018 ヴェルネルと王女(ヴェルネル/ルーティ視点)
フィリエルとコレットは、色違いのお揃いのドレスを着ていた。本当に仲が良いのだと微笑ましく思う。
先日私は、フィリエルに卒業パーティーのパートナー役を買って出た。
正直、フィリエルはレンリと参加するのかと思っていたけれど、そうではないようだし、一人で参加させるのは心配だった。
フィリエルは、ガスパルを大切に想ってくれていた。
その気持ちを手放すことを選ばせてしまったのは、私にも責任がある。彼女が快く友人とパーティーを楽しめるよう、見守りたかったのだ。
学園に到着し、本来ならフィリエルを手を取りエスコートする予定であったが、コレットのパートナーであるメルヒオールの到着が遅れているため、馬車を降りてから、二人は会話を楽しみながら、私の後ろをついてきている。
あまり心配し過ぎなくてもよかったのかもしれない。
フィリエルにはコレットがいるのだから。
「ヴェルネル様?」
名前を呼ばれ振り向くとルーティ王女が受付に立っていた。後ろばかり気にして歩いていたら、いつの間にか会場前の受付に来ていたようだ。
しかし、なぜルーティ王女が受付をしているのだろう。
今、彼女と顔を合わせるのは、とても気まずいのに。
「こんばんは。受付をしているのですか?」
「はい。お世話になった先輩方をお祝いしたくて。ヴェルネル様は、もしかしてコレット様のパートナーですか? すみません。私の兄がメルヒオール様を連れ回したせいですよね」
「違いますよ。ルーティ様。メルヒオール様はお仕事なのでしかたないことですから。それと、ヴェルネル先生は、フィリエルのパートナーとしていらしてくれているんですよ」
コレットが説明すると、ルーティ様の表情から笑みが消え、驚きの表情へと変わった。
「えっ……? フィリエル様の……」
「ち、違いますよ。私の元婚約者がヴェルネル先生の弟だったので、義理で」
「義理で、婚約者に……すみません」
フィリエルの言葉を反芻すると、ルーティ王女は隣の受付の子に謝罪し、校舎の方へ走っていってしまった。今にも泣きそうな顔で。
でも、これでよかったのかもしれない。
国王陛下が、ただの宮廷魔導師と王女の結婚など、簡単に認めるはずもない。
それなのに──。
「フィリエル。コレットと二人で会場へ行っていてもらえますか?」
「えっ? も、もちろんです」
「すみません」
どうしても放っておけなくて、私はルーティ王女を追いかけていた。
****
フィリエル様は、美人で気品があって、学内でも人気が高い。そして、婚約者がいないのに、新しく婚約者を据える様子もなく、男性を避けていると聞いていた。
ヴェルネル様をお慕いしていたからだったんだ。
あの二人ならお似合いだ。
紫で揃えたドレスがとても似合っていて、涙が溢れそうになった。
「ヴェルネル様みたいになりたくて、頑張ったんだけどな……」
小さい頃から、不思議な力が使えた。
ろうそくに火を灯すのも簡単だし、少し離れた場所にあるものも簡単に動かせた。
だけど、それは認められない力だった。
お母様はお父様から責められ距離を置かれ、私は城中の人に後ろ指をさされながら過ごした。
ゲオルグ様が助けてくれるまでは、毎日苦しかった。
ゲオルグ様は私に王女の称号を戻してくれた。
そして、ヴェルネル様のことを教えてくれた。
私と同じように、魔力が高くてとても苦労されていたことを。
ヴェルネル様の存在を知って、辛いのは私だけじゃなかったってわかって、ホッとした。
でも、宮廷魔導師として城で見かけたヴェルネル様は、そんなことを少しも感じさせないくらい立派で優しくて、初めて見たその瞬間から憧れの人になった。
でも、私はゲオルグ様が手を焼いてしまうほど、魔力の制御ができなかった。
そして、そんな私が魔法学科に入学すると同時に、ヴェルネル様を講師として学園に招くことが決まった。
嬉しかった。王女ではなくて、生徒としてヴェルネル様に師事できるなんて。
でも、私は魔力の制御だけじゃなくて、勉学も苦手だった。
だから、お父様と約束したの。
「ルーティ様っ!」
「えっ、えええっ!? ヴェルネル様っ、どうしてこんなところに。フィリエル様はどうされたのですか!?」
「コレットと二人で先に会場へ行っていただきました」
どうして、追いかけてきてくれたのだろう。
息を切らして、必死に私を追いかけてきてくれたように見える。
私のために?
はぁ、期待してしまう自分が情けない。
「ヴェルネル様、駄目ですよ。誰にでも優しくしては」
「自分でもわからないのですが、どうしても放っておけませんでした。このまま嫌われてしまえばいいと思ったのに、おかしいですね」
「そうですよ。フィリエル様みたいに……素敵な女性になんて、私はなれませんから」
「フィリエルとはそういう関係ではありません。私は……保護者みたいな立場ですから」
保護者ということは、私の兄のせいでメルヒオール様がいないから、代わりにエスコートしていた、というような意味だろうか。
私としたことが勘違いで、なんと恥ずかしい姿を見せてしまったのだろうか。どうしても、ヴェルネル様関連のことになると、冷静さに欠けてしまう。
「そうなのですか? では、フィリエル様は婚約者ではないのですね」
「はい、ですが」
「婚約者は今、いらっしゃらないのですよね!?」
「そうですね。ただ、ルーティ様と私は不釣り合いですよ。せっかく陛下とのすれ違いも消え、王女と認められたのに、一介の宮廷魔導師などを婚約者にしたいなどと発言すれば、陛下の心証を悪くさせてしまいます。ですから、私のことを忘れてください。これからもっと見聞を広め、素敵な方と出会えることを願っています。勝手ながらその事をお伝えしたく、追いかけて参りました」
真っ直ぐに私の目を見て、ヴェルネル様はとても残酷な言葉を口にした。
私は子どものころ、もっと聞きたくない言葉をたくさん聞かされてきた。その人たちの目は、とても人間を見るような目ではなくて、おぞましい獣を見るような目をしていた。
でも、ヴェルネル様の目は違う。優しくて温かくて……。やっぱり私は、貴方に見つめられることを、諦めることが出来ない。
「願わないでください。ヴェルネル様より素敵な方なんて絶対にいません。断言します」
「買いかぶり過ぎですよ。それに、貴女は王女なのですから、婚約者は」
「お父様は私が、ヴェルネル様に憧れていることを全て存じていらっしゃいます」
「えっ?」
「だから、私が苦手な勉強を頑張れるように、お父様は約束してくれました。私の留学が決まれば、なんでも一つ望みを叶えてくれるって。私は自分の伴侶は自分で決めたいと思っています。だから、このことを父にお願いしようと思っています。でも……私は私を想ってくれる方がいいんです。無理に婚約を結びたくはないんです。憧れの方には、幸せになってほしいから……」
だから、私を見てほしくて気持ちを伝えたけど、もしヴェルネル様が私のことを少しも好きになれなかったら、その時は諦めなくちゃいけないということは決めている。
でも、それは今じゃなくて、まだ先であってほしい。
「それって──」
「い、今は何も言わないでください! 私が留学している間にいっぱい私のこと、考えてほしいんです。ヴェルネル様は、私のことを女性として見ていないってわかってます。だから、」
「女性として見ていますよ。いつも一生懸命で、苦手なことも諦めない。私は、ルーティ様を一人の素敵な女性として見ています」
「そ、そそそんなに褒めても諦めませんからっ。半年後、もっと素敵な女性になってヴェルネル様のところに戻ってきます。そしたら、お返事をお聞かせ願います!!」
私は勢いよく礼をしてその場を立ち去った。
でも、あれれ?
今すぐお断りされるのかと思ったけど、私のことを褒めてくれたような……。
それって、どういうこと!?
ヴェルネル様は私のことを……。
いえ、期待してはダメ。
アーロンお兄様が言っていたもの。
ヴェルネル様は理想が高いから、今の私なんかじゃ駄目だって。一度引いて、心身ともに磨き上げて帰ってこなくちゃ、女性として認識されないって。
好きなだけ言って逃げてしまったけれど、ヴェルネル様の気を悪くさせてしまったのではと、ふと不安になった。
足を止め振り返ると、ヴェルネル様はまだその場に立ったまま、こちらを見ていた。
そして私と目が合うと、ふわりと笑顔になった。
「お帰りをお待ちしています。留学、楽しんできてくださいね」
「は、はい! 失礼しますっ」
何その笑顔、反則です。
心臓が痛いくらいに騒がしい。留学中に心臓も鍛えなきゃ。
そうだ、コレット様にご教授願おう。
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