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011 見送り

 廊下へ出ると、メイドから小さな鞄を渡された。


「お嬢様。こちらが旦那様がご用意されたお荷物になります。……あの、門までお送りさせてくださいませ」

「ありがとう」


 メイドは何故か号泣していた。

 不思議に思いつつも付いていくと、門の前には十数名の使用人が並んで待っていた。


「お嬢様。これをお持ちくださいませ」


 メイドは小さな巾着袋を渡してくれた。

 中には銅貨が詰まっていた。


「これは……」

「僅かですが私達の給金から出しました。お嬢様がいつも庇って下さったから、私達はここで働き続けることが出来ました。……失礼ながらお荷物を確認したところ、必要かと存じまして。どうか、お持ちくださいませ」

「そんな、いただけないわ」


 父が用意した荷物には、貨幣は入っていなかったのだろう。汗水流して働いたお金を頂戴することに気が引けたが、返そうとしてもメイド達は受け取ってくれなかった。


 ヒルベルタの我儘で彼女達はいつも困っていた。

 助けてあげられない子もいたし、辞めていった子も沢山いたけれど、救われた子もいたと分かると、少しだけ罪の意識が薄れていった。


「私共からは、日持ちするパンやビスケット等、携帯食糧です。お嬢様の作る菓子を、いつも私共の分まで用意してくださりありがとうございました。どうかお身体を大事になさってください」

「ありがとうございます」


 ヒルベルタの我儘で作っていた菓子は、いつも使用人達の分も作っていた。一度作ってみると楽しくなってしまい、妹以外に食べてくれる家族がいないこともあって、彼らの分も用意していた。

 喜んでくれていたことが分かって嬉しかった。


「あと、こちらのお召し物ですが、どうされますか?」


 先程着替えを持って来てくれたメイドが、泥だらけのドレスと豪華な髪飾りを差し出した。


「ありがとう。この髪飾りは、大切な友人からいただいたものだから持っていくわ。ドレスは……処分してください」


 このドレスは、ヴェルネル様への淡い恋心と共に置いていく事にした。


「畏まりました。こんなことしか出来ず申し訳ございません」

「いいのよ。とても嬉しかったわ。ここで十七年間過ごしてきたけれど、その全てが何も無かったことにされてしまうんだと思って、少し哀しかったの。でも貴女達が見送りに来てくれて……」


 気が付いたら涙が溢れていた。

 私ってこんなに涙もろかったかしら。

 目の前の使用人達もみんな泣いていた。

 私がここで生きてきた事を見ていてくれた人達がいたことが、そして別れに涙を流してくれる人がいたことが、とても嬉しかった。




『おいおい。こんなところで油売ってるとクビになるぞ?』


 屋敷から聞こえてきたのはガスパルの声だった。

 使用人達は体を強張らせ、家の者でないと分かると、少しだけ安堵の表情を浮かべていた。


「皆さん、もう行って下さい。――ガスパル、何か御用かしら?」


 使用人達は深く礼をすると、ガスパルの視線から逃げるように屋敷へ戻っていった。

 ガスパルは皆が見えなくなると、腰の剣を私に見せつける様にふんぞり返った。


「これを、お前に見せてやりに来たんだ」




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