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プロローグ

「おぎゃー! おぎゃー!」

「見て、あなた……かわいい女の子よ」

 私、一ノ倉凛は、金髪碧眼の見知らぬ女性が自分を覗き込んでいることにまず驚いた。

 

 (あれ……今日はプロジェクトミーティングが朝イチで入ってたはず……なんでこんなところにいるんだっけ)

 

「ふんぎゃー!ふんぎゃー!」

「本当だ……なんてかわいらしい。よく頑張ったな」

 

 今度は金髪長身男性。2人ともどう見ても日本人ではない。というか、今おぎゃーおぎゃーと泣いているのは、この口?

 私は起きあがろうと体を捩ってみる。すると女性の方が、慌てて私の頭を後ろから支える。

 

「あっ、ほら危ない! 本当に元気な子ね」

「ああ、将来はきっと立派なレディになるぞ」

 

 女性が頭を支えてくれたおかげで、壁に立てかけられた鏡が目に入る。そしてーー

「ほんぎゃあ!?」

 ーー鏡に映ったのは、どう見ても生まれたばかりの赤ん坊だった。

 

 ◇

 

 私、一ノ倉凛はいわゆるバリキャリ女子である。

 都内有名大学に進学し経済を学んだ後、本格的にビジネスについて知識を深めるために海外進学。その後、大手コンサルティング会社でコンサルタントとして、着実に地位を築いてきた。

 30歳も過ぎると、世間一般で言われる通り、結婚攻撃が始まる。それは職場の上司だったり、実家の両親だったり、あるいは早々に結婚を決めた大学時代の同級生だったりする。


 「そんなに仕事してばっかりで楽しい?」「女性はタイムリミットがあるから……」「女は多少可愛げがあった方が、人生うまくいくよ?」などなど、時代錯誤な攻撃を食らってきたが、そんなものはクソ喰らえである。

 私もパートナーはほしいと思っている。しかし生活のために好きでもない男とやむを得ず結婚しても幸せになれるはずもないので、まずはしっかり経済的に自立して生活基盤を整えるべく、20代はキャリアに邁進してきたのであった。

 

 ◇

 

 それなのに、である。

 鏡の中の自分に衝撃を受けてから早6年。私、一ノ倉凛ーーもといリンは、この現実を受け入れざるを得ない状況に陥っていた。

 ーーどうやら私は、異世界に転生してしまったらしい。

 異世界転生といえば、最近流行りのジャンルで、転生するのは冴えない中年男性と相場が決まっていた。前世(?)で読んだラノベでは、バリキャリ女子が異世界転生するなんて聞いたこともなかった。

 しかし、事実は事実。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだが、どうやら私はリンとして、異世界に転生してしまったらしい。

 

 とはいえ、慣れてみれば異世界もなかなかどうして面白い。魔法の概念がないのは残念だったが(何を隠そう、私はハリーポッターの大ファンである)、どうやら私が転生したのは中世ヨーロッパのような街で、父親はそこそこ裕福な商家を経営していた。私は商家の1人娘としてそれはそれは可愛がられて育てられた。こんな生活も悪くないかーと考えているうちに、人生はどこの世界でもそんなに甘くないと知る。

 

「リンももう6歳だな!」

「うん。おとうさま、私もそろそろ学校に行くの?」

「はは、リンは学校なんて言葉を知ってるのか。賢いな。だがな、お前は学校には行かないんだよ」

「え、なんで?」

 父と母は顔を見合わせて、そして吹き出した。

 

「なんでってお前、女の子が学校なんか行くわけないだろう!」

「そうよリン、女の子は勉強なんかしないで、お裁縫とお料理を習って、いいところのお嫁さんに行くのが一番幸せなのよ」

 

 ーーなんですって?

 リンの脳裏に、前世の記憶が蘇る。そう、あれは大学受験のとき。私はどうしても都内の大学に行きたかった。それを家族に告げると、祖母は「そんなんじゃお嫁に行けないわ!」と号泣し、祖父は「女が大学なんぞいかんでいい!」と激怒した。


 リンの中に、妥協の2文字はない。嫁に行くのが女性の幸せだと誰が決めた? 女は貞淑にしとやかにと誰が刷り込んだ? そんな固定観念、クソ喰らえよ。


 こうして前世の家族の反対を押し切り、バリキャリとして過ごしたリンにとって、現・両親の発言は信じ難いものであった。そして心に誓う。


(必ずこの世界でも、自由に生きてやるわ!)

お読みいただき、ありがとうございます。

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