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006 泣き落とし

「ごめんなさい……は?」

「……くそっ」


 私の下でガスパルが悔しそうに声を漏らした。


 今、私は床に仰向けに倒れたガスパルの上に乗り、膝で彼の手を踏みつけ身動きを取れなくしている。


 剣を抜こうとした手を蹴り飛ばし鞘に納めさせ、足を払い床に転ばせてから、腹部にヒールをめり込ませて黙らせた。そして悶絶しているところへ馬乗りになることで行動を奪ってやった。


「私を襲う? 私に勝てもしないのに、こんな事をして婚約を破棄させようと言うの?」

「……ああ。そうだよ。――兄様は、コレットが病弱で淑やかな令嬢だと思ってる。本当は自分の兄を剣で打ち負かすほどの暴力女なのになっ」

「それは……」


 ガスパルは知っている。

 小さい頃、私が兄を慕い一緒に剣を習っていたことを。


 でも八歳の時に、私は兄に勝ってしまった。

 それまで優しかった両親も兄も、私への態度が一変した。

 全部私が悪いんだ。女の癖にでしゃばるから。


「コレット。フィリエルがお前の本性を知ったらどう思うだろうな」

「や、やめて。私はもう昔の私じゃないわっ」

「今もこんな強いのに? キールス家では煙たがられる存在の癖に……。ふざけんなよっ」

「どうして、家の事を……」


 その時、扉の方から足音が聞こえた。

 この状況を見られるのは不味い。

 ガスパルが私を襲ったことにはならないだろうけれど。


 私が立ち上がりスカートを整えていると、自由になったガスパルは床から立ち上がることなく身体だけ起こすと、懐から取り出した何かを口に含み、上着を脱いでタイを外した。そしてシャツのボタンを開け始める。


「な、何をしているのっ!?」


 私の問いにガスパルは不適な笑みを溢した時、部屋の扉が開いた。

 最初に部屋に飛び込んできたのはフィリエルだった。


「コレットっ。ヒルベルタが可笑しな事を言うのっ。――これは、どういう状況ですの?」


 乱れた服装のまま床に倒れるガスパルと、立ち尽くす私をフィリエルは交互に見やり戸惑った。


「フィリエル。ガスパルが勝手に――」

「違うんだっ。フィリエルっ……っっ。薬を盛られて……身体が」

「ど、どうしたの?」


 身体を起こすことが出来ない様子のガスパルに、フィリエルが駆け寄る。

 後から部屋に入ってきたヴェルネル様は暗い表情でガスパルに視線を向け、その後ろにはダヴィア侯爵様と、何故かヒルベルタの姿があった。


「やはり、ヒルベルタの言うことが真だったようだな」


 ダヴィア侯爵がそう発言すると、フィリエルが声を上げた。


「そんなはずありません! 言いにくいことですが、コレットはガスパルの事を良く思っておりません」

「フィリエル……それは、違う。俺は今、近衛騎士を目指していて、ライアス様に稽古をつけていただいているんだ。その時……何度もコレットに関係を迫られて。婚約するなら俺とが良いって、既成事実さえ作ればって。それで無理やり……」


 ガスパルは俯き言葉を濁すと悔しそうに泣き始めた。

 泣き落としなんて馬鹿らしい。そんな事を言っても、フィリエルが信じるはずがない。

 でも、フィリエルがガスパルの涙に弱いことを、私は知っていた。


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