003 歓迎会
夕暮れ時、私とレンリはエミルと一緒に貸家へ戻る。
教会はとても活気に満ちた場所だった。
お祈りに来る町の人達も気さくな人ばかり。
そして子供達は、みんな好奇心旺盛で元気一杯。
「コレット先生! 明日も絶対に来てね」
「そうね。一緒に行きましょうね」
エミルにお願いされて、私は快く承諾した。
本当は私もお給金の貰える仕事に就きたかったのだけれど、シスターに聞いたところ、小麦の収穫時期まで若い女性が出来る仕事はないそうなのだ。
そんなにすぐに仕事は見つからないのだと諦めかけた時、お祈りに来た猟師のおじ様がいた。これから森に狩りに行くそうなので、私もお手伝をしたいと話していると、レンリにも聞こえてしまっていたようで猛反発を受けてしまった。
そして、レンリは私にシスターのお手伝いを薦めた。
子供達に文字の読み方や書き方を教えたり、一緒に遊ぶのはとても楽しかった。文字を教えただけなのに先生と呼ばれるようになって気恥ずかしいけれど、純粋に喜んで慕ってくれる子供達の力になれたら、それはとても幸せなことだと思う。
教会にいる子供達は皆、小麦畑に捨てられていた子だそうだ。
ここは観光で訪れる人もいないし、畑は街の塀の外に広がっているので誰でも自由に入ることが出来る。夜の内に誰の目にも触れずに捨てていく事が可能だから多いのだろう。
そういった子供が多いことから、町長さんが教会に孤児院を設け、食材や衣類など生活に必要な物を賄ってくれているそうだ。
町の人達もそれに賛同し、みんな自分の孫のように子供達に接している。
みんな互いを想い合い助け合って暮らしている。
そんな優しい町なのだと知り、もっと沢山の町の人達と触れ合いたいと思った。
貸家に戻ると、ゲインズさん夫妻と西側に住む三人が夕食を作って待っていてくれた。
長テーブルに並ぶ豪華な食事。ゲインズさんはシチューを、元漁師のラッヘさんは魚料理を用意してくれて、駆け落ちとの噂の若いご夫婦のミリアさんとゴートンさんはラズベリーパイを焼いてくれていた。
エミルはそれを見ると瞳を輝かせてテーブルに飛び付いた。
「うわぁ! すごぉいっ!」
「今日は二人の歓迎会よ。困ったことがあったら、本当の家族だと思って何でも聞いてくださいね。さぁ、こっちに座って」
ゲインズ夫人が椅子を引いてくれて、エミルに手を引かれて私とレンリは席に着いた。
こうしてテーブルを囲んで食事を誰かと共にするのはいつ振りだろう。それに、今日一日この町で過ごしただけで、沢山の人と会話した。
みんな気さくで優しくて、心が暖かくなった。
「コレット先生、泣いてるの?」
「ぇっ? 本当だわ。とても嬉しくて……」
私の涙を、皆は温かく笑顔で受け入れてくれて、美味しい料理と和やかな会話を楽しみながら夜は更けていった。
つい食べ過ぎてしまい、部屋に着くなり私はベッドに横になった。充実した一日であった分、疲労は大きなもので、すぐにでも寝てしまいそうだったけれど、レンリはベッドで休むこともなく腰に剣を差してローブを羽織っていた。
「出掛けるの?」
「これから仕事ですので。念の為、誰かが出入りしたら分かるように扉に結界を張っておきますから、ぐっすり休んでくださいね。朝には戻ります」
レンリの仕事は夜の町の警備の仕事だ。
少し前までゴートンさんが勤めていたのだけれど、もうすぐお子さんが生まれるので昼間の仕事に変えたそうだ。
平和な町なので、特別鍛えられた人でなくても誰でも出来る仕事だけれど、深夜の勤務のため体力的に若い男性の力が求められているそうだ。
「今日からだったのね。一日中動いていたのに、朝までなんて大丈夫なの?」
「はい。気にせずお休みになってください。では」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
レンリが部屋を出ていくと、扉が一瞬だけ光った気がした。結界がどうこう言っていたけれど、どんな魔法なのかしら。
私はレンリから借りた魔法理論という本を開いたけれど、目次を読んだだけで睡魔に負けてしまい、あっという間に夢の中に落ちていった。




