016 約束(コレット視点)
ベッドに寝転ぶとお腹が苦しくて、ふぅとため息が漏れた。夕食を食べ過ぎてしまった。
今日は色々なことがあった。
近衛騎士の試験を受け、無事、合格をもらった。
夕食は私が好きなものばかりで、フィリエルの留学決定のお祝いと、私の二次試験合格のお祝いをした。
「宝物か……」
夕飯のとき、フィリエルから宝物の話を聞いた。
宝物がたくさんあると、心が豊かになり、その存在が自分に力をくれると、ヴェルネル先生から教えてもらったそうだ。
私の宝物は、メルヒオール様からいただいた黒壇の剣。
フィリエルは人でもいいんだって言っていたから、フィリエルとレンリ、それからエミルも宝物だ。
そして……。
「メルヒオール様はお元気かしら。エミルも元気かな」
卒業パーティーまでには帰ってくると言っていたけれど、いつ頃だろう。
出発前に、メルヒオール様と約束をした。
卒業パーティーに一緒に出席することを。
あの日は、朝からメルヒオール様の様子がおかしかった。
何かあったのかと心配していると、訓練のあと、執務室に来るようにと呼び出された。
食べたいと言っていたアップルパイを持って執務室へ行くと、メルヒオール様は厳しい眼差しのまま私をソファーに座らせ、自分は向かいのソファーに腰を下ろすと重い口を開いた。
「数カ月、屋敷を空けることになった」
「えっ? 遠方でのお仕事ですか?」
「ああ、エミルが姉の息子であることがアーロン殿下の知ることとなり、エミルと共に他国の騎士団の視察団に参加することになった」
「えっ、エミルもですか?」
「ああ、アーロン殿下は、エミルが姉の息子なら私の息子でもあると言い出してな。……まあ、それはおそらく冗談として、以前から参加要請はあったのだが、避けていたのだ。エミルを巻き込んでしまったのは俺の責任だ」
アーロン殿下が、エミルの名前を出して、メルヒオールを職務から逃れられないようにした、ということのようだ。
「エミルには話したのですか?」
「ああ、喜んでいた。アーロン殿下が青藍騎士団に現れて勝手に話したのだ。エミルの父親が所属していた騎士団の視察も含まれているし、故郷も通るからな。久しぶりに母の墓参りに行かせようとしているのだろう。あいつなりの心配りのつもりだ」
「なるほど」
「これは決定事項のため、変えることはできぬ。試験を控えた時期に、屋敷を空けることとなりすまない」
「いえ、私のことは心配しないでください」
メルヒオール様が頭を下げるなんて、本当に今日はどうしたのだろう。やはり、エミルのことを周囲に知られてしまうのではないかと、心配なのかもしれない。
メルヒオール様は言葉にするのをためらっている様子で、少し間を置いてから口を開いた。
「それから……ここからは相談だ」
「えっ?」
相談? そんな言葉をメルヒオール様から聞くなんて思っておらず、驚きを声に出してしまった。
メルヒオール様は小さく咳払いし、そして躊躇いながら口を開いた。
「卒業できれば、ではあるが、卒業式の日にパーティーが開かれるのを知っているか?」
「はい。フィリエルから聞きました。卒業に必要な単位は大丈夫だと思うので、レンリに聞いてみようと思っています」
「それは、レンリをパートナーに誘うつもりということか?」
「は、はい」
「そうか……」
不満そうにそう言うと、メルヒオール様は黙りこんでしまった。
えっと、これはどういう状況だろう。
メルヒオール様は相談があると言っていた。
もしかしたら、パーティーに一緒に出席してくださるとか?
でも、メルヒオール様はこういったパーティーには絶対に参加しないとフィリエルが言っていた。
そうか。だから私も控えてほしいという話かもしれない。
「あの、パーティーには参加しないほうがよいでしょうか? それでしたら私は──」
「いや。参加した方がいい。フィリエルも楽しみにしている。それに、ドレスはもう準備させている」
メルヒオール様は即座に否定した。
それに、私のドレスを用意してくれていただなんて。
「ありがとうございます」
「……」
お礼を述べると、メルヒオール様は眉間にしわを寄せたまま、また黙り込んでしまった。
先ほどからどうしたのだろう。
それに結局相談とは何だったのだろう。
「あの、それで相談とは……?」
「いや、レンリと出席した方が、気兼ねなくパーティーを楽しめるのかもしれないな」
「えっ……?」
「だが、それは却下する。君の隣には俺が立っていたい」
隣ということは……。
「それって……一緒にパーティーに参加してくださるということですか?」
「ああ、俺では不服か?」
苦手だと聞いていたのに、メルヒオール様が隣にいてくれるんだ。ドレスも用意してくれているということは、前々から考えてくださっていたのだろう。
今日ずっと様子がおかしかったのは、パーティーに誘おうとしてだったのかもしれないと思うと、とても愛おしく思えた。
「いえ、とても嬉しいです。──あ、でも、宮廷魔導師として卒業できたら、でお願いします」
「……もちろんだ。俺がいないからといって、訓練ばかりしていてはダメだぞ。そうだ、ディオは騎士団に残していくから、コレットが訓練場に入らないように話しておこう」
「そ、そんな……。でも、わかりました。必ず試験に合格します」
「ああ」
それから二人でアップルパイをいただいた。
しばらくこんな時間を過ごすこともできなくなってしまうと思うと寂しかったけれど、メルヒオール様とエミルがラシュレ家を発ったすぐ後、ルーティ様から試験に向けた勉強を手伝ってほしいとお願いされ、数カ月はあっという間に過ぎていった。
そして、近衛騎士の三次試験を終え、ついに卒業式の日を迎えた。卒業式には国王陛下もいらして、宮廷魔導師には杖を、近衛騎士には剣を授与された。
私も陛下から近衛騎士の剣を授かった。
束は真紅で、鞘は赤みがかり、ラシュレ家でみたラミエル様の剣と同じ物だ。
この剣を手にした瞬間から私は近衛騎士だ。
とはいえ、明日からすぐに任務に就くわけではないけれど。
メルヒオール様にも、早く伝えたい。
卒業式にはアーロン殿下がいらしていたから、屋敷に戻ればメルヒオール様がいらっしゃると思って、私は式が終わるとすぐにフィリエルと屋敷に戻ったのだけれど。
「もう、お兄様ったら、一体いつになったらお帰りになるのかしら」
お読みいたたきありがとうございます。
評価☆☆☆☆☆など、していただけると励みになります。
よろしくお願いします。




