019 卒業パーティー(コレット視点)
会場は昼間卒業式を行った大ホール。
テーブルの上には美味しそうな食事やデザートが並び、中央では曲に合わせて踊る人々がいて、目に映るもの全てが華やかで胸が躍る。
遠くのテーブルには、レンリとミミさんが見えた。ミミさんは黄色のドレスを着ていて、蝶々のようで可愛らしくて、隣で笑うレンリも楽しそうで、私まで笑みが溢れた。
「コレット、イチゴタルトがあるわ。いただきましょう」
「おいしそう」
フィリエルと二人でデザートを選び、次に飲み物を選ぼうとしたとき、後ろから二人の男性に声をかけられた。普通学科の生徒だろうか、あまり見覚えのない方達だ。
「フィリエル様とコレット様ですよね。よかったら一曲ご一緒いたしませんか?」
「ご自分のパートナーと踊られてはいかがですか?」
「卒業パーティーですからね。記念として同じ卒業生同士でいかがですか?」
彼らの後ろには、不機嫌そうにこちらを睨む女性達が見えた。あの怒りに満ちた瞳から察すると、今日だけのパートナーではなくて、婚約者の方なのではないだろうか。
返答に困っていると、入り口の方からヴェルネル先生がこちらへ駆け寄る姿が目に入った。
「すまない。楽しめているか?」
「えっ、ヴェルネル先生っ!?」
「今日だけ私のパートナーですの」
驚く男性に追い打ちをかけるようにフィリエルがヴェルネル先生の隣に立ち紹介すると、彼らは顔を見合わせて気まずそうにしている。
そんな彼らに、ヴェルネル先生は入り口の方に目をやりながら言った。
「メルヒオールもそろそろ来ると思うぞ」
「め、メルヒオールとは、メルヒオール・ラシュレ様ですか」
「もちろんよ。私の兄はコレットの婚約者ですから」
「あれはただの噂では……しっ、失礼しました」
彼らは私のドレスにラシュレ家の紋章が刺繍されていることに気づくと、颯爽と立ち去っていった。
まさか、ドレスにこんな効果があるなんて驚きだ。
「二人だけにしてすまなかったな」
「いえ、それより……誤解は解けましたか?」
「誤解? ああ、そうだね。彼女がどんな成長をするのか、待つことにしたよ」
「あら、半年後が楽しみだわ」
フィリエルはヴェルネル先生の耳元で小声で話していて、内容はよく聞こえなかったけれど、何だか二人とも楽しそう。誤解、などと聞こえてきたけれど、何の話だろうか。
尋ねようとしたとき、ヴェルネル先生はふと思いついたかのようにハッとしてフィリエルへ手を差し伸ばした。
「そうだ。せっかくだから一曲いかがかな?」
「えっ、私は──。そうね。せっかくですから一曲踊ります。コレット、また後でね」
「えっ、でも……」
二人は足早に遠ざかっていく。
一人っきりは少し心細い。少しだけでいいから、レンリ達と合流しようかと思い、さっきまで二人がいたところに目を向けたけれど、姿は見えなかった。
でも、フィリエル達が急に示し合わせたようにしていなくなったということは、もしかしたら、メルヒオール様が到着されたのかもしれない。そろそろ着くとさっきヴェルネル先生も言っていたのだから。
久しぶりにメルヒオール様に会える。
嬉しさとともに、少し緊張しながら、入り口の方へと目を向けようとしたとき、そっと肩を叩かれた。
「メルヒオールさ……えっ、あ、アーロン殿下!?」
「やあ、コレット」
振り向くと満面の笑みを浮かべたアーロン殿下がいた。
「今、メルヒオールと間違えたかい? すまないね。私がモテてしまうばかりに、メルヒオールの仕事を増やしてしまった。私のせいでこうなったのだから、メルヒオールの代わりにコレットをエスコートさせておくれ。さあ、一曲踊ろう」
「えっと……」
これは、断ってもよいものだろうか。
周囲の者たちは突然現れたアーロン殿下に驚いて、みんな距離を取っている。
でも、みんなが距離をとっていたのは、アーロン殿下だけのせいではなかった。
殿下の後ろに殺気立ったメルヒオール様が今にも剣を抜きそうな顔で立っていたからだった。
「アーロン……殿下?」
「め、メルヒオール。おお、よくぞ帰還した。騎士団の視察ばかりだったせいか、殺気を消すのを忘れているぞ~。駄目だぞ。こんな華やかな場所で華やかな服を着ているにも関わらず、殺気を出しては。抑えて抑えて」
「抑えていますよ。一応」
全然殺気を抑えられていないのに、変な作り笑顔でそんな事を言うから、アーロン殿下の顔色はみるみる青くなっていった。
「よし! メルヒオールが来たから私は失礼しよう。コレット、ではまた!」
挨拶を返す間もなく、周りの卒業生に「おめでとう」と言いながら、アーロン殿下はホールの奥の方へと消えていった。
目の前には、ずっと会いたかったメルヒオール様が立っている。私のドレスとお揃いの礼服に身を包み、凛と立つメルヒオールが。
話したいことがたくさんあったはずなのに、名前を呼ぶことすら戸惑ってしまう。
「……コレット」
「お、お仕事でお疲れなのに、来てくださりありがとうございます」
「遅れて申し訳なかった。ドレス、似合っているな」
「あ、ありがとうございます」
「せっかくだ、一曲、いかがですか?」
「は、はいっ!?」
ダンスに誘われるなんて思っていなかったから、驚いて声が裏返ってしまった。
フィリエルったら、メルヒオール様からダンスに誘うことは絶対にないって言っていたのに。フィリエルとダンスの練習はしたけれど、うまく踊れるだろうか。
不意に誘われ、頭の中は真っ白だった。
緊張しすぎて、息をすることすら忘れてしまいそうだ。
メルヒオール様が、いつもは剣を握るその手で、今は私の手を握ってくれている。
メルヒオール様って、こんなに背が高かったっけ。
手だって、熱くて大きくて。
一曲踊ると、メルヒオール様は私を会場から連れ出した。
私が何度も足を踏みそうになってしまったからだろうか。
申し訳なさと恥ずかしさで聞くことができない。
人気のない中庭の噴水前まで来るとメルヒオール様は立ち止まって振り向いた。
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