002 お隣さん
病気の母親と子供の二人暮らしだと聞いていたけれど、こんな小さい子だとは驚いた。
少年は紺碧色の瞳をキラキラ輝かせながら物珍しそうに私とレンリを見上げている。
人懐っこくて可愛らしい子だ。
「こんにちは。私はコレットよ」
「僕は弟のレンリです。今日から隣に越してきたんだ。よろしく」
「よろしく! ボクはエミル。母様と二人で暮らしてるんだ。でも、母様は今、眠っているから。元気な時に、また挨拶してね!」
「分かったわ。何処かお出かけかしら?」
「うん。これから教会に行くんだ。シスターが本を読んでくれるんだよ」
「それは素敵ね。一人で行くの?」
「そうだよ。僕もう五歳だもん! じゃあねっ」
エミルは元気よく外へ飛び出していった。
まだ五歳なのにとてもしっかりした少年だ。
貸し部屋は外観よりも綺麗で広かった。
寝台が二つ。鏡台とワードローブに、テーブルと椅子が二脚。
手持ちのお金は、この部屋を半年借りられる分くらいあったらしい。商人のおじさんの言っていた通り格安だと思う。
街で暮らすにはもっとお金がかかるので、私も早く仕事を見つけたいところだけれど、レンリは自分の稼ぎだけで十分だと言い張っている。
私がずっと屋敷にいたから、何も出来ない箱入り娘だとでも思っているみたい。
そうじゃないって事を証明しなくては。
荷物の片付けを簡単に終え、レンリと二人で街を一周することにした。
貸家を出て左手には森が広がり、右手には古い石造りの家が建ち並んでいる。町の中心を流れる川のせせらぎが耳を掠め、長閑な良い町だ。
高齢化が進んでいると言っていたけれど、宿を出るとすぐに子供達の元気な声が聞こえてきた。
その出所は、森の中の教会からだった。
お隣さんの男の子もいるかもしれない。私が声のする方へ目を向けていると、レンリが尋ねた。
「教会、見ていきますか?」
「ええ。エミル君もいるかもしれないわね」
「そうですね」
◇◇
教会には子供達が沢山いた。教会の前の草原で遊んでいるのだけれど、ざっと数えて三十人以上いる。まだヨチヨチ歩きの赤ちゃんから、私より少し年下ぐらいの女の子もいた。しかし、大人はシスター一人しかいない。
「あー! コレットさんとレンリさんだ!」
元気よく声をかけてくれたのはエミルだった。
そしてそれを皮切りに、子供達の関心は私とレンリへと一斉に向く。
「誰々っ!? 遊んでくれるの?」
「エミルの友達?」
「本読める?」
「駆け落ちしたの?」
「お兄ちゃん剣出来る?」
あどけない声で質問責めにされていると、シスターが皆を宥めてくれた。
「皆さん。お客様がお困りですよ。先ずは自己紹介からしましょうね」
「「はーい!」」




