消える前
君に会いたい。ただそれだけだった。
高校2年生の時だ。スマホゲームのMMORPGの中で出会った君は、いつも僕の悩みを聞いてくれて、解決方法まで教えてくれる。
明るいオレンジ色の髪のアバターの少女。お金が大好きで、毎日金策に走る彼女は大きな商会をいくつも立ち上げていた。だから、多くのプレイヤーから彼女の渾名は『会長』、と確かにそう呼ばれていた。
僕は『会長』と毎日通話やチャットをしていた。彼女の声は元気の良い女の子の声だった。
僕はそんな彼女と話すことで学校等の日々の疲れを癒していたのかもしれない。
その日の夜9時からも、彼女とお金を落とすドラゴンを狩り続けた。
そんな日々が続いて1年。ある日突然、『会長』との連絡が途切れた。
天気は雷雨の6月18日。高校3年生になって2ヵ月が過ぎた頃だった。
最近は進学する大学の為に勉強時間を増やしていた所為か、ゲームにログインする時間がかなり短かった。
でもその代わりに通話する時間や頻度は多くなった。
だから、何も言わずに連絡が途切れることはないはずだった。
その日の僕は何コールか電話して、メールを幾つか送信して寝ることにした。
翌日の朝になっても『会長』からの返信は無かった。
スマホでゲームにログインしたが、『会長』は一昨日からログインしていないようだった。
絶対におかしい。毎日ゲームにログインするだけでも、彼女の日課だったはずだ。それに『会長』には商会がある。彼女は指示するだけで毎日お金が手に入る商会のチェックをし忘れる事は無かった。
僕が呆然としていると、突然スマホから着信音が鳴った。それも『会長』から。
僕は何かあったんじゃないか、心配しましたよ。というつもりだった。
でも現実はろくでも無かった。
「もしもしこちら『ヨウ』さんのお電話番号でよろしいでしょうか?」
電話からは『会長』とは別の女性の声がした。
そして『ヨウ』というのは僕のプレイヤーネームだ。
「はい。僕がそうですが。どのようなご用件でしょうか。」
内心はかなり焦っていた。とてつもなく嫌な予感がしたからだ。
「単刀直入に言います。うちのヒナタは交通事故により昨晩亡くなりました。」
「え?」
それからは何をしたのかあまり覚えていない。住所を聞いて『会長』の葬式に出て、泣きまくった。
もうゲームをする気になれなくて、ずっと勉強していた事。
『会長』の顔は美人で綺麗な人だった事。
覚えているのはその位だった。
~~~~~~~~~~~~~~
あれから2年が過ぎた。僕は春から希望していた大学に入学して1人暮らしを始めた。
自炊等の家事もひと通りこなせるから問題ない。
僕はこれから報告の為に『会長』の家へ行く予定だ。
思い返せば沢山の事が有ったな。
「これが走馬灯でなければな。」
大型トラックがバス停に立っていた僕を操作不能の状態で突っ込んできたようだ。
どうやら僕も早死にする運命だったらしい。
~~~~~~~~~~~~~~
気が付くと、背中に木が当たっているような感触がした。
何とか生き残ったのかな?僕はそう思って目を開けた。
すると、いつか葬式で見た顔が僕の目の前にあった。
肩で揃えてある茶髪に、どこかの学校のブレザーの制服を着た美少女。
『会長』その人だった。
『会長』は僕が気が付いた事に気づき、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「だーれだ?」