転移者が貰える神器、『場違いな工芸品《オーパーツ》』が時計だったチート野郎に好きな人を奪われた俺はカセットテープレコーダーで復讐する。
リハビリ作品第3弾。
「第3回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品の為、1000文字以内の超短編です。
俺の人生の最悪はなんだろう。
サーファーの父が海で死んだこと?
全国決勝ハットトリックの瞬間選手生命が絶たれたこと?
映画部に雛の助手をしたいと轟が現れ付きまとい始めたこと?
魔の交差点で大型トラックにひかれたこと?
気づけばファンタジー世界で雪だるまみたいに丸い王様にお菓子食いながら命令され化け物と戦う羽目になったこと?
俺の異世界召喚者特有の神器『場違いな工芸品』が轟の時を操る時計や雛の全て跳ね返す鏡と比べショボすぎる『カセットテープレコーダー』だったこと?
いや、好きな人を奪われたことだ。
轟が雛を部屋に呼んだ。
密室に二人が不安だった雛に頼まれ俺は何かあれば飛び込む準備をしていた。
しかし、一分も満たない時間で雛は轟に奪われていた。
その夜、俺は泣きながら今までの冒険の記録を吹き込み続けたカセットを聞き返した。
次の日。
「なんだ、音也?」
「……頼みがある。今日の戦い、俺が良いって言うまで時計を使わないでくれ。俺がやる」
「自棄かぁ? わかったよ、オレはお前が使って下さいと言うまで時計を使わない」
「有難う。じゃあ、次にこれを聴いてくれ」
俺はレコーダーを再生する。
『「……どぞ」「雛は、元の世界に帰れたら毎日おとくんの為にお味噌汁をつくってあげ、ます……これでいい!?」「絶対帰ろう! 雛愛してる!」「私も、愛してる……ってあー! まだ録音……」』
「なんだこれ……?」
「これは多分、お前に『時を戻される前の』俺と雛の会話だ。お前は何度もやり直していたんだろう。雛を奪う為に」
「……そうだよ! 漸く手に入ったぜ! 時魔法で二人以外の時の流れを遅くしてゆ~っくり心折れるまで愛してやったよ! こんな風に……あれ?」
『お前が使って下さいと言うまで時計は使わない』
「まさか……!」
「俺も驚いた。記録された言葉は消えないし裏切れないらしい」
「け、けど、まともに歩けないテメエなん、でべっ!」
「失敗してもやり直せるって甘えが染み付いたお前に負けるかよ」
俺は録音された魔法『魔斬』を高速再生し、轟の左足をサイコロステーキのように切り刻む。
「あ、ああああ!?」
「轟、死にたくなきゃ『時魔法を使って下さい』。雛が壊される数分前に」
「わ、わ、わかりまじだ!」
光が満ちていく。
遠くで雛が泣きながら笑っていた。
俺は、再生する。
『おい! 過去の俺! いや、これからの俺! 絶対雛を幸せにしろよ! 忘れるな! 雛が傍に居る限りお前の人生に最悪は訪れない!』
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