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【コミック版配信中】妹の召使いから解放された私は公爵家の家庭教師になりまして  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 公爵家の家庭教師になりまして、平和な日常に笑顔が溢れてしまいます
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幕間(メルヒオール)

 溜まりにたまった執務をこなしていると、ハミルトンが報告へきた。久々に子供を相手にしたからか、ハミルトンは疲弊していた。


「エミルは寝たか?」

「いえ。一人は嫌だと我が儘を言い先程まで泣いておりました」

「……今はどうなのだ?」

「コレット様が読み聞かせをしてくださっております」

「そうか。姉上は深夜に亡くなったそうだ。エミルは夜中に異変に気付き、一人で周りの者に知らせに走ったと聞いている」

「そうでしたか。いささか厳しくし過ぎたでしょうか」


 ハミルトンは姉の執事だった。

 姉が産まれこの家を出るまでずっと。

 姉の手紙を見て一番喜び悲しんだのはハミルトンだろう。


「いや。間違ってはいない。後で俺が様子を見に行く。下がって良いぞ」

「はっ。お休みなさいませ」


 ◇◇


 執務を切り上げ、東館に足を運んだ。

 二階に上がろうとした時、階段の手前でレンリ=ベルトットと遭遇した。

 彼は俺を見るなり、驚いて一歩後ろへ飛び退いた。


「め、メルヒオール様?」

「エミルの様子を見に来た」

「僕もです。コレットがまだ降りてきていないのです。ご一緒してもよろしいですか?」

「ああ」


 互いにそれ以上言葉を交わすことなくエミルの部屋に入室した。部屋はシンと静まり返り、明かりは灯されたままだった。


 ベッドに横になり本を開いたまま、エミルとコレットは手を繋いで眠っていた。


「はぁ。コレットが申し訳ありません。本を開くと眠くなってしまうそうなんです。部屋まで僕が運びます」


 レンリは本を片付けコレットに手を伸ばした。

 その腕はか細く、人ひとり階下へと運ぶには心許ない。

 確か、ベルトット家は魔法使いの名家だ。


「階段から落とすなよ」


 俺の忠告に、レンリは一瞬動きを止め思案するとコレットの肩に手をかけた。


「……コレットを起こします」

「俺が運ぶ。戻ってくるまでエミルを見ていろ」

「はい」


 コレットの手を引き離すと、エミルは小さく唸り声を上げて手をさ迷わせ、その手をレンリが受け止めると、また寝息を立てて安心したように眠りについた。母が恋しいのだろう。


 コレットを抱き上げると、思ったより軽かった。病気に伏していたと聞いていたが、そのせいだろうか。昔は一緒に剣を振り回していたのに。


 長旅の疲れか、コレットはぐっすり眠っていた。

 彼女の部屋のベッドに寝かせても起きる気配すらない。


 しかし、何故コレットは国を追われたのだろうか。

 ハミルトンに調べさせたところ、コレットはヴェルネルと婚約する予定であったが、それを破棄し、レンリと駆け落ちしたことにされていた。

 

 病弱な娘が邪魔だったのか。いや。ガスパルを負かす程ということは、コレットは病気を克服したのだろう。

 それでも邪険に扱われるということは、女性なのに男を負かす程の力があるからだろうか。

 この国は根本的にそういった思想の輩が多い。


 コレットもその犠牲者なのかもしれない。

 だとしたら、彼女に何をしてやれるだろうか。


 コレットの寝顔を見ていると、何故だか俺まで眠くなってきた。夜に眠くなるのは久しぶりだ。

 父の後を継いでから、まとまった睡眠を取ることが上手く出来なくなった。

 騎士団の事や執務に追われ、ベッドで休む習慣は失われていた。横になると落ち着かずに起きてしまうことがほとんどだ。

 エミルも一人で寝られないようだった。今、エミルがどうしているか、急に気になり始め、足早に部屋を出た。


 二階へ戻ると、エミルは静かに眠っていた。レンリはずっとエミルの手を握り頭を撫でてくれていたようだ。


「メルヒオール様。ありがとうございます。エミルと一緒に寝てもよろしいですか?」

「部屋に戻れ」

「ですが……」

「お前達ではいつまでもエミルを甘やかしそうだ。しばらくは俺がここで寝泊まりする」

「はい?」


 俺がこんなことを言うのは意外だったようだ。

 目を丸くしてレンリは俺を見上げた。


「下がって良いぞ」

「は、はい。失礼します」


 レンリは不安そうにエミルから手を離すと部屋を後にした。


 エミルはシーツをグッと握りしめ涙を浮かべていた。しかし、俺が隣に寝るとコロッと寝返りをうって懐に潜り込んでくる。


 ここ数日傍で見てきたが、エミルは人懐っこくて優しい子だ。笑った顔が姉と似ていて、誰とでも直ぐに打ち解ける。

 こんな無邪気な笑顔を向けられるのはいつ振りだろうか。

 それに、こんなにベッドが心地よく感じるのも久し振りで、瞳を閉じれば、すぐに意識は落ちていった。




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