015 やりがい
「何かさ。一瞬で終わっちゃったね」
「そうね。ディオさんにお伝えしてから、メルヒオール様のところに行きましょうか」
試しに一本の剣に魔法を施してみて、いい感じだったので他の剣は一度に魔法をかけてみた。元々剣は綺麗に磨かれていたので作業は簡単なものだった。
武器庫を出ると入ったばかりの新米騎士達が汗を流しながら素振りをしていた。素振り千回。そんな声がさっき聞こえてきたので、その最中だろう。
「凄いね。ボクもやりたいな」
エミルが瞳を輝かせて呟くと、監督をしていた中堅騎士風のお兄さんが、笑顔でこちらに近づいてきた。
「君はメルヒオール様の知り合いのお子さんだったかな?」
「うんっ。あ……はい!」
「ははっ。いい返事だな。少しやっていくか?」
「「はい!」」
勢い余って私まで返事をしてしまい、ディオさんは笑顔のままフリーズしてしまった。
「ん? 君は?」
「あ、私はエミルの家庭教師のコレットと申します。私も騎士様に憧れていて……」
「そうか。俺はディオだ。よろしくな。隣国では女性も活躍していると聞くからな。――そうだ。武器庫の剣を手入れしてくれたのだったな。見せてくれるか?」
「はい」
ここの人達は話が分かる人ばかりみたいで、ホッとして、私はエミルに手を引かれながら武器庫へと向かった。
◇◇
「あ。ジンクさんは筋力があるのでもう少し重くしますね」
「ライさんは真っ直ぐ深く振り下ろしてください」
私は何故か新米団員達に助言を求められ、一人ずつ能力に合わせて剣を調節している。
武器庫で剣を見せた後、試しに団員さんに素振りをして貰うことになった。
そしたらエミルも一緒にやりたいとはしゃぎ、ディオさんに素振りを見て貰い、筋がいいと誉められていた。私もエミルが誉められたのが嬉しくて、姿勢が良くて身体の軸がしっかりしている事を誉めると、何故か新米団員の一人が自分はどうですか。と聞いてきたのだ。
一人に助言をしたらもう止まらなかった。
次から次へと名乗り出て来て、みんなの熱気に押されている。
でも、私の言葉をこんなに真剣に聞いてくれるのが嬉しくて、みんなエミルみたいに可愛く見えた。
そんな彼らの声が急に止んだかと思うと、後ろから声がした。
「何をしているのだ?」
何気ないメルヒオール様の一言で、その場にいた新米団員達は凍りついた。
「ひぃっ。ふふふふふふ副団長っ」
「メルヒオールさんっ。見てみて! やっぱりこの剣ボクにぴったりだよ!」
笑顔でメルヒオール様へ駆けていくエミルを、ディオさん以外の人達は目を丸くさせて見ていて、そっちは危険だぞって声が微かに聞こえてきた。
気持ちは分かる。メルヒオール様からは危険なオーラしか出ていないもの。
ディオさんはメルヒオール様がエミルに気を取られている隙にと、私の背中を押して新米団員達の輪から押し出した。
「悪かったな。メルヒオール。コレットちゃんとエミルをちょっと借りた……って、睨むなよ。今返す。はい返した」
「気安く呼ぶな。触るな。いつまでも来ないから来てみれば……」
「メルヒオール様。お待たせして申し訳ありませんっ」
私が頭を下げると、他の団員さん達がズラっと並んで地面に頭をつけて謝罪し始めた。
「も、申し訳ございませんっ。コレットさんは悪くありませんっ。全て自分達が未熟だった故に――」
「弁明などいらん。そっちで素振りの続きをしていろ」
「はいぃっ」
あんなに脅えて可哀想に。でも、素振りって言われて団員達は安心しているみたいだった。
「ところでディオ。剣はどうだったか?」
「へ? ああ。凄くいいぞ。試しに振ってみたらさ。コレットちゃんが良い助言をしてくれるから、各々の団員達に合わせて微調整してもらってたんだ」
「そうか。無理はしていないか?」
「は、はい。ですが、まだ調整できていない方もいらっしゃって……」
良かった。勝手なことをしてしまったかと少し不安だったけれど、その心配は必要なかったみたい。もしかしたら、メルヒオール様はこうなることを分かっていたのかもしれない。
「……ならば、それは後日にしよう。午後は予定があるとハミルトンから聞いている」
「あっ。そうだ。フィリエルさんのところに行くんだ!」
「そうだったわ。楽しくて忘れてしまっていたわ」
「ふっ」
エミルと私を見てメルヒオール様が鼻で笑った。
どうせそんなことだろうと思っていたような顔で。
でも、それを見てディオさんは驚いて固まっていた。
「どうかしたか?」
「いや。何でもない。えっと……コレットちゃん。また今度よろしく頼むよ。 エミルもまた来いよ」
「うん!」




