狂犬令嬢は乙女ゲーシナリオをぶち壊す
続編を投稿しました。(https://ncode.syosetu.com/n0781ht/)
よろしければこちらも。
乙女ゲームの世界に転生。今はよくあるジャンルとして受け入れられているが、まさか自分の身に起こるとは……
私はコルネリア・ウルツハイマー。しがない伯爵家の娘。前世の話? 今はあまり関係ないから割愛させてもらうわ。
現在の年齢は10歳。家族構成は両親に加えて、7つ上の兄が1人。家を継ぐのはこの兄になるはず。
そして最も重要なのが……私の婚約者が、いわゆる攻略対象だということ。
◆◇◆◇◆◇
私の婚約者、ブラント侯爵家の嫡男ヴェルナー・ブラントと顔合わせをしたのは5歳のころ。私と彼は5歳の差があるから、当時の彼は10歳。初顔合わせで、よくある『あとは若い2人で』状態になった時、彼はこんなことを口走った。
「悪いが、俺はお前を愛さない。俺は自分で決めた相手と結婚する」
……ほーう? ほーう??
うんうん。別に妾を囲ってる貴族はたくさんいるし? 別に節度を守ってくれたら構わないと思ってたけど?? なんでこいつはわざわざ相手に宣言したの??? お? 低脳か???
と、我ながら大人気ないくらいに青筋を浮かべてしまい…………
その1時間後、私は彼を屈服させることに成功した。
何を言ってるのかわからないって? 単純に腕っ節と言葉で叩き折ってやっただけよ。
この世界の転生者は、誰しも何かしらの能力を持っている。私の能力はちょ〜〜〜〜っとヤバイやつだから、今の所兄以外には秘匿してるけど……それをバレない程度に使って封殺してやったの。
そしたらまぁ、私の姿を見るたびにビクビク震えて……私の前ではイエスマンになってしまった。イェイ完全勝利〜。
とまぁこんな具合で、彼が裏切るとかは心配してないけど……この国では、15歳から学園に通うことが義務付けられている。そして件の乙女ゲーの舞台は学園……つまり、私の手の届かないところで、ヒロインが近づくことになる。
まぁ当然ながら対策済みだけどね。
◆◇◆◇◆◇
『今度の夏季休暇に、貴方が入れ込んでいる女の子を連れてきてくださいね♡』
要約すればこんな内容の手紙を婚約者、コルネリアから受け取ってしまったヴェルナーは、顔色を真っ青に変えて震えていた。なぜバレた? 彼女が学園の内部で起きたことを知るすべはないはず……なのになぜ? 影のような諜報員は、第二王子くらいにしか付いてないし、そもそも王家直轄の諜報部隊が、一介の伯爵令嬢に情報を渡すわけもない……
でも、もしこれに逆らえば……
想像しただけで気を失いそうになる。今更だが、俺はなぜこのようなことを……せめて彼女だけは守らねば……
そう、半分無駄だとわかっている覚悟を決め、彼女の下へ赴いた。
◆◇◆◇◆◇
「兄様〜ちょっと出てきてください〜」
「今いいとこだからちょっと待っ……あっクッソ安地取られた!!」
「またFPSやってるのね……」
「あっ、おまそうじゃね……だあああああクソ負けたあああああ!!!!」
「あっ、死んだみたい? 兄様〜入っていいですか〜」
「……あぁ、構わないよ」
「は〜い失礼しま〜す」
扉を開けてみれば、カーテンを閉じ切った暗い部屋で、眩しいくらいに光を発する、世界観にそぐわないディスプレイモニターが6台と、その前で項垂れる兄がいた。
「兄様、FPSやるのはいいですけど、節度は守ってくださいね?」
「わかってるよ……コルに逆らったらこれできなくなるし」
そう、この中世的な世界観に、なぜ現代技術の結晶があるのかといえば、私が創り出したからだ。
私の持つ能力は【空想投影】。簡単にいえば、頭の中で考えた物を現実世界に持ってくることができる能力だ。そして、実は兄も転生者であり、兄の能力は【電脳接続】。つまり地球のネットワークに接続できる能力だ。その速度は、兄の自己申告だが地球のどの回線よりも速いらしい。
これらを組み合わせることで、スパコン並みのスペックを持つPC+光回線も目じゃない速度の回線でゲームを遊ぶという、誰にもできない贅沢を兄はしているのだ。
ちなみに、かつてヴェルナーをボコした時は、『一定時間身体能力・身体強度を爆上げして、頂点クラスの格闘術が身に付く飴』を胃の中に投影して、フル装備のヴェルナー相手に圧倒したのだ。あの時の絶望顔は忘れられないなぁ〜。
……さて、それはともかくとして、こうして兄の下を訪れたのは他でもなく、決戦の日に向けて協力を仰ごうと思ったのだ。
「兄様、自慢の容姿を使ってヒロインを籠絡してください」
「え、嫌だけど」
バッサリ。
……いやまぁ、兄は前世からの筋金入りな女性嫌いだからなぁ……この際に婚約者を決めて欲しかったんだけど……
なぜヒロインを宛てがおうとしたかって? 単純に、彼女の見た目が私にとってドストライクだったから。侍女として迎えるとかも考えたが、彼女の後ろ盾が伯爵家(当然我が家とは別の)だから、それもできない……なら兄と結婚してもらえばいつでも会いにいけるじゃない?
「それじゃあ、兄様がずっと欲しいって言っていた巨大人型兵器を──」
「よし、その娘はどんな子なんだ?」
ちょろっ。
◆◇◆◇◆◇
「は、初めまして、ルイーゼ・バルトコです……」
私の目の前に、天使がいた。
光を受けて美しく煌めく金の髪に、深い瑠璃色の瞳。そして彼女全体から醸し出すその雰囲気は心を穏やかにするようで……これは、堕とされても仕方ないかもしれない。
「お、おいコルネリア……? 彼女にひどいことをするなよ……? 何を間違っても物理を行使しようとするなよ……!?」
「ヴェルナー様は私のことを一体なんだと思ってるんですか……」
「狂犬」
よし、あとで折檻しよう。それはともかく……
「コホン、お初にお目にかかります。私はコルネリア・ウルツハイマーと申します、以後お見知り置きを」
全力の笑顔で自己紹介をしたら、ルイーゼ様はどうやら少し肩の荷を下ろしたみたいだけど、ヴェルナーは青白くなっていた顔色を一層白くさせた。なぜだ。
「立ち話も何ですし、どうぞこちらへ」
私は、あらかじめセッティングしておいたサロンへと案内した。
◆◇◆◇◆◇
歩く中で、ヴェルナーに聞こえないように小声でルイーゼ様と話したところ、どうやら彼女は別に、籠絡したり何だりをした覚えはなく、いつの間にか高位貴族の男どもに囲われてしまっていたらしい。もともと下町で暮らしていたところを、血縁だ何だで伯爵家に拾われたため、貴族に逆らったりするのがとても恐ろしく、どうすればいいのかわからなかった、と。
つまり……攻略対象たちの暴走だったわけだ。
は〜〜〜〜これだから男は……しかも王族やら宰相の息子やら騎士団長の息子やら王家直属の諜報員やら……この国終わってね?
とりあえず、呆れを胸に、兄の待機するサロンへと案内する。
「……お、来たようだね。初めまし、て……」
おっと兄様? あれだけ女は嫌だって言っておいてどうしてルイーゼ様をみて固まっていらっしゃるのです? ついでになんか頬を染めてるし目をかっ開いてるし……あ、これ一目惚れってやつですね。
ルイーゼ様は……うそん、こっちもなんか頬を上気させて兄様を見つめてるんだけど? まさか、私が何もしなくてもくっつく流れ???
「……えー、こちら私の兄のライナーです。で、兄様、こちらがバルトコ伯爵家のルイーゼ様です」
とりあえず軽く紹介をする。
と、突然兄が立ち上がり……
「ルイーゼ嬢、あなたに一目惚れしました。私と結婚してくれませんか」
うそん。兄様突然プロポーズするの!?
私もヴェルナーも驚きすぎて完全に硬直してしまった。
対してルイーゼ様は……
「…………ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
兄様の、手を取った。
えんだあああああああいああああああああ!!!!!
うぃるおぉるうぇいずらあああびゅうううううううああああああああ!!!!
……いや、こうでもしなきゃちょっと状況を受け止めきれないから。
一方のヴェルナーは……あ、真っ白な灰になってる。仕方ない、こいつは私が別室に連れて行って再調きょ……もとい、お話をすることにしよう。
兄様とルイーゼ様は……うん、2人の空間を形作ってるし、放置でいいや。
◆◇◆◇◆◇
それから、兄様とルイーゼ様……ルイーゼ義姉様の婚約はつつがなく行われ、義姉様の卒業を待つ形で結婚をした。その時、攻略対象たちがうるさかったようだが……何と、それぞれの婚約者が封殺していた。まぁ、そりゃ自分の婚約者が他の女に入れ込んでたら面白くないよね……
それから、義姉様は我が家に住むことになり──
「義姉様義姉様〜、膝上に乗っていいですか?」
「えぇ、構わないけど……コルちゃん、彼を放っておいていいの……?」
「大丈夫ですよ。どうせ私に何かする力も度胸もないですから」
「えぇ……」
義姉様の膝に乗って、頭を撫でてもらう。一目見た時から、こうやって甘えてみたかったの。何というか……ものすごい母性というものを感じてしまって……
義姉様も、困惑することはあれどいやとは言わないから、大丈夫だと判断している。
「おいコル、私のルイーゼを独占するな」
不機嫌そうな兄様。まぁ私がいると、だいたいずっと私が義姉様に構ってもらってるからね。
「器が小さいですよ兄様。このくらいいいじゃないですか。アレ消しますよ、私が創ってあげたデルタプ──」
「わ、わかったからそれだけは……」
勝ったな。
ちなみにヴェルナーもこの場にいるが、私に口答えすれば何が起こるかわかってるから、無言を貫いている。それでも不服そうな顔をしているから……まぁ、あとでサービスしてやろう。少しくらいなら甘えてやってもいいかもしれない。
この騒動は、私の完全勝利で幕を閉じることになった。
「……なぁ、なぜ俺の学園での行動を、お前が把握していたんだ?」
「あぁ……あの頃、常に青い鳥が周囲にいたと思うんですけど」
「……あぁ、確かにいたな」
「あれ、私の使い魔です」
「………………」
「ずっと監視していました♡」
「そうだったのか…………」
「はい♡」
「…………お前は、俺のことをどう思っているんだ?」
「え? 大好きですけど?」
「は?」
「じゃなきゃあんなに執着するはずないじゃないですか」
「確かに……いやだったら、もっと優しくしてくれてもいいんじゃないか?」
「だって……好きな人ほど虐めたくなるんですもの」
「………………」
「実際、ちょっといいなって思ってたでしょう?」
「…………あ、あぁ」
「なら、これで円満ですね♡」
「(何か釈然としない……)」