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013 平凡な街並み 

 キールス家の屋敷は、小高い丘の上にある。

 屋敷を出て坂を下ると、花屋と仕立て屋があって、その隣にもお店があった気がしたけれど……それは無くなっていて、平凡な街並みが広がっていた。

 昔見た時より、活気がないような……。



 私が街を眺めていると、仕立て屋の前に停まっていた馬車から、身なりの良い初老の男性が降り、声をかけてきた。


「そこのお嬢さん? もしかしてキールス家から追い出されたのかい?」

「へっ?」

「いやぁ。ここだけの話ですが。――あそこのお嬢様、酷い我儘でしょう? 気に入らないとすぐに喚いて父親に言い付ける。お嬢さんも旦那様に殴られて追い出されたクチでしょう?」


 男性は私の頬を見て言った。

 父に殴られた事を忘れていた。

 多分、腫れているのだろう。


 それにこの人は、私を解雇された使用人だと思っているみたい。領民にこんな事まで知られているなんて、何て恥ずかしいのだろう。


「良い仕事先があるので、紹介しますよ?」

「えっ? でも。私は、この国を出ようと思っていますので、結構です」

「ああ~。分かりますよ。こんな領主が治める所に居たくないですよね? 隣のリンデル王国のお仕事も紹介できますよ? 前に辞められたメイドさん達も何人もご紹介して、雇い主様からもご満足いただいております」

「まぁ。そうなの? どんなお仕事かしら?」

「貴族のお屋敷でご奉仕するだけのお仕事ですよ。取り敢えず馬車へどうぞ。実際にご覧になってお決めいただければ良いですから」


 貴族の屋敷なんて御免だ。

 私は違う世界で生きてみたいのだから。


「貴族ね。それなら止めておくわ。声をかけてくださり、ありがとうございました」

「えっ? ちょっ。お嬢さんっ!?」

「きゃっ」


 男性が私の腕を握り力強く引き戻された。予想外の力に驚いていると、先程とは全く違う卑しい瞳を私に向けていた。


「あんたなら高く売れる。一緒に来てもらおう」

「離しっ――」


 振り払おうとしたら、男性の方から手を離された。体勢を崩した私は、背中から誰かに支えられて、振り向くと赤い髪の青年の横顔が視界に入った。


「れ、レン――」


 名前を呼ぼうとしたら、レンリは小さく首を横に振って微笑み、男性へ見たこともないような冷たい視線を向けた。


「嫌がる女性に無理やり何をなさっているのですか? 揉め事でしたら、自警団をお呼びしましょうか?」

「な、何でもないっ。その小娘が無礼なことを言っただけだっ。失礼するっ」


 男性は言い捨てると逃げるように馬車に乗り込み去っていった。


「コレット様。大丈夫ですか?」

「え、ええ。ありがとう」

「あれは人身売買の類いですね。自警団に通報しておくので、ちょっとお花でも見て待っていてください」


 レンリは花屋を指差すと中心街へ向けて走っていった。


 助けてもらってしまったけれど、何故レンリがいたのだろう。

 それに、待っていてって……どういう事かしら?

 

 


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