015 突然の告白(フィリエル視点)
私は騎士団本部の裏口から飛び出し、学園へ向けて足早に歩いた。先回りして工房で待とうと思っていたけれど、レンリとフローレスさんが楽しそうに話していて、お邪魔になるかな、と思い、私はまたヴェルネル先生の所へ向かうことにした。
ヴェルネル先生は快く部屋へ迎え入れてくれた。
そして私の顔を見るなり、ヴェルネル先生はクスッと笑って尋ねた。
「もしかして、観てきたのかい?」
「は、はいっ。コレットが、すっっっごく格好良くて、今すぐ誰かに話したくて」
「そうか、それはよい経験をしたね。でも、試験会場によく入り込めたね」
「初めて、兄の名を勝手に使いました。でも、後悔していません」
試験の為に朝早くに屋敷を出たコレットが気になってしまい、騎士団本部の近くをうろうろしていたら、兄の同級生の方にお会いして、こっそり試験が行われる訓練場に入れてもらえたのだ。
「この三日間、私はコレットの訓練を見学していたんです。騎士団の者も何人か協力してくれて手合いも見せてもらいました。コレットってすごいんですよ。あんなに腕が細いのに、男の人の剣だって受けられちゃうんです」
「ほぅ、それはすごい」
「そうなんです! それから──」
私はコレットのすごいところをたくさんヴェルネル先生に話した。だって、ヴェルネル先生、聞くのがとても上手なんだもの。
でもよくよく考えると、コレットの元婚約者の方に、こんな話をしてよかったのだろうかと思えてきた。
しかし私が突然黙り込むと、ヴェルネル先生は笑って言った。
「私はもう君たちの先生ですから、どうぞ続きを聞かせてください」
「あの……私、声に出してましたか?」
「さぁ? そういえば、フィリエルはパーティーのお相手は決まったのかい?」
「それは……、ヴェルネル先生、話を逸らすのがお上手ですね」
「そうかな? ん、お客様かな」
ヴェルネル先生がそう言うと同時に、扉がノックされた。
ヴェルネル先生って近くにいる人の心の声が聞こえるのかしら。
「ヴェルネル様っ、ルーティです。いらっしゃいますか?」
「はい、今──」
「あ、開けないでください! そ、そのまま、聞いてください!」
多分、ヴェルネル先生は、今、他の生徒もいると伝えてから扉を開けようとしていたのだろうけれど、ルーティ様は言葉を遮ってそう言った。
「私、留学試験に合格いたしました。それもこれも、ヴェルネル様がご指導してくださったからです。本当にありがとうございました。それと……あの、わ、私──ヴェルネル様を、お、お慕いしております!」
突然の告白に、ヴェルネル先生が驚いた顔で固まり、顔が徐々に赤くなっていく。
私、またお邪魔なのでは……。
でも、このヴェルネル先生の反応……ルーティ様が押せば、いけるのでは!?
「私はこれから半年、留学をしてもっと魅力的な女性に、ヴェルネル様に見合うような女性に成長します。だから、見ていてくれませんか? 留学が終わったら、また気持ちを伝えに参ります。その時、お返事を聞かせてください」
「あ、でも……」
「い、今は何も言わないでください! 失礼いたしましたっ」
扉の向こうで、バタバタと足音が遠ざかって行った。
ルーティ様がヴェルネル先生に憧れているとは周知の事実ではあったけれど、まさか告白するなんて思ってもいなかった。
だって、ルーティ様は王女だから、自分で相手を決めることはできないはずだ。
「いやぁ、若いって素晴らしいですね、ははは」
そういってヴェルネル先生は近くにあった魔導書を手に取りパラパラとページをめくり始めた。
本が逆さですよ~、とか、ヴェルネル先生だって若いじゃないですか、とか色々言いそうになったけど、顔を赤くし、明らかに動揺している様子のヴェルネル先生を見たら、何も言えなかった。
「フィリエルは、こういう時、どうするのですか?」
「はい?」
「いえ、その……。誰かから気持ちを伝えられた時、ですよ」
「私は……無いですね」
「はい?」
「そういうの、ないです。ずっと、婚約者がいましたし。婚約を破棄したあとも、近づいてくる人はたくさんいましたけど、私自身を好きだという方なんて……いたのかしら?」
自分や家の自慢ばかりしてくる令息や、食事に誘ってくる方、勉強が得意だから一緒にしようだとか、後はただ見た目を褒めてくる令息とか、そんな人達ばかり。
「ああやって純粋に誰かを慕って、その気持ちを伝えられる人ってなかなかいないと思います」
「そう……ですか」
そうは言ったものの、ヴェルネル先生は自分の気持ちを伝えられる側の人だと言うことを思い出した。
なんと声をかけたらいいだろう。たくさん話を聞いてくれた先生の力になりたいのに、なかなかかける言葉が思い付かない。
先生は今、突然の告白に動揺しているだろうから、気持ちを整理するお手伝いができたらいいはずよね。
「あの、ルーティ様って、どんな方なのですか?」
「ルーティ様は、私やコレットと少し似た境遇で育った方なんです。王族に多大な魔力を有する方はいらっしゃらないので、王族の血が流れているのか、ずっと疑われ、後ろ指をさされながら育ったそうです。だから、魔力を、自分の力を抑え込んで過ごされていたんです」
確かに王族の方が魔法学科に入学したのは初めてかもしれない。そんなことがあったなんて、何も知らなかった。
「ゲオルグ様がその事に気づかれて、ルーティ様の母方の親族に魔力の強い方がいらっしゃったことを調べてくださって、ようやく王女であることが認められたそうです。自身の力を抑えることはできるのですが、放出する事が苦手で、私が指導するために、教鞭を執ることになりました」
「そうだったんですね。もしかしてですけれど、ヴェルネル先生、ルーティ様のことを……」
「彼女は王女ですから、婚約は陛下が決めることです。他の誰も決められません。──さて、この話はおしまいです。変なことに巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
陛下が決めること。ということは、ルーティ様の気持ちも、ヴェルネル先生の気持ちも、何の意味もないということだろう。
こればかりは、私が口出しできることではない。
「いえ。私なんて、自分の話ばかりしてしまって」
「いいんですよ。フィリエルの話は楽しいですから。そんな顔をしていないで、合格をコレットとお祝いすることを考えてください。あ、そうだ。一つ提案があるのですが──」
それから、私はヴェルネル先生のある提案を受け入れ、屋敷へと帰った。
本当は工房へ寄ろうと思っていたけれど、近衛騎士の試験を見学していたことは秘密なのだから、コレットを労うのは屋敷に帰ってからすることにした。
ルーティ様の告白は私の胸にしまい、コレットにも黙っておこう。
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