014 頼み事
翌朝、エミルは今までにないほどご機嫌だった。
お祭りのことを楽しみにしているのかと思って理由を尋ねると、意外な言葉が返ってきた。
「今日ね。騎士団の訓練所に遊びに行くんだ!」
「遊びではない。見学だ。コレット、君に頼みたいことがある」
「私にですか?」
「ああ。武器の手入れを頼みたい。食事が終わったらエミルと二人で訓練所の門前に来てくれ」
「はい」
メルヒオール様が食事を終えて出ていくと、レンリはすぐに私の隣にやってきた。
「武器の手入れとは、どういう事ですか?」
「さぁ? どうしてかしらね?」
「昨日ね。メルヒオールさんの武器コレクション見せて貰ったんだ! 見て、ボクの剣! コレット先生とお揃いなんだ」
「お揃いとは?」
エミルは腰に下げていた黒檀の剣を自信満々に見せると、レンリは笑顔で私に尋ねた。目が笑ってなくて怖いのですが。
「私も……頂いたの」
「私もじゃないですよ。怪我とかしないでくださいよ」
「しないわよ。ねぇ。レンリは私が剣を振り回していたら嫌?」
「そりゃあ振り回していたら嫌ですよ。僕、受けられませんし」
「そう……」
一緒に出来ないから、いつも怒っているのかしら。
エミルも私と同じ事を考えていた。
「じゃあ、レンリ先生の分も借りてこようよ」
「僕は良いですよ。向いてないの分かってますし、苦手なんですよ。痛いのが」
「痛いの苦手なの? だから回復魔法得意なの!?」
「どうですかね。――あ、今日の午後なのですが。フィリエル様が三人で本館に遊びに来ないかと仰っていました。昨日二人がいない時に誘いに来たのです。先日割ってしまったティーセットを新調したいそうで、屋敷に商人を呼ぶので一緒に選んで欲しいそうです」
「ハミルトンさんには……」
「許可してくださいました。ハミルトンさんはフィリエル様には弱いみたいで、僕やコレットと一緒だとフィリエル様が楽しそうにしているので、時間があるときは一緒に過ごして欲しいそうですよ」
レンリは迷惑な話ですけど。と小声で漏らしていた。
◇◇
訓練所の武器庫にはボロボロの剣が山積みにされていた。どれも綺麗に磨いてあって大切に使われていたことが分かるが、刃こぼれが酷い。
「この剣を訓練用に使いたいのだ。刃が折れないように保護と、鉄の剣のような重さが欲しい。今、経費削減が課題なのだ。出来るだろうか?」
「はい。やってみます。とても大切に使ってらっしゃるんですね。剣も喜んでいると思います」
「そうだな。俺は奥の施設で訓練を指揮してくる。終わったら、外で新米騎士を監督しているディオに伝えてから、そこまで来てくれ。出て真っ直ぐ進めば辿り着く」
「承知致しました」
「コレット先生。ボクも手伝うよ」
「エミル。頼んだぞ。では、後は任せた」
メルヒオール様はエミルの頭をくしゃっと撫でると、武器庫を後にした。
結構大量だけれど、その分やり甲斐があるし、頼って貰えて嬉しかった。
それに何より、剣に囲まれてて幸せである。




