表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック版配信中】妹の召使いから解放された私は公爵家の家庭教師になりまして  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 公爵家の家庭教師になりまして、平和な日常に笑顔が溢れてしまいます
49/88

010 無自覚

「コレット」

「はい?」


 読んでいる途中で、急にメルヒオール様に名を呼ばれた。視線を向けると、彼はエミルに優しい眼差しを向け、頭を撫でてやっていた。

 昼間も思ったけれど、メルヒオール様のエミルへ向ける瞳は優しい。

 フィリエルは言っていた。メルヒオール様は、エミルをお姉様の生きた証として引き取りたいのだと。

 エミルを大切にしたいという気持ちが伝わってくる。


「エミルが寝たぞ」

「あら。いつの間に」


 エミルは俯いたままメルヒオール様に寄りかかって眠っていた。メルヒオール様はエミルの頭を撫でると呟いた。


「姉にそっくりだ。姉はエミルのように人懐っこい性格だった」

「そうだったのですね。エミルにも話してあげてくださいね。お姉さまのこと」

「寂しい思いをさせてしまうのではないか?」

「その心配はありません。エミルは両親の話をすることが大好きですから。そうすることで、両親も喜んでくれるって思っているんです」


 メルヒオール様は顔を上げ、驚いた顔をして私を見つめた。


「そうか。姉と同じ事を言うのだな」

「え?」

「フィリエルが生まれてすぐ母が亡くなった。俺が二歳の時だ。小さい頃、姉は生前の母の話を良くしていた。しかし、俺はそれが嫌だった。母の記憶は殆どなかったからな。それに、会いたくても会えない人の話ほど、虚しいものはないと思っていた」


 メルヒオール様のご両親はもういない。

 エミルと一緒なのだ。

 

「あの時、姉は言っていた。母の笑顔が思い出せるから話しているのだと。俺も妹も、確かに母に愛されていたと伝えたくてそうしているのだと」

「愛されていた……」


 小さい頃、寝る前に母が本を読んでくれていた。

 私はすぐに眠くなってしまうから、本当に少しの時間だったけれど、思い返してみれば、あの短い時間の中に母の愛はたくさん詰まっていたのだ。

 全部、私が壊してしまったのだけれど。


「姉は幸せそうだったか?」

「えっ? ――私はエミルのお母様と一度しかお会いしたことがありません。ですが、エミルを見たら分かります。メルヒオール様もお分かりなのではありませんか? だから、エミルへ向けるメルヒオール様の目はお優しいのだと思います」

「……優しい? 俺が?」


 メルヒオール様の眉間がいつも通り仕事を始めた。

 さっきまでとの落差が面白い。


「あ。今はまた怖い顔ですね。ふふふっ」

「何故笑う?」

「分かりません。顔は怖いのに、あまり怖くないなって思って」

「君は……失礼だな」


 メルヒオール様はそう言って微笑んだ。

 エミルに似た無邪気な笑顔が眩しいな。


 私にもこんな笑顔を向けてくれるのだと戸惑うと同時に、昔のメルヒオール様の笑顔が重なって見えて懐かしく感じた。

 

「笑ってないで、もう君も休みなさい」

 

 メルヒオール様だって笑っていたのに、私だけ叱られるなんて納得できないけれど、まぁいいか。

 メルヒオール様は、自分がどんな顔をしているのか無自覚なのだろう。彼はエミルを優しく抱き上げると、ベッドへと運んだ。


「では、私は失礼致します。おやすみなさいませ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ