
でも、そっちの方が親しみもあるしやりいい感じがしているのだろう。
『う、うん………それで、ナリくん』
「なんでしょう?」
『一緒に来、来てくれないかな…………』
「………………」
やることも重なっている。
日課もまだだ。
だからどうと言えた訳では無いが、
「すみません」
その答えを聞いた途端に落胆する。
友人と遊ぶにも、危険な目にあうかもしれない。
彼女は覚えている。
あの時のことを。
「じゃ、じゃあ…………断って………おくね………」
『ど、どうしてそうなるのです?』
「だって1人は怖いし………」
『………』
「いや、一応合気道とかも習ってたケド」
「でも他の人と比べるとそこまで強い訳じゃないから………」
「だから、ね?」
『嫌です』
ここまでしても!?となるが、気を持ち直す。
遊びたいけれど、人が怖い。
だからこそついてきて欲しいのもあるが。
もう何年も顔を合わせていない。
「きょ、今日は外出たの?」
『まだですよ?』
「何時外出てるの………」
沈黙。
『トイレ。風呂。ゴミ出し。散歩。魔法のカード買ったり………』
「ニートみたいな生活してるのね?」
『現在、誠に僭越ながらニートでございます』
「本当に誠に僭越なんだよね………」
ニートは脱落ではなく、選ばれた特権って聞いたことがある。
「そんな訳あるかい」
『ありますよ?』
あるんだ。
「あるんだ………」
『お酒を飲むわけじゃないんですから大丈夫ですって』
「それはそうだけど〜!」
『……………』
考える。
今日のタスクをこなし、迎えに行くことは出来るだろう。
顔を合わせるのは別にいい。
ただ、帰り際に沈黙していては元も子もないのだ。
何より、帰路につけるかも話によると怪しい。
「そうですねぇ…………」
「じゃあ、こうしましょう」
街の中を進む。
2人で。
年上の幼馴染と、漸く。
ドキドキする。
顔は目元しか見えないけれど、整っているのかな?など思ってみる。
彼は目を合わせようともしないまま車を運転する。
というか、めちゃくちゃ安全運転をしている。
ハンドルの持ち方も10時10分だし、目視等もしっかりしている。
ペーパーじゃないの?と思っていたがかなり模範的な運転をしている。
「次は右ですね?」
「う、うん」
髪は生え散らかしているものの、長くはなく、目元が辛うじて見えているところをピンで留めているために「見えてるの?見えてないでしょ?」みたいなラインを攻めている。
マスクしてるし尚更顔が分からない。
「なんで友達の家の道覚えてるの………」
「昔行ってたでしょう」
「高校で出来た友達なんだけど」
ゾワッとする。えっ?ストーカーみたいな情報量してるんだけど。
そんな鳥肌が立つような思いをしているうちに友人の家に着く。
「じゃあ俺は寝てるので。お気をつけて」
「路駐は危なくない?停めさせて貰おうか?」
「あぁ、ご心配なく。邪魔にならない場所に停めておくので」
「そんな場所あったっけ…………」
「ありますよ。貴女が知らないだけで」
「ふーん」
「門限にはこちらに来ます。
何かあれば電話、よこしてください」
親指と小指を立てて耳に当てる。
所謂「しもしも〜」のやつだ。
伝わらないか。
「わかった。ありがとう」
降車してインターフォンを鳴らすために玄関へ向かう。
シームレスな庭をしている家だから、入る際に顔が見えないものかと思ってもいたが、友人が出迎える時に振り向くとめだけが笑っていて、余念なく顔を見せようともしなかった。
彼女の友人宅を見た瞬間、感じた悪寒。
「居る………」
嫌な予感がして、ふと声を漏らしてしまう。
「………?」
「いえ、お気になさらず」
「気にしちゃうでしょ!」
「気にしなくていいですよ」
ムゥとして、静かな空間が生まれる。
何かあれば、すっ飛んで来ればいい。
そう思いながら送り出したのであった。
何故このニートはここまで生活力がありながらもニートなのか?
覚えてたら掘り下げます。