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003 後輩の女の子(レンリ視点)

「えっと……」

「あっ、私、ミミ・フローレスと申します。魔法学科の一年で──」

「そうだ。フローレスさんだ。僕はレンリ・ベルトットです。お兄さんが青藍騎士団に所属していますよね」

「はい! ご存じだったのですか?」

「フローレスさんのことを見かけたこともありますよ。よく、差し入れに来ていますよね」


 そう言うと、フローレスさんは嬉しそうに顔をほころばせた。


「は、はい! いつも兄がお世話になっております」

「いえ、僕はなにも」

「いえいえっ。レンリ先輩がいると、怪我をしても安心だって言っていました!」

「そっか、そう言ってもらえると嬉しいよ」

「で、ですので、日頃のお礼だと思って、私にお手伝いさせてください」


 頭を下げて懇願するフローレスさん。

 ここまで言ってくれているなんて、フローレスさんも無類の魔法道具好きなのかもしれない。

 折角のヴェルネル先生の魔法道具なのだから、綺麗に直したい。ここはフローレスさんの好意に甘えよう。


「フローレスさんも、好きなのですか?」

「えっ!? わ、わわわ私……」

「はははっ。僕も大好きだから、そんなに恥ずかしがらなくていいんですよ。ヴェルネル先生の魔法道具は一級品ですからね」

「あ……はい! 私も大好きです」

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「はい。任せてください!」


 針と糸を握ると、フローレスさんはあっという間にフードを縫い上げてくれた。


「おお。すごい、完璧ですね! フローレスさん、ありがとうございます。では、このまま一週間保管しますね。その間に縫った糸とローブの魔力が混じり合って完成するので」

「一週間もですか?」

「はい。ヴェルネル先生の魔力は常人とは異なり崇高だから、時間が必要なんです」

「……ふふっ。レンリ先輩って、ヴェルネル先生のことが大好きなのですね」

「えっ、まぁ……そうですね。ヴェルネル先生は博学で優しくて魔法道具作りも繊細で……僕がこの世界で一番尊敬している方です」


 言ってから少し気恥ずかしくなってしまった。

 こんな話、コレットにしか、したことがない。

 でも、フローレスさんはコレットと同じで、僕を馬鹿にするでもなく、むしろ嬉しそうに微笑んでいた。


「そうなんですね。尊敬する方が近くにいるって、とても幸せなことですよね」

「はい。フローレスさんもそうなのですか?」

「わ、私も……尊敬している方がいます。私が魔法の才に気付くきっかけになった方です。騎士様達の治療に尽力されていたり、迷子になっている子を見つけると教室まで送り届けてくれたり、工房の使い方を教えてくれたり、宝物を見つけた子どもみたいにキラキラした瞳で魔法道具作りに専念する方で……」


 フローレスさんは、チラチラと僕に目をやりながらそう言った。

 もしかしたらだけど、彼女の尊敬している人とは、僕のことではないだろうか。

 青藍騎士団で怪我人の治療をしているし、僕も通い始めの頃はよく学園内で迷ってしまい、先輩方にそうしてもらったから、迷子と出会うと送り届けるようにしてきたし、工房の件にも心当たりがある。


「えっと……もしかしてそれって、僕のことだったり?」

「はい! そ、尊敬しています」


 冗談交じりで尋ねた僕の言葉に、リンゴみたいに顔を真っ赤にして、フローレスさんは力強く返した。


 なんでだろう。フローレスさんが僕自身と重なって見えた。

 きっと僕も、ヴェルネル先生に彼女と同じような視線を向けているのではないかと思うと、何だか嬉しくもあり恥ずかしくもあって、僕も彼女みたいに赤くなっているのではないかと思うほど、顔に熱を感じた。


 こんな時、どう声をかけたらいいのだろう。

 ヴェルネル先生は、どうだったかな。

 初めて話した時、どんな言葉を交わしだだろうか。たしか、僕の言葉を優しく微笑んで受け止めてくれていたと思う。


「ありがとう。そんな事を言われたのは、初めてです」

「初めて……」


 フローレスさんはうつむきながら嬉しそうにそう呟いたかと思うと、急に顔を上げてローブを手に取った。


「あの、一週間後、完成したこのローブを見せていただいてもよろしいですか?」

「もちろん。修繕が成功したか、一緒に確かめてみましょうか」

「はい! で、では、失礼します」


 フローレスさんが嬉しそうに工房を出ていくと、入れ替わりにコレットが工房に現れた。


「レンリ、お疲れ様。今の子は……」

「フィリエルが破いてしまったローブを縫ってくれたんです」

「まぁ、とても綺麗に縫えているわ。一週間後が楽しみね」


 コレットは笑顔でそう言ったけれど、一週間後だなんて、僕はひと言もいっていない。


「……もしかして、フローレスさんとの会話、聞いていました?」

「ごめんなさい。聞こえてしまって。ミミさんって、すごく良い子よね。彼女の作るサンドイッチはとても美味しいのよ」

「あ、お知り合いでしたか」

「ええ、訓練場で何度か会ったの。家は行商をしていて、たまに野盗に襲われることもあるらしくて、青藍騎士団に助けてもらったことがあるんですって。お兄さんはそれをきっかけに、騎士団に入ったそうよ」

「く、詳しいんですね」


 さすがコレットだ。

 ただ見ているだけの僕とは違って、誰とでもコミュニケーションを取り、そしてすぐに打ち解ける。

 ヴェルネル先生が、学園へ通う前にコレットと婚約を結ぼうとした気持ちがよく分かる。


「試験の勉強はどう? フィリエルがレンリがいてくれると勉強が捗るって言っていたわ」

「まぁ、それなりに集中してできていますよ。コレットの菓子もおいしいです。いつもありがとうございます」

「良かった。エミルの分を作るついでだから、気にしないで」

「はい。コレットはルーティ様のお守りでしたっけ?」

「お守りだなんて違うわ。一緒に勉強しているだけよ。魔力の制御の練習を一緒にしてて、ルーティ様も私も、すごく上達したんだから。だから、私も実技は自信があるわ」

「なる程……そろそろ二次試験ですね」

「ええ、お互い頑張りましょう。二人とも受かったら、また同僚ね!」

「そうですね。部署は違うと思いますけど」

「えっ? そっか……」


 これからの進路に悩んだ時、コレットは青藍騎士団の武器を強化した事を思い出し、閃いたのだ。

 宮廷魔導師になったら、近衛騎士団の武器の強化に携わることができるのではないかということに。

 ヴェルネル先生に相談したところ、可能だと言われたそうだ。

 宮廷魔導師長のゲオルグ様も興味を持っているという。


 兄から聞いた話によると、コレットは魔法道具や備品の管理の部署に所属するだろうとのことだ。僕は魔法道具の開発に興味があるので、道具開発の部署を希望する予定だ。


「まぁ、同僚には変わりありませんよ。頑張りましょう」

「うん!」


 この時、僕はコレットが宮廷魔導師になることは確実だと思っていた。

 これからも同僚になれると、そう思っていた。



****



 そして二次試験を受け、その二日後、試験の結果が出る。

 校内に二次試験合格者の名前が張り出されていた。

 僕は試験に合格していた。もちろんコレットも。


 コレットはこの結果を、もう見ただろうか。

 工房に行くと、フィリエルが菓子を用意して待っていてくれた。


「レンリ! 二次試験合格おめでとう。コレットとまた同僚になれそうね」

「はい。ありがとうございます。あの、コレットを見ましたか?」

「いいえ。ここで待っていれば来るんじゃないかしら?」

「ですよね」


 二次試験の結果が出たら、ヴェルネル先生の魔法道具について二人で研究しようと約束していたから、ここで待っていれば会えるだろう。

 そういえば、フィリエルの試験はどうだったのだろう。

 尋ねようか迷っていると、フィリエルの方が先に声を発した。

 

「ねぇ、レンリは……まだ、コレットのことが好き?」

「……は、はい?」

お読みいたたきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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