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第2章 【初等部編】2-1 まずはパーティをつくりましょう!

「わーっ、見て見てヒイラギ! 大きい校舎!」

 リンは白いジャスミンのような花が咲き誇る道を小走りで駆け抜けた。

「リン、はしったら危ないよ」

 その後ろをヒイラギがとことこついていく。ヒイラギは本当に雛鳥のようでかわいい。

 

 7歳になって、リンは学園初等部への入学を許可された。これは本当に異例中の異例だった。はじめに父母が笑い飛ばしたように、そもそもこの世界では、学校というものは男子が通うもので、女子は学校ではなく、修道院に通って花嫁修行を行う。男子は7歳から初等部入学、6年間の初等部の後に3年間の中等部という、まあ日本の小学校、中学校みたいなシステムだ。そこから先、高校に該当するものはなく、多くの者が家業を継ぐか、帝国にお仕えすることになっている。リンが修道院ではなく学園に入学できたのは、ひとえに父フォスター卿の権力とお金のおかげだった。

 

(ヒイラギがいてくれてよかった)

 リンはこっそり胸を撫で下ろした。見た目は7歳でも中身はアラサー、初等部の勉強も同級生との関係も正直まったく心配していない。それでも、女子が1人で男子校に入るというのは、なかなか勇気のいるものだった。

 

(まあ、見方によっては逆ハーレムかしら。勉強も大したことないだろうし、初等部に間はかわいい男の子たちを愛でるのもいいかも! それにキャリアを築く上で他の貴族男子と幼少期から仲良くなるのは大切だわ)

 不安な気持ちを無理矢理ポジティブな気分でごまかす。

 

「リン、だいじょうぶだよ」

 ヒイラギがきゅっと右手をつないでくる。

「まあ、リンはちょっと、だいぶ変わっているけど、そこがリンのいいところだし。もしいじめられたら、僕が守ってあげるから」

 

 (まいったわね…)

 小さい背中で精一杯元気づけようとしてくれる優しい幼なじみにほっこりしながら、私とヒイラギは2人で校舎へと進んだ。

 

 ◇

 

 学校に入ったら、まず職員室に向かえと言われていた。ヒイラギは特別扱いでもなんでもないので、そのまま教室に向かう。僕もついていく、と言ってくれたが、ヒイラギだって初日なのだ。友達づくりの機会を奪ってはいけないと思い、丁重に辞退する。


「失礼します、新入生のリン・フォスターです」

 ドアを開けると、先生方の視線が一斉に突き刺さった。好奇の目、不快の目、胡乱げな目……予想していたとはいえ、おおむね好意的とは言いがたい。


「ああ、フォスター様の……ようこそ、ノース・アウセン学園へ」

 40代後半だろうか、おそらく校長だろう。言葉こそ丁寧だが、厄介ごとを持ち込みやがって、という気配を隠しきれていない。


「あー、お父上から聞いているとは思いますが、ここは本来男子のみが通う学校です。女子が通うのは史上初めてのことでして、何かとご不便をおかけすると思いますが、何かありましたらご無理せず」

 

 ご無理せず、なんだ。ご無理せず修道院に行けということだろうか。

 リンは内心の怒りを抑えつつ、にこっと笑った。


「ええ、ご配慮に感謝いたします。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 ◇

 

「はい、皆さん席に着いてください」

 担任に連れられて教室に着くと、他の生徒はほとんど皆着席していた。ヒイラギもいる。私はこっそりヒイラギに手を振った。ヒイラギも気づいて、こっそり手を振る。


「えー皆さん、ノース・アウセン学園へようこそ。ここは北部の学園の中でも、由緒正しい学園であり、伝統と規律を重んじます。皆さんには、ここで6年間、国語、算数、理科、地理学、政治学、さまざまな学問の基礎を学んでもらいます」


 ここまで言って、担任はちらりと私を見た。

「そして、えー、もしかするとすでにご存知の人もいるかもしれませんが、今年は1名、女子の方が入学されます。色々戸惑うこともあるかもしれませんが、皆さん仲良くしてください」

 

 なぜ入学初日に1人だけ転校生のような扱いを受けねばならないのか、と思いつつ、表面上はにっこり笑って全員の前で挨拶する。

「皆さん、はじめまして。リン・フォスターです。どうぞよろしく」

 

 拍手は起こらなかった。7歳とはいえ、ここノース・アウセン学園に通う生徒は名家の子どもばかり。女子は貞淑たるものという価値観を家庭で刷り込まれているであろう彼らにとって、私は異質以外の何者でもないのだろう。


「はい、座ってください。フォスター嬢、あなたの席は一番後ろになります」

 しんとした空気の中を、そそくさと席に着く。

 

(うーん、これはちょっとしんどいなあ)

 やはりどこの世界でも、腫れ物に触るような扱いというのはそこそこ堪える。相手が年下であるということと、キャリアを築き上げるという明確な目標がなければ、心が折れていたところだ。

 

(そうねえ、どうしようかしら)

 このままでは、学園生活があまり気分のいいものにならないことは明白だった。学園に入った目的は、教育を受けてキャリアの下地をつくることと、将来のビジネスパートナー(要はコネクション)を築くことである。であるならば。

 

(まずはパーティをつくりましょう!)

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