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【コミック版配信中】妹の召使いから解放された私は公爵家の家庭教師になりまして  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 公爵家の家庭教師になりまして、平和な日常に笑顔が溢れてしまいます
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幕間(ライアス)

「最近調子が悪いようだな。何かあったのか?」


 今日、上官であるガードナー侯爵にそう聞かれた。  

 否定はしたものの、最近剣の調子が悪い。


 剣を握っても、手にしっくりこない。

 今まで愛用してきた剣では無いかのように居心地が悪かった。

 剣だけではない。

 体が重く、動きが鈍くなったように感じる。



 ガスパルの事で心労が溜まっているせいだろうか。

 それとも、ずっといなくなればいいと思っていた妹が、本当にいなくなったからだろうか。


 父はずっとコレットを邪魔に思っていた。

 でも、初めにそうしたのは俺だ。


 昔は、俺の後をついてくるコレットが可愛くて仕方なかった。あいつが俺を越えるまでは。


 それを両親に話したら、コレットは物置に閉じ込められた。

 いい気味だった。

 だが、両親に責められ、あいつは変わった。

 剣を握ることはなくなり、俺の後も追わなくなった。


 それはそれでムカついて、使用人のように扱った。

 ヒルベルタは俺の真似をして、姉をこき使い依存しきり今に至る。


 らしくない顔で、らしくない笑顔で俺に尽くそうとするコレットを見るのが毎日嫌だった。

 だから、ヴェルネルがもらってくれるというならば、よい話だと思った。ヴェルネルは誠実でいい奴だ。


 しかし、それは茶番で、正式な婚約者はヒルベルタにしたかった両家の親の企てだった。

 ヴェルネルは自分の父に酷く嫌われていたから、嫌がらせだったのだろう。


 つくづく運のない妹だ。だから父がコレットを追い出そうとしていると知った時、いい機会だとも思った。

 これでコレットはこの家から解放されるのだから。




「使えないわねっ。もういいからあっち行って!?」


 階下から花瓶の割れる音と妹の金切り声が聞こえる。また使用人に当たっているのだろう。

 父は、良い人材が来るようにと給金を上げて人を呼び込んでいるそうだが、ヒルベルタが満足することは無く、毎日少なくとも一人は屋敷を追い出されている。


 しかし、それでも父の懐は温まるので、よしとしているようだ。


 ヒルベルタから欠陥品と烙印を押された使用人は、父の元へ連れていかれ仕置きを受ける。

 そしてその後は、裏門に捨てられる。

 俺は知っていた。裏門にはいつもの馬車が待ち構えていて、捨てられた使用人へ甘い言葉を囁き、何処かへ連れ去っているということを。

 中には無理矢理連れていかれる者を見たこともある。俺の部屋から、裏門がよく見えるのだ。


 馬車で連れ去った数日後、よく出入りしている宝石商から、父は紹介料だと言って金を受け取っていた。


 たが、自分の娘まであの商人に売るとは思っていなかった。コレットが追い出された日、いつもの馬車が裏門に止まっていた。

 コレットは世間知らずだから、街中で話しかければすぐについていくだろうと、商人と打ち合わせをしている姿を目にした。父も商人も下衆だ。


 だから俺は、使用人に鞄を渡すことにした。

 中には護身用のナイフを入れておいた。

 コレットならこれでどうにか切り抜けられるだろう。もし出来なかったとしても、これで貴族の娘としての誇りを守ることが出来る。

 どちらにせよ。このナイフはコレットを救うだろう。


 しかし、レンリ=ベルトットによって受け渡しは失敗に終わったそうだ。父は金が入らなかったことに憤慨していたが、ダヴィア侯爵とよい取引をしたらしく、その後はご機嫌だ。

 コレットがいなくなったお陰で、使用人の入れ替わりが激しくなり懐も温かいからだ。




 コレットは今、レンリ=ベルトットと一緒にいるのだろうか。そのことを耳に挟んだ時、少しだけホッとした反面、この国との繋がりが残ることを懸念した。

 それにあんなひ弱そうな執事がコレットを守れるとも思えないし、没落しかけの貴族だとの噂だから、金目当てでコレットに近づいたのだろう。

 コレットなら返り討ちにしているだろうけれど。


 裏門を見ながら考え事をしていると、部屋の扉がノックされ、俺の返事も待たずに開け放たれた。


「お兄様。ガスパルを連れてきたわ! いい案があるのでしょう?」

「ああ。久しいな。ガスパル」

「ご、ご無沙汰しております。ライアス様」

「何故剣が折れていたのだ? お前のせいで俺まで恥をかいた」

「も、申し訳ございませんっ。それと……。剣のことは分からないのです」


 本当にこいつは大丈夫か?

 ダヴィア侯爵の悲願を叶えれば、ヴェルネルも自由になれると思い、近衛騎士に推薦してやったのに、何故剣が折れるのだ。

 ヴェルネルが弟の行く末を心配していた理由がやっと分かった。


「ねぇ。お兄様。どんな案ですの? 早く教えてくださいませ」

「取り敢えずそこに座れ」

「は、はいっ」


 ガスパルは緊張しながらもソファーに腰を下ろし、その隣にヒルベルタがピッタリと張り付くようにして座った。



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