表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/96

005 卒業パーティーのお相手(レンリ視点)

 工房の入り口から大きな声がして振り向くと、フローレスさんが真っ赤な顔で立っていた。

 そういえば、今日は魔法道具の修繕の出来を確かめる約束をしていた。


「フィリエル様っ、か、考え直してはいただけないでしょうか?」

「えっ、な、何を?」

「レンリ先輩と卒業パーティーに出ることです」

「えっ……」


 フィリエルは驚き僕へと顔を向けた。二人はどんな関係? と聞きたそうな目をしている。

 フローレスさんは、うつむき加減で気まずそうに口を開いた。


「あの……フィリエル様は、まだ元婚約者様にお気持ちがあるって、私の兄が言っていたんです。えっと……兄はフィリエル様のことをお慕……そ、尊敬していて、いつも見ているから分かるそうです。だから、レンリ先輩にお気持ちがないなら、これ以上利用しないで欲しいんです!」

「私が……ガスパルを……」


 不思議そうに首を傾げるフィリエルは、フローレスさんの言葉を否定しようと言葉を探しているように見えた。

 

「フローレスさん。大丈夫ですよ。僕は構いませんから」

「で、でも……レンリ先輩には好きな方がいらっしゃるじゃないですか。勘違いされてしまいます。だから……」


 僕の好きな人? 

 さすがにヴェルネル先生のことではないよな。

 でも、僕が行動を共にしている女性はフィリエルとコレットだけだから……。


「もしかして……コレットのことですかね。僕はコレットのことを尊敬しているだけですから、そういうのではないんですよ」

「へっ、あ、私、すみません。勘違いしてしまって」


 おどおどと恥ずかしそうに謝るフローレスさんに、フィリエルは優しく微笑んだ。


「ふふっ。あながち間違っていないと思うわ。でも、コレットはお兄様の婚約者なのよ」

「ええっ!? ラシュレ公爵様のですか!?」

「ええ。ということで、私が、レンリとパーティーに参加してもいいわよね? どちらもパートナーがいない、ただの友人同士だから」


 意地悪く聞こえるのは気のせいだろうか。

 フィリエルの言葉にフローレスさんは瞳を曇らせ俯いた。


「あ……そうですね」

「もしかしたら、レンリは私のことが好きになっちゃうかも?」


 そんなこと、あるはずもないのはフィリエル本人が一番分かっているだろうに。

 フィリエルが、まるでフローレスさんを試すように笑顔で尋ねると、フローレスさんは慌てて顔を上げた。

 

「そ、それは困ります!」

「ふっ、ふふふっ。ごめんなさい。フローレスさんが可愛くて、少し言い過ぎてしまったわ。レンリ、こんなに可愛い後輩に慕われているなんて、ズルいんだから」


 フィリエルは急に笑い出したかと思うと、困って顔を赤くしているフローレスさんをギュッと抱きしめて、僕を見ながらそう言った。

 

「ズルいってなんでですか!? それに、慕われてるって……ただ、尊敬していただいているというだけで……」

「あら、鈍感な男は嫌われちゃうわよ。ね、フローレスさん」

「あっ、えっと……はい」


 フィリエルの問いにフローレスさんは否定すると思っていたのに、彼女はぎこちなく同意していた。

 同意したということは僕は鈍感だと思われているということで……。

 いやでも、僕なんかを?

 

「ね、そうよね。私はお邪魔みたいだから失礼するわ。パートナーは他の方にお願いするわ。──レンリ、ちゃんとパートナーを探すのよ。コレットだって、絶対にみんなでパーティーに参加したいって思っているはずだから。頑張って、ね?」


 僕とフローレスさんを交互に見ると、フィリエルは笑顔で手を振り工房を出ていった。


 頑張ってと言われても困る。

 ただの友人同士で参加することと、僕のことを……慕ってくれているかもしれないフローレスさんと参加することでは、意味が全く違うのだから。


 ここまで煽っておいて逃げるなんて、フィリエルの方がズルいじゃないか。


 フローレスさんは、またリンゴみたいに顔を真っ赤にしていて、僕と目が合うと口を開いた。


「あのっ!」

「はいっ!」

「補修した魔法のローブ……一緒に見たいです」

「あ、ああ、そうでした。今出しますね」


 ああ、ビックリした。

 僕は心臓がバクバクしたまま保管しておいたローブを机の上に出した。

 真っ二つに裂けてしまっていたローブは、縫い目が分からないほど馴染んでいて、修繕は上手くいったみたいだ。


「良さそうですね」

「あの、試着してもいいですか?」

「どうぞ」


 フローレスさんはローブを羽織り、自分の身体を見下ろすと、パッと表情を明るくさせて言った。


「わぁ、すごい。なんだか、見えない何かに守られているような感覚があります」

「そうだね。成功だ。フローレスさんのお蔭です。ありがとうございました」

「そんな……私はただ縫っただけです」

「僕には上手く縫えなかったので、本当に助かりました」

「レンリ先輩のお力になれて、とても嬉しいです。私、ずっとレンリ先輩とお話してみたかったんです。でも、上手く出来なくて……。緊張すると、すぐ顔が赤くなってしまうので恥ずかしくて。でも、今は先輩に見えていませんよね、私の顔……」


 このローブは人避けのローブだ。これを着ていると認識しづらくなるけれど、会話をすると相手に認識されるようになる。

 だから、一瞬見えなくなったけれど、フローレスさんが声を発してからは、ずっと彼女の姿がよく見えていた。


 真っ直ぐ僕を見上げるフローレスさんの瞳は潤んで煌めいていて、吸い込まれてしまいそうなほど純粋で、頬は赤く、手は緊張でなのか、微かに震えている。


 いつぶりだろうか。

 こんなに真剣に誰かの事を考えてしまうのは。

 目の前の相手が、どんな顔で、どんな気持ちで立っているのか、知りたいと思ったのは……。

 

「見えていないと分かっていても、やっぱりすごく緊張します。──あ、あの。卒業パーティーですが、もし、よろしければ、私と……」

「フローレスさん」


 僕はフローレスさんの言葉を遮るようにして彼女の名前を呼んだ。

 精一杯、自分の気持ちを口にしようとしてくれたのに、止めさせてしまった。

 僕には、その先の言葉を聞く資格すら、ないからだ。


 この先の彼女の言葉を想像しただけで、胸がドキドキと高鳴るのを感じた。

 ああ、フローレスさんとパーティーに参加できたら、僕はとても嬉しいのだと気付いてしまった。


 でも、それは不誠実だ。


 僕は彼女の気持ちには応えられない。

 僕には、婚約者がいるのだから。


「すみません。僕には、婚約者がいます」

「えっ?」


 フローレスさんの顔が一瞬で凍りついた。

 胸がズキッと痛んだけれど、気付かないふりをした。

 

「フィリエルとなら友人として、お互いに、その日限りのパートナーとして、参加しようと思ったのですが……フローレスさんとは」

「ご、ごめんなさいっ。失礼しますっ」


 フローレスさんはフードをギュッと掴み深く被ると、泣きながら走り去っていった。


 これで良かったんだ。

 泣かせてしまったことは申し訳ないけれど、フローレスさんはとても良い子だから、僕のことなんかさっさと忘れてまた素敵な人と出会った方がいい。


 どうしてだろう。

 僕が自分の気持ちに気付いた時は、いつも手遅れだ。

 フローレスさんの気持ちが嬉しくて、彼女のことをもっと知りたいし、手を取りたいと思うのに、応えられない。


 婚約者がいる僕に、その権利はない。

 どうしてこんなタイミングで婚約者が決まったのだろう。

 

 コレットの時もそうだ。彼女の存在が僕の中で大きくなるほどに、彼女の心は別の誰かへと遠ざかっていった。


 どうしていつも、うまく行かないんだろう。




お読みいたたきありがとうございます。

評価☆☆☆☆☆など、していただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ