001 旅のパートナー
私はレンリと共に隣国リンデル王国へ向かう事を決めた。
一人が不安だったこともあるが、レンリは私に魔法を教えてくれるとも言ってくれて、魔法理論と書かれた本を貸してくれた。
それから、私を守りたいとも言ってくれた。童顔で少し頼りない雰囲気の執事見習いだと思っていたけれど、それは大きな間違いだった。
とても頼りになるし、昔からの友人のように話しやすい。
レンリが提示した通り、私の進みたい道が決まるまで。それまででいいから、レンリに隣にいて欲しいと思った。
レンリは執事であることに何故かこだわっていたけれど、それはご遠慮いただいた。貴族ではなくなった私の方こそ、レンリのことをレンリ様と呼ばなくてはならないと話すと、お互い敬称なしで呼び合うことに落ち着いた。
道中、互いのこれまでの生い立ちなんかを話している内に、私はこれから自分がしたいと思っていることもレンリに話していた。
そして、思いも寄らぬことを知った。
なんと、隣国の騎士団は、他国の人間は入団できないそうなのだ。一つだけ方法があるが、リンデルの人間と婚姻を結びその国の人間になることだとか。
「それは、難しいわね」
私は二度とキールス家の名を名乗るつもりはない。
身元不明の流れ者と婚姻を結ぶ変人なんて早々いないだろう。
「そうですね。それに、コレットはリンデルの事を何も知らない訳ですから。まず大前提として、ちゃんとこの国を知った上で、騎士団に志願すべきだと思います」
レンリの言う通りだ。私はただの憧れで騎士になりたいと言っているだけで、国の為でも誰かの為でもない。浅はかな自分が恥ずかしい。
「レンリって……大人だわ」
「ふ、普通ですよ。えっと、所持金も限られていますから、まずは小さな村で生計を立てて、お金がある程度貯まってから、騎士団を保有する街へ引っ越しましょう」
「はい!」
私は、とても優秀な旅のパートナーを得ることが出来たようです。
◇◇
それから一週間後。
私達を乗せてくれた行商のおじさんの紹介で、パラキートという小さな町に住むことにした。
広い麦畑を馬車で進むと、丘の上に村が見えてきた。この村は特に名産と言える場所も物もなく、過疎化が進んでいて、他所からの流れ者が多く誰でも大歓迎らしい。
私達が部屋を借りたのは元宿屋の一室だった。
経営していた夫婦が年老いてしまい、宿屋は廃業。
今は部屋を長期で貸し出し、一階の食堂も共用だが自由に使っていいそうだ。二階には大家さんであるゲインズさん夫妻が住んでいて、一階は四部屋あり、東側の一室を借りることになった。
西側の二部屋には、現役を引退した漁師のおじさんと、駆け落ちした商家の娘とその恋人が住んでいる。
ゲインズさんに、私とレンリも駆け落ちだと思われていそうだったので、私はレンリの事を咄嗟に
「弟です!」
と言ってしまった。
「なら、部屋は一緒でいいわね。良かったわ。丁度一部屋しか空いていないのよ」
「あ……はい」
レンリはそうなることを予想していたそうで、夜の仕事を見つけておいたのでご安心くださいと言われた。
ここを紹介してくれた商人のおじさんに、仕事の相談もしていたらしい。
何と準備のよろしいことで。私一人だったら、まだ国から出ることもできていなかっただろう。
大家さんとの話し合いが終わり、西側の二部屋に挨拶へ行った後、東側の私達の部屋へ向かった。
私達の部屋は奥の角部屋になる。お隣さんに挨拶をしようとノックをしかけた時、突然扉が開いた。
「うわっ。だ、誰!?」
中から出てきたのは小さな少年。
短い金髪に大きな紺碧色の猫目の男の子だった。




