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【コミック版配信中】妹の召使いから解放された私は公爵家の家庭教師になりまして  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
最終章 表と裏、どちらも本当の自分なので、らしく生きたいと思います
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009 レンリの手紙

 目が覚めると、優しい花の香りがした。

 ああ。この匂い好きだな。もう少し寝よう。


 そう思った時、すぐ近くで人の気配がして飛び起きた。


 微かな寝息を立てて同じベッドで眠っているのはフィリエルだった。桃色の可愛らしい天蓋付きのベッドは、私の部屋のベッドより二倍以上大きくてフワフワ。

 いつの間にか寝着に着替えているし、どうしてここで寝ているのか何も思い出せずにいると、フィリエルが目を覚ました。


「あ、コレット。起きたのね」

「フィリエル。おはよう。私、迷惑かけちゃったみたいで……」

「お祭りの途中で寝てしまったのよ。ワインを間違えて飲んでしまったみたい。着替えはメイドに頼もうと思ったのだけれど、昨日はお祭りで使用人も少なかったから、お兄様にここまで運んで貰ったの」

「め、メルヒオール様が……また手間をかけさせてしまったのね」

「また?」

「エミルの読み聞かせを初めてした時、ベッドで寝てしまって」

「そう。気にしなくていいわよ。私、コレットに話したい事が沢山あって。レンリとも顔を会わせ辛いかと思って……」

「レンリ……」


 そうだ。レンリとは目も合うことがないまま寝てしまったんだ。


「昨日、レンリはお兄様に言っていたわ。自分は嘘つきだから、好きに処分して構わないって」

「処分だなんて。どうして?」

「ラシュレ家の執事である前に、自分はコレットの執事としてヴェルネル様に仕えているからって。ヴェルネル様の利益を最優先で動いていたから、ここで働く資格はないって言ったわ」

「そんな……」 


 エミルのことも私のことも、とても大切に思ってくれていた。それはきっと仕事だからだけじゃないのに。


「それで、馬車の中で兄に胸ぐらを掴まれて、壁にドンって叩きつけられて、エミルが起きて、驚いて泣いて。馬車の中は散々だったけれど……」

「ご、ごめんなさい。そんな事があったなんて……――ねえ。今、レンリはどこにいるの?」

「兄が話を聞くと言っていたけれど……。ヴェルネル様は、ずっとコレットのことを想っていたそうね。ダヴィア家も捨てて、コレットと一緒になりたいのですって。レンリから聞いて驚いたわ。ガスパルと違って、あの方は一途で誠実なんだって……」


 フィリエルは軽く微笑んで見せたが、その横顔には疲労の色が見えた。昨夜、フィリエルの目には泣いた跡があった事を思い出した。


「フィリエル。ガスパルとは……」

「ガスパルと婚約を破棄することにしたわ。昨日ちゃんと本人に言ってやったわ。あいつったら、また浮気もしてるのよ。信じられないでしょう?」

「そんな。……二度とするなって言ったのに。でも、謹慎中なのにどうやって……」


 婚約式の前から浮気をしていたのかもしれない。

 フィリエルは元々疑っていたのだし、本当に最低で、怒りが込み上げてくる。


「もういいのよ。関わりたくないの。今、コレットが怒ってくれたから、もう大丈夫。――あのね。昨夜、噴水の前でヴェルネル様とお会いした時、ガスパルの顔が浮かんだの。ダヴィア家の奴等なんかコレットに関わるなって、怒りが込み上げてきたわ」

「そう……よね」

「でも、ガスパルとヴェルネル様は違う人間なのにね。コレットとヒルベルタだって全く別の人間。私と兄だって、お互いに理解し合えないことばかりだわ。だから、ダヴィア家の人間だからという理由で、ヴェルネル様を拒絶してはいけないって、思ったの」

「フィリエル……」

「だから、私のことは気にしなくて良いから、ちゃんとヴェルネル様と向き合って欲しいの。ガスパルの兄だとか、ヒルベルタの婚約者だからとか、色々な事に囚われすぎないで、自分の気持ちを大切して」

「ありがとう。フィリエル。正直なところ、頭の中がぐっちゃぐっちゃなの。昨夜、フィリエルは泣いていたし、レンリは目も合わせてくれない。ヴェルネル様は綺麗すぎて夢の中みたいで、メルヒオール様は……」


 どんな顔をしていたのか思い出せない。

 気が動転していて、目を合わせられなかった。


「兄がどうかしたの?」

「どんな顔をしていたのかも思い出せなくて……」

「私もそうよ。兄は、いつも怖い顔ばかりしているから、視界に入れないようにしているわ。――あ、そうだわ。昨夜、屋敷に着いた時にヴェルネル様から伝書鳩が来たの。これはコレット宛よ」

「えっ?」


 手紙は二通入っていた。一通目は明日、迎えに来る時刻と、レンリを責めないで欲しいということが書かれていた。別れ際のレンリの顔を見て心配になったそうだ。

 もう一通は別の人の字で、ヴェルネル様宛に書かれた手紙だった。差出人はレンリだった。


「あら? レンリからの手紙なの?」

「そうみたい……」


 その手紙には、婚約式の後、私は物置に閉じ込められ、翌日家を追い出されたこと。そして隣国へ逃亡したことが書かれていた。

 隣国へ着いて、すぐ出した手紙なのだろう。


 現状の報告の後に、まだ文は続いていて、それを読んで、ヴェルネル様が何故、手紙を寄越したのか理解できた。


『コレット様が家を出る日まで、執事として見守る約束でしたので報酬は兄にお願いします。

 勝手とは思いますが、私はコレット様のこれからの道が決まるまで、もしくは、彼女が許可をくださる間は、彼女の側にいることに決めました。

 私は、ヴェルネル様のお陰でコレット様と出会うことが出来ました。ヴェルネル様のお陰で実家は救われました。ですから不義理なことはしたくありません。  

 コレット様の隣にいる私は、何者であって欲しいですか? 

 今ならまだ何者にもなれる気がします。

 ヴェルネル様は深くコレット様を愛していたように思います。このような結果に至った事情は詳しくは分かりませんが、ヴェルネル様のお気持ちを教えていただけたら嬉しく思います。レンリ=ベルトット』


 






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