おまけ エミルと手紙(エミル視点)
母と過ごしたパラキートの町を離れ、ラシュレ家に迎えられてから五年が経った。
最近、パラキートに、昔騒動を起こした町長の息子が帰ってきたらしい。領主であるサウザン侯爵のもとで厳しく教育された彼は、町の人々の信頼を得るべく、みんなのお手伝いを頑張っているとか。
久しぶりに届いたパラキートのゲオルグ夫妻の手紙には、そんなことが書かれていた。
いつもはコレット先生が返事を書いているけれど、今回は僕が書こうと思う。文章だって、結構うまく書けるようになったし、書きたいことがあるんだ。
ここへ来てから楽しいことばかりだけど、今までで一番嬉しい出来事があった。
僕に従弟ができたのだ。
それも、従弟が一気に二人もできたんだよ。
全く、コレット先生とフィリエルさんは、本当に仲が良くて羨ましい。といっても、ここ数年、僕はフィリエルさんに会っていない。コレット先生はたまに近衛騎士のお仕事で王女様の護衛として他国を訪れる時に会っているみたいだ。
僕は毎月フィリエルさんから送られてくる手紙と、フィリエルさんのご主人が描いた絵しか見ていないけれど、幸せに暮らしていることだけは確かだと思う。
ゲオルグ夫妻はフィリエルさんのことを知らないかもしれないから、いっぱい書いておかなくちゃ。
フィリエルさんは僕の叔母で、学業が優秀で他国へ留学した。その留学先で知り合った画家の青年と恋に落ちて、結婚したんだ。
その青年は、七つの山を越えた先にある海辺の王国の王子様らしい。以前から交流のある国で、かつてはその国の王女様との婚約話もあったとか。
フィリエルさんのご主人は気ままな第七王子様らしくて、世界中を巡って、素敵な場所の絵を描いて暮らしている画家さんだ。
フィリエルさんも一緒に世界中を旅している。
このところ、毎月の手紙が半年くらい滞っているなと思っていたら、どうやらご主人の国に一時帰国した時に、お腹に赤ちゃんがいることが分かって、そのまま留まって出産していたそうだ。
驚かせたくて内緒にしていたと、フィリエルさんからの手紙に書かれていた。
そして、今回送られてきた絵は、フィリエルさんが赤ちゃんを抱っこしている絵だった。いつもは豪快なタッチの絵なのに、それはとても繊細で温かみのある絵だった。
いつも送られてくる絵は「くだらない」と見向きもしなかったメルヒオール様だけど、その絵はとても気に入ったみたいで、みんなが集まる食堂に飾っている。
「あっ、そろそろ行かなきゃ」
僕は書きかけの手紙を机に残したまま部屋を飛び出した。
騎士団の施設の先には誰でも通うことができる小さな学校があって、そこへ行くためだ。
僕はそこで、子ども達に剣術を教えている。
ずっと前だけど、アーロン殿下に国外へと連れていってもらった時に見た騎士団の養成所を参考に、メルヒオールさんが建ててくれたんだ。
勉強だけじゃなくて、おやつにコレット先生の手作りお菓子が食べられるところも人気の一つだ。
コレット先生は近衛騎士としてルーティ様の留学をお守りした後、メルヒオールさんと結婚式を挙げた。
ラシュレ領の教会で身内だけでお祝いした。
といっても、たくさんの領民がお祝いしてくれて、街はお祭り騒ぎだし、とても賑やかで、みんなに祝福された素敵な式だった。
それからコレット先生は、ルーティ様の外遊の度に、近衛騎士として同行し、各国を飛び回っていたけれど、ウィルバートがお腹の中にいることが分かってから引退することになった。
ウィルバートが生まれた後、近衛騎士の団長さんがお祝いに来てくれた。
その時団長さんが、「落ち着いたら復職してほしい」と言っていたけれど、今やルーティ様の隣にはヴェルネル様がいるから、必要ないかもってコレット先生が笑ってた。
ルーティ様は留学を終えて、休学中だった学園に戻り勉学に励み卒業し、その後ヴェルネル先生と婚約を発表したんだ。驚いたのは僕だけで、コレット先生たちはみんな知っていたみたい。
庭を横切ろうとした時、原っぱに座るメルヒオールさんが見えた。よく見ると、その隣にはベビーバスケットがある。
「あれ。メルヒオールさん?」
「おお、エミルか。今日は天気がいいな」
「うん。あ、ウィルはお昼寝中か」
可愛い僕の従弟は、ベビーバスケットでお昼寝中みたいだ。
名前はウィルバート・ラシュレ。
髪色はメルヒオールさんと同じだけど、瞳は紺碧色で丸っこくて僕とそっくりだし、鼻の形も耳の形も僕と瓜二つなんだ。
まつ毛が長くて寝ている時は女の子みたいだけど、泣き声は元気いっぱいだし、目つきがキリッとしていて、起きている時は男の子って感じなんだよね。
「可愛いなぁ。──ねぇ、メルヒオールさんは、何してるの? 勝手に連れ出して、またハミルトンさんに怒られるよ」
今もきっとどこからかハミルトンさんが目を光らせているだろうな。
今日みたいに天気がいいと、メルヒオールさんは散歩だなんだって理由を言ってウィルを連れて行っちゃうから。
でも、周りの心配をよそに、今もメルヒオールさんは呑気に枝を小刀で削ったりなんかしてる。
昔、僕が木剣を手作りしていた時みたいだな。
「ウィルバートの木剣だ」
「え? もしかして、もうウィルに剣を教える気?」
「ああ。昨日、おすわりができるようになった。そろそろいい時期だろう」
真面目な顔して何言っているのかな。
僕もウィルのおすわりを見て感動したけどさ、いい時期とは言えないと思うんだけど。
「そうかなー。コレット先生に怒られるんじゃない?」
「俺もこれくらいの頃から剣で遊んでいたと聞いた。エミルは違うのか?」
「さぁ? 覚えていないけど……母様が、赤ちゃんのころから木の枝を振り回してたって言ってたかも」
「だろ?」
メルヒオールさんはそう言って自慢げに小さな木剣を太陽にかざした。角が丸く削られていて、当たっても痛くなさそうだ。
一応、赤子に持たせられるように工夫したのかな、なんて感心していると、ベビーバスケットがモゾモゾと動き出した。
「うぁぁぁ~ん」
「お、ウィル、起きたか?」
息子へ笑顔を向け、メルヒオールさんは泣いているウィルに出来立ての小さな木剣を握らせた。
「う~?」
ウィルは木剣を握りしめると泣き止んで、不思議そうに木剣を見つめている。
「おお、気に入ったか。よし、母様にも見せてやろうな」
ウィルの反応に満足したメルヒオール様はウィルを抱き上げ立ち上がった。
「行くぞ、エミル。子ども達が待っているのだろう?」
「あ、そうだ。忘れてた」
つい、まったりしてしまった。早く行かなきゃ。
慌てて騎士団の方へと走り出そうとした時、門が開き、向こうからコレット先生が現れた。
「あっ、エミル。みんな待っているわよ。レンリが代わりに教えてくれようとしたけれど、剣なんて握ったことがないから、ちょうど差し入れを持ってきてくれていたミミが代わりに教えてくれているわ」
「えっ、ミミさんが?」
ミミさんは、レンリ先生の奥さんで、治癒魔法が得意で騎士団の治癒班を担当しているはずなんだけど、剣も扱えたのか。小さくて大人しい人だと思っていたのに、人は見かけによらないものだ。
「ええ。よくお兄さんの練習を見ていたから得意なんですって。あら、ウィルったら何を持っているの?」
コレット先生が駆け寄ると、メルヒオールさんは自信満々にウィルを掲げてみせた。
「メルヒオールさんお手製の木剣だって、まだ危ないよね」
「まぁ、素敵。私も作ろうかしら」
コレット先生が喜ぶと、メルヒオールさんがドヤ顔でこっちを見た。
まぁ、そうだよね。コレット先生は無類の剣好きだもん。
「なかなかの素振りだ。この先が楽しみだな」
「ウィル、気に入ったのね。母様も父様も、剣が大好きなのよ」
「あうー!」
ウィルは、メルヒオールさんとおんなじ顔で、コレット先生に向かって木剣をブンブン振り回している。
似た者同士なのは、ウィルも同じなのかも。
僕にもこんな時期があったのかな。
多分、あったんだろうな。
僕もいつかメルヒオールさんみたいになりたいな。
強いだけじゃなくて、優しくて温かい人に。
「じゃあ、僕行ってくるね」
「ええ。アップルパイが焼けたら持っていくわね」
「うん」
手紙にはウィルのこともたくさん書こう。
ああ、早くフィリエルさんの赤ちゃんとも会いたいな。
そうだ。フィリエルさんにも手紙を書いてみよう。
おわり
こちらのお話で、後日談も最後となります。
最後までお読みいただきありがとうございました!
また新作(他サイトで随分前に投稿済みだけど……)の投稿をこちらでも始めたので、そちらもお楽しみいただけると嬉しいです!
それが投稿し終わったら、
中華風ファンタジー作品を投稿予定です!
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