幕間(フィリエル)
レンリ=ベルトットと二人で本館へ向かうことになって、私はここぞとばかりに気になっていた事を尋ねた。
「ねぇ。コレットとは、本当のところ……どんな関係なのですか?」
「へ? 今は……同僚ですかね」
レンリは少し驚いた後口ごもり、当たり障りのない答えを言った。でも、私から見たら、二人の距離感が恋人同士にしか見えなかった。ここは聞き方を変えてみよう。
「では、エミルと出会った時は?」
「その頃は、弟という設定でしたよ」
「設定? ねぇ。レンリはどうしてコレットについて行ったの?」
「……仕事ですよ。僕はコレットの執事でしたから」
またしても、はぐらかされた。
コレットはその気は無いみたいだったけれど、レンリは違うと思ったのに。
「コレットの、ではなくキールス家の執事ですわ。どうして――」
「あの家に、コレット以外に執事として仕えたい人間はいませんでしたよ」
レンリの瞳は淡く怒りと憂いを帯び、それを取り繕うかのように切ない笑顔を付け足した。
コレットと兄や両親の間に確執があることは気づいていた。でも、コレットはそれを隠したがっているように感じたから、私はずっと見て見ぬふりをしてきた。
「ねぇ。コレットは、どんな扱いを――」
「僕から言えることはありません」
レンリはキッパリとそう答えた。
彼はとても誠実な人だ。雇い主を貶めるようなことは決して言わない人なのだろう。
確か同級で魔法学科だけれど、実家の都合で働かなければならないと聞いた。こんなところで執事なんかしていないで、ちゃんと卒業して、もっと彼を必要とする場で働けたらいいのに。
「そうだわ。レンリは魔法学科なのでしょう? ここで執事をしながらでもいいから、復学したらどうかしら。あ、でも駆け落ちしたことにされているのでしたっけ? 破局したってことにして戻ってしまったらどう?」
レンリは急に足を止めて振り向き、迷惑そうに小さく溜め息をついた。
「僕の事はお気になさらず。――着きましたよ。葉の種類はいかがいたしますか?」
「あ。ダージリンにしようかと。後、お気に入りのティーセットがあるの。ガラスの素材のものです」
「はい。かしこまりました。お嬢様」
丁寧にお辞儀すると、レンリは厨房へ入っていった。
またはぐらかされた。というより、拒絶された気がする。少々お節介が過ぎただろうか。
コレットと仲が良いから、つい私も友人のように接していたけれど、彼は執事であって私の友人ではないのだ。
厨房の裏口で待っていたけれど、少々戻りが遅いので中を覗くと、調理人のおじさんに頼んだもの以外までたくさん持たされていた。
「悪いねぇ。メルヒオール様が朝食を向こうで召し上がるそうだから、必要なものが増えたんだよ」
「大丈夫ですよ。一度には運べませんが、まとめて出しておいてくだされば運んでおきますので」
「おお。助かるよ」
どうやら兄のせいで仕事を増やしてしまったみたい。
「私も手伝うわ」
「はい? ご遠慮ください。これは僕の仕事ですから」
レンリは至極迷惑そうに私を避けて後退った。
二人でやれば二往復くらいで終わりそうなのに。
「少しくらい良いでしょう? それに、元々私と貴方は同級で学友じゃない」
「今は休学中ですから」
「……頑固ね。なら、コレットみたいに私と友人になりましょう? それなら良いでしょう?」
「僕は今、ラシュレ家の執事として働いています。ここをクビになる訳にはいかないので、ご遠慮させていただきます」
「そう。そんなにコレットの傍にいたいのですね」
「はい。ご想像にお任せ致します」
レンリは呆れたように踵を返すと、足早に東館へ向けて歩き出し、振り返らずに言った。
「コレットを信じてくれてありがとうございます。これからも、良いご友人でいてあげてくださいね」
「そ、そんな事……言われなくても当たり前ですっ。私も持つわ」
「へっ? ちょっ……」
私が強引にティーセットの鞄を持とうとしたから、ガシャンと音を立てて地面に落ちてしまった。
みるみる青ざめていくレンリは、恨めしそうに私を睨んでいた。




