占拠された俺の部屋
卵
ある日、俺が部屋に戻ったら、俺の部屋には、巨大な鳥がいた。
その頃、俺は、ワンルームマンションに住んでいた。
俺のマンションにいた鳥はとてつもなく大きかった。
その鳥が、どれくらい大きかったかと言うと、それは。
その鳥は、巨大で、その鳥が俺のワンルームマンションに収まるときには、その鳥が窮屈な思いをして、窓のほうから尻尾や尻をねじ込んでいき、ようやくすっぽりと、ワンルームマンションに収まっただろうと思えるくらいに大きかった。
だから、その日、俺が部屋にたどり着き、その部屋に入ろうとするとき、俺が俺のワンルームマンションのドアを開け、マンションの通路から自分の部屋に入ろうとするとき、俺の眼前には、ピチピチに詰め込まれた鳥の尻と鳥の尻尾だけがあった。俺の目には、とてつもなく大きな尻尾と尻がただただ見えるだけだった。
俺がドアを開けてしまったため、部屋に押し込められた状態になっていた巨大な鳥の尻尾と尻は、部屋から飛び出してやろうと、玄関口の俺の体全体に、すごい圧力をかけてきた。
俺は、鳥の尻と尻尾を押し返し、俺のワンルームマンションの部屋のせめて玄関ににとどまろうとした。
しかし、鳥の尻と尻尾の圧力は、法外なもので、俺をワンルームマンションの玄関から外へ押し出した。
俺は、俺を押し出した尾と尻を改めて見た。
鳥の尻の羽毛の先に、オール程の太さの引き締まった足が垣間見えた。鳥の足は力強さにあふれていた。
屈強に思える鳥。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。この部屋の住人は俺なのだから。
「俺が、全力でこの鳥の尻にタックルを加えて、鳥を部屋から押し出してやる」
と、俺は、身構えた。
そこへ、マンションの管理人がやって来た。
管理人は、鳥の尻にタックルを加えようとしていた俺を制止した。
「ここで、夜分に騒いでいる住人がいる。そう、下の階の住人からクレームがありました」
「どんな事情があるにせよ、マンション内で夜中に騒いでもらっては困りますよ! このワンルームマンションの住人は、何せ朝の早い勤め人が多いのですから」
管理人は、巨大な鳥が、俺の部屋を占拠しているという極めて異常な事態を気にもとめていなかった。
「集会用の部屋に行って、そこで泊まるようにしたら良い。シャワー室もあるし、洗ってある毛布もあるので、今晩はそこに泊まったら良い」
そう、管理人は俺に提案した。
「この鳥には、お困りでしょうが、しかし、この鳥にも、生きる権利などがあって、この鳥が不法に、あなたの部屋を不法に占有していたとしても、私たちにはむやみに鳥を排除したり、鳥に危害を加えるようなことがあったら、私たちには罰せられることも十分に考えられます」
管理人は、この巨大な鳥とは、なじみなようで、この鳥が引き起こす異常事態も管理人には日常茶飯事のことのようだった。
「あなたが、鳥を虐めるような人間だったとして、そんなあなたの味方になってくれそうな人は何人いるでしょう。私の考えではそんな人はこの世にひとりもいないと思いますよ」
「この鳥が、悪いことをしてあなたに迷惑をかけることがあったとしても、この世の中では、あなたより、むしろ野生の鳥獣の一部として鳥の味方をしそうな人は、たくさんいると思われますよ」
管理人は、そう言いながら、自分の仕事に取りかかった。服の右腕の部分をめくり上げていった。管理人は、袖をギリギリまで、肩に届くほどまでめくりあげた。
管理人は、その裸の腕を振りかぶり、そして、その腕を体に引きつけると、体を後ろによじり、力をためるために一度制止した。管理人が、「えい」と、気合いを込めた言葉を発すると、管理人は、右腕全体を突き出した。管理人の手のひらはグーを握り、鳥の下腹部を目がけて、突き刺さり、鳥の体内を進んでいった。
管理人のグー握りの右の拳は、鳥の臀部にグイッと奥まで突き刺さった。さらに、管理人は、鳥の下腹部に突っ込んだ右腕を押し引きをするように動かした。
さらに俺がみていると、管理人は、鳥の下腹部の穴の奥で、自らの右手を使い何かをまさぐっているように見えた。
「管理人は、何をやっているんだ? あいつが、やっていることこそ鳥に対する虐待だろう」
俺は思った。