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後日談 それぞれの歩む道

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020 プロポーズ(コレット視点)

「大丈夫か?」

「えっ、あ、すみません。緊張してダンスが全くできなくて」

「いや……顔が赤くなっていたから、外に出ただけだ。会場内は暑かったからな。ここで少し休もう」

「は、はい」


 そういってメルヒオール様は噴水に腰を下ろした。

 見慣れた学園の噴水前にメルヒオール様がいる。

 とても新鮮で不思議な感覚だ。


「人前で踊ったのは初めてだ。俺が不慣れだっただけで、コレットは何も恥じることはない」

「そんな、メルヒオール様はとても上手でした。でも、どうして踊ってくださったのですか? フィリエルは、メルヒオール様は絶対に人前で踊らないって言っていたので」

「女性は、パーティーでは踊りたいものなのだと、ハミルトンに言われたのだ」


 なるほど、ハミルトンさんの入れ知恵だったようだ。

 やっぱり、もっと練習しておくべきだった。


 反省していると、隣に座るメルヒオール様の手が、私の手にそっと重ねられた。


「しかし、それだけではない。コレットが俺の婚約者だということを見せつけたかった。他の誰にも触れさせたくなかったのだ。手が冷たい、寒くないか?」

「だ、大丈夫です」


 びっくりした。むしろ、今のメルヒオール様の言葉を聞いて、身体が熱いです。

 今日のメルヒオール様からは、想定外の言葉ばかり出てくるから、心が追いつかない。


 メルヒオール様はキュッと手を握りしめたまま、私の顔を覗き込み口を開いた。

 

「コレット、宮廷魔導師の試験はどうだったか?」

「はい。無事に二次試験に受かりました……けれど」

「けれど?」

「宮廷魔導師は、辞退しました。それで……こ、近衛騎士になりました!」

「近衛騎士か、そうか……ん? 近衛騎士?」

「はい。話すと長くなるのですが──」


 私はルーティ様の留学について、そして近衛騎士の試験について簡単に説明した。簡単に、のつもりだったけれど、団長との手合わせについてだけは、つい詳しく話してしまって、メルヒオール様に話の途中で笑われてしまった。


「なるほど、はははっ。君らしい」


 レンリの言った通り、またメルヒオール様の爆笑が見られた。

 やっぱり好きだなぁ。メルヒオール様の笑った顔。


「笑い過ぎですよ」

「本当に君は、俺の想像を遥かに超えてくるな」

「そうでしょうか」

「ああ。君からは、ひとときも目が離せない」


 そう言って頬に触れたメルヒオール様の手は温かく、優しい瞳に吸い込まれそうになる。

 私のほうこそ、メルヒオールから目が離せないのに。


 メルヒオール様は立ち上がると、私の前に跪いた。


「コレット、一年前にも聞いたが、もう一度聞く」


 メルヒオール様はポケットから指輪を取り出し、私へと差し出した。


「俺と結婚しよう。コレット」

「……はい。よろしくお願いします」


 私が返事をすると、メルヒオール様は目を丸くして驚いていた。


「ど、どうして驚いていらっしゃるのですか?」

「いや、即答されるとは思っていなかった」

「私も、一年間、この時を待ち望んでいました」

「……ずるいな、君は」


 そう言って微笑み、メルヒオール様は私に指輪をはめてくれた。

 大きな透明の宝石が輝く綺麗な指輪だ。


「これはダイヤモンドという石で、鉄よりも硬いそうだ。何事にも屈しない強さ……君と似ていると思った」

「ありがとうございます。大切にします」

「ああ。──さて、そろそろ出てきてもよいのでは?」


 メルヒオール様がそう声を上げると、噴水の向こう側の茂みから、両手に枝を持ったアーロン殿下が姿を現した。

 

「はっはっはっ! おめでとうメルヒオール。今日はお祝いだ。私から皆にワインを振る舞おう」


 皆とは? と思ったけれど、いつの間にか噴水の周りには、フィリエルとヴェルネル先生、それからレンリとミミさんもいた。どうやら、ヴェルネル先生の魔法で隠れていたみたい。

 みんな、私とメルヒオール様の結婚を祝福してくれた。

 

 アーロン殿下は両手にワインを持ち、こちらへ歩み寄ると片方のワインを私へと差し出した。


「さぁ、コレットもワインをどうぞ。ああ、君のように前途有望な子がメルヒオールの側にいてくれると安心だよ。これからも我が義弟をよろしく頼むよ」

「はい。ありがとうございます」

「はははっ。君は今日から義妹だ。さぁ、さぁ、ぐいっと飲みたまえ」

 

 グラスにたっぷりと注がれた赤ワイン。

 香りが良く、とても美味しそう。

 いつもお酒は飲んではダメと周りから言われているけれど、殿下からのお酒は断らない方がいいわよね。


 メルヒオール様はヴェルネル先生と話しているし、今なら気づかれないと思い、こっそり一口だけ口に含んだ。

 

「おいしいです」 

「おお、良かった。さあ、さあ飲みたまえ」

「はい!」


 勧められるがまま、もう一度いただこうとしたら、グラスがパッと手から浮かび上がった。


「おい、これくらいにしておけ」


 後ろからメルヒオール様にグラスを取り上げられてしまった。うう、もう少し飲みたかったのに。


「でも、もう少しだけ……」

「駄目だ」


 そう言って私の分のワインをメルヒオール様は一気に飲み干してしまった。隣で見ていたアーロン殿下は、瞳を輝かせて唸り声を上げた。


「おお、他人に無関心だったメルヒオールが、人の世話を焼くとは……人との出会いに感謝だな」

「そうだな」


 メルヒオール様が私を見ながらそう言うと、アーロン殿下はまた大きな声を上げた。


「えっ、素直!? もしや、ワインの力か? メルヒオール、もっと飲め、飲め!」


 それから、アーロン殿下は樽ごとワインを持ってこさせ、それが空になるまでは皆を帰さない、なんて言い出されて、とても賑やかな夜になった。


 一番ワインを飲んでいたのがフィリエルだったという話は、翌日メルヒオール様から教えてもらった。フィリエル本人は、恥ずかしいから絶対に内緒にしてほしいと言っていたそうなので、胸の内にしまっておくことにした。


 

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