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007 婚約破棄

「申し訳ございません。まさか姉が、ガスパル様に薬を盛るなんて、考えてもいませんでしたっ」

「ヒルベルタ?」


 ヒルベルタはその場に泣き崩れた。

 そして私を一瞥すると、ダヴィア侯爵にすがり言葉を連ねた。


「ガスパル様は悪くありません。姉が悪いんですっ。姉は病弱だなんて嘘なんです。本当は、学園へ通う事も自ら拒否して、兄の友人や後輩の方々と……毎夜お遊びになっているのですっ」

「そ、そんな事、あり得ないわ……」


 震えた声で否定するフィリエルの手を、ガスパルは泣きながら握りしめる。


「フィリエル。君はコレットを信頼しているから、ずっと言えなかった。以前、俺の浮気を誤解させてしまった時も、コレットのせいだったんだ」

「えっ?」

「コレットは俺みたいな騎士タイプの男が好きらしくて、ずっと言い寄られていた。俺が受け入れなかったから、その腹いせに、俺に好意を持つ後輩の令嬢達を唆して、あんなことになったんだ」

「嘘よ。コレットは……」


 フィリエルが私に視線を伸ばそうとしたけれど、ガスパルはそうさせまいと声を張った。


「嘘じゃない。コレットは裏では君の事を笑っていた。何も知らない箱入り娘だって。それに兄の事も、病弱そうでタイプじゃないって……。俺はそれが許せなくて――」

「もう嫌っ! 何も聞きたくないわっ」


 フィリエルが両耳を手で閉ざし泣き崩れると、廊下で様子を伺っていたサリアが現れ、フィリエルを連れて出ていった。


「ご、ごめんなさいっ。お姉様が恐くて、私、何も言えなくてっ」


 泣き出したヒルベルタを慰めてくれたのはダヴィア侯爵だった。侯爵は私を害虫でも見つけた時のように睨み付けると、ヴェルネル様に怒声を浴びせた。


「ヴェルネルっ。だから何度も言っただろう! お前の婚約者はヒルベルタにしろと。このままではラシュレ公爵と破談になるぞっ。これで諦めがついただろっ」


 要するに、皆さん口裏を合わせての茶番という事で間違いないようだ。私は割りと冷静にそう判断した。


「兄様……申し訳ございません」

「……ガスパル。本当なのか?」

「ああ。俺はコレットに襲われたっ。本当だ」

「……皆様。今日はお帰りください。ガスパルが倒れたのでパーティーは取り止めます」


 ヴェルネル様は俯いたままガスパルに歩み寄ると、彼を背中に担ぎ上げて私へ言った。しかし、ダヴィア侯爵は不満そうに口を尖らせていた。


「ガスパルの都合で取り止めることは出来ない。元々婚約者はヒルベルタのつもりだった。その女だけ追い返して、発表してしまえば良いだろう」

「父上。……ヒルベルタ嬢のドレスですが、私の趣味ではありません。婚約者として隣に立たせたくありません。――失礼します」


 ヴェルネル様は淡々と述べると一礼して、部屋を出た。ダヴィア侯爵とヒルベルタは顔を見合わせると首をかしげた。


「ヒルベルタ。そのドレス似合っているぞ。しかし、今日は帰りなさい。後日、ヴェルネルにドレスを贈らせよう」

「は、はい。分かりましたわ。お義父様」

「そうだ。コレット。君との婚約は破棄させてもらう。いや、そんな話は元々無かったのだがな。ヴェルネルの思い違いで君にも勘違いをさせた。しかし、ヒルベルタと婚約を結べば、これからはキールス家と親戚関係になる。君もキールス家の人間ならば、交遊関係は気を付けたまえ」


 嘲笑うかのような厭らしい笑顔に寒気がして、何を言っても無駄だと分かっていたのに、口が勝手に動き始めた。


「……それは、ガスパルにお伝えした方が良いかと存じます」

「ふんっ。生意気な小娘がっ。男と女では立場が違うっ」


 ダヴィア侯爵は顔を真っ赤にしてそう吐き捨てると、挨拶もなく出ていってしまった。侯爵にも後ろめたいことがあるのかもしれない。

 あんな人の義理の娘にならなくて良かったんだ。

 そう思えば、少しだけ胸の痛みが引いた気がした。 



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