001.プロローグ
慣れた手付きでPCを起動する。
薄暗い部屋にほんのりとPCの明かりが広がる。
目に悪い筈のブルーライトがどこか心地良い。
PCの隣にはカップラーメンの容器が三つほど積み重なっている。
不健康そうな肌。腹はたるみ、髪はボサボサ。着ている服は薄汚れたジャージ。率直に言えば、社会不適合者。それが俺である。
現在の日本は学歴がものを言う。高校を中退した俺はまともな仕事にも着けずに毎日PCと向かいあう。
現状を打破したい。職について、人並みの生活をしたい。しかし、それは口に出すだけで実行する気にはならない。
PCが完全に起動する。
いつものゲームアプリを開き、数少ないフレンドにメッセージを送る。
_ _ _ _ _ _
ゴメン、俺、ゲームやめるわ。
 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄
職につきたい。しかし、実行する気にはならない。ならば、何故ゲームを辞めるのか。なにも、俺が辞めるのはPCゲームだけではない。
あらかじめ用意していた首釣り縄に手を掛け、台に上る。
「しーぬのかい?」
その部屋には似つかない、陽気な声が狭い部屋に響いた。俺は、長い間マトモなコミュニケーションを取ってこなかった為か、咄嗟に声がでない。
死ぬ前の幻覚だと、俺は思った。何故なら、この場に人がいることが現実的でないのと、ソイツの格好が赤白黄色の派手なピエロの服装をしていたからだ。
「ああ、答えなくてもいい……。きっみの気持ち、わっかるよ~~!! 「自分は社会のゴミ」「自分は生きていても意味がない」。そんなことを、思っちゃうよねぇ~!」
どうせ幻覚。俺は気にせず縄に手を掛ける。
「ああ~! 待って待って! もう、せっかちさんだねぇ! 別に、君の自殺を止めに来たんじゃなーいよ!」
オーバーなリアクションで俺に詰めかけてくるピエロ。だが、止めに来たんじゃないのか?
「もし、だ。過去……君が輝いていた高校生時代に戻ったら。学力ではなく、ゲームのようにPSだけで前に進める世界があれば。君は、どう思う?」
……何も考えていなかった体力有り余る高校生時代に戻り、学力ではなくPSだけで成り上がることができる世界? ……そんなの、
「行ってみたいに、決まってる」
「はっはーっ! 君なら、そう言うと思ったさぁ! さぁ、ならば今すぐ、向こうの世界へ飛び立つのさぁ!」
向こうの世界……!
……っと、その時俺はふと我に返る。
周りを見る。誰もいない。
やはり、か。向こうの世界など都合の良いものなんて存在しない。先のは俺の都合の良い妄想だったようだ。
俺は縄に手を掛ける。
声を掛ける者などいない。
あるのは、PCのモーターの回転音のみ。
俺は縄を首に回し、この世を去るのだった。
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