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008 これが真実

 ヒルベルタは私と似た桃色のドレスの裾を掴み、可愛いのに変ね……。と呟くと、さっきまで泣いていたとは思えない笑顔を私へ向けた。


「お姉様。帰りましょうか?」

「……ヒルベルタ。何でこんなことを――」

「取り敢えず馬車に乗りましょうよ。お姉様はここにいる資格なんてないんですから」


 私にはありますけどね。と言わんばかりの顔で私を見ると、ヒルベルタは慣れた様子でダヴィア侯爵家の廊下を進んでいった。



 ヒルベルタと二人でキールス家へ向けて馬車に乗った。ヴェルネル様の辛そうな顔と、フィリエルの泣き顔が頭から離れない。

 わざわざダヴィア侯爵家に招き、私だけでなく周りの人々まで傷つけられた。時間を置くとその事への怒りが沸々と湧いてきた。


「ねぇ、お姉様。さっき聞いたわよね。どうしてこんなことをしたかって。それはね、お姉様に侯爵夫人なんて似合わないからよ。みんな、私に夫人になって欲しいと思っているんだから」


 ダヴィア侯爵だけでなく、キールス家の者もみんな結託しているのだ。みんなとはそういう意味だと容易に想像できた。でも、ヒルベルタは我儘だけれど、人を傷つけるような子ではないと思っていたのに。


「私の事は何と罵っても構わないわ。でも……どうしてフィリエルを傷つけるようなことをしたの!? ガスパルまで使ってっ」

「え~。傷ついたかしら? 親友は失ったかもしれないけれどぉ、大好きな婚約者の浮気は嘘だって分かったんだし、喜んでるんじゃないかしら? 女同士の上っ面だけの友情よりも、未来の旦那様の方が大切でしょ」

「フィリエルは、そんな子じゃないわ」

「フフッ。屋敷の中で、殿方とお戯れになっていただけのお姉様に、何が分かると言うのかしら?」

「私は、そんな事してないわっ」

「してたじゃない。私も、お兄様もお父様もお母様も、みんな知っているわ。だから、これが真実なの」


 嘘だと分かっているのに、それを堂々と真実だと言い張るヒルベルタ。妹の思考回路がどのように構成されているのか、私には到底理解できなかった。


「どうして? そんなに、ヴェルネル様の婚約者になりたかったの?」

「別に。ヴェルネル様の顔は好みよ。でもそれだけね。……それより、私はお姉様が屋敷からいなくなるのが嫌だったの。せめて私がお嫁にいくまでは、いてもらわないと。課題も困るし、ドレス選びも困るでしょう? それに、お姉様の作るお菓子も大好きだし」

「そんな事の為に? こんな回りくどいことをしないで、初めから貴女が婚約すれば良かったでしょう?」

「だってぇ。ヴェルネル様がお姉様を選んだから……。お姉様って……ほら、何て言うのかしら? えっとぉ~。――そうだわ、ドアマット!? お姉様ってドアマットみたいでしょ! あってもなくても同じみたいだけど、私はないと困るの。だからヴェルネル様にはね。私じゃなくて、そんなモノを婚約者に選んでしまったんだってことを思い知らせてやりたかったのよ!」


 悪びれた様子もなく自信満々にそう言い切る妹に、私は狂気を感じた。今まで自分を偽り続けて努力してきたつもりだったけれど、それは全て無意味だった。

 私は一生、この人達の理想の家族にはなれないし、もうなりたいとも思えなくなった。

 

「大した理由もなく、ヴェルネル様やフィリエルを傷つけたのね。きっと、誰も言ってくれないだろうから、私が言ってあげる。――ヒルベルタ、貴女は最低だわ」

「な、何ですって? 身の程をわきまえないお姉様が悪いのよ。それと見る目のないヴェルネル様。私は悪くないわ!」

「誰かのせいにしても、いずれ自分のした事は返ってくるものよ。覚えておきなさいっ!」


 きつく睨み付けると、ヒルベルタは怯えポロポロと大粒の涙を流し泣き喚いた。


「ひ、酷いわっ。どうしてそんな恐い顔で睨むのっ!? お姉様の意地悪っ。お父様に言い付けてやるんだからっ。ぐすっ。……ぅわぁぁぁんっ」




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