014 手作りのサンドイッチ(レンリ視点)
僕に婚約者ができた。
小さくて真面目で、裁縫が得意で料理も得意な女の子だ。
僕も貴族の端くれだから、いつか婚約者が出来ることもあるかもしれないと、考えたことはあったけれど、実際に目の前に婚約者がいると、なんだか不思議な気分だ。
「レンリ先輩! サンドイッチを作ったのですが……」
「毎日ありがとう。一緒にいただこうか?」
「はい!」
婚約者がミミ・フローレスさんだと分かったあの日から、こうして昼食を一緒に食べながら、好きな魔導書や料理の話をしている。
サンドイッチはいつもおいしいし、会話も楽しい。
ミミさんも、いつもニコニコしているから、楽しんでくれていると思うのだけれど、どうだろう。
こういう時、フィリエルなら色々とアドバイスをくれそうだけれど、フィリエルも、そしてコレットも工房に現れない。
多分、二人とも学園に来ていない気がする。
もう授業もないのだから、それが普通ではあるのだけれど、コレットとは、試験が終わったら、ヴェルネル先生の魔法道具について一緒に研究しようと話していた。
詳しい日取りは決めていなかったけれど、ヴェルネル先生にそれとなくコレットのことを尋ねると、あと三日待ってあげるといいと言っていた。
最後に会った日もどこか慌てていて様子がおかしかったし、何かあったのだろうか。
「コレット先輩、今日ですね」
「ん? 今日って何かあったかな?」
「はい。二次試験が今日行われると、昨日、兄が言っていました。試験は午前中で終わるので、コレット先輩もこちらに来るかな、と思って今日はサンドイッチを多めに作ってきました」
そう言ってミミさんはバスケットの中のサンドイッチを見せてくれた。いつもよりバスケットが大きかったのは、コレットの分が入っていたからのようだ。
しかし、二次試験はこの前受けて、受かったはずなのに、なぜだろう。
「二次試験は──」
「あっ、コレット先輩です!」
ミミさんは窓の外にコレットが見えると、扉へと走って出迎えに行った。
「コレット先輩! お疲れ様でした」
「ありがとう。昨日ミミさんのサンドイッチをいただいたおかげで、万全の状態で試験に挑めたわ」
「よかったです」
コレットは笑顔でそう言うと僕に気づいて微笑んでいる。
髪を後ろで一つにまとめ、ズボン姿の彼女は、腰に剣を差している。
学園の近くで受けられる試験で、剣を使う試験。
しかも二次試験があるものといえば……ひとつしか思い当たらない。
「レンリ。ごめんなさい。ヴェルネル先生の魔法道具の研究、約束していたでしょう? 明日からなんてどうかしら?」
「いいですけど、その格好って……」
「えっと実はね、近衛騎士の試験を受けられることになったの。三日前に急遽決まって、今日二次試験を受けてきたわ」
「そ、そうだったんですね。まったく、手がマメだらけじゃないですか」
手に巻かれた包帯には血が滲んでいる。
言ってくれたら、試験前に治療したのに。
きっと試験のことで頭がいっぱいで、そこまで気が回らなかったのだろう。
僕は包帯を解いて、コレットの手に自分の手を重ねた。
「あったかい……。ありがとう。レンリ」
コレットがそう言うと、傷が癒えた手のひらを見て、ミミさんは瞳を輝かせて言った。
「すごいです。私もレンリ先輩みたいに、回復魔法のエキスパートになりたいです!」
「エキスパートってほどではないですよ」
「適性があるだけでも凄いわ。私だって、回復魔法の適性があれば、もっと騎士団に貢献できたと思うもの」
コレットは少し残念そうにそう言った。
「あれもこれもできなくていいんですよ。役割分担できた方が効率もいいですから」
「それもそうね。さすがレンリだわ」
「さすがレンリ先輩です!」
なんだか二人は息ぴったりみたいだ。
顔を見合わせて微笑み合う二人は姉妹みたいに見える。
本当に、コレットはすぐ誰とでも仲良くなれて、羨ましい限りだ。
三人でテーブルを囲んでサンドイッチを食べ始めてすぐ予鈴が鳴った。ミミさんは慌てて残りのサンドイッチを頬張り立ち上がった。
「あ、私は午後の授業があるので失礼します。コレット先輩、サンドイッチ食べてくださいね」
「ミミさん、ありがとう。また、騎士団で」
「はい!」
ミミさんが工房を出ていくと、コレットが僕の顔をじーっと見てニコッと笑った。
「ミミさんのサンドイッチ、おいしいわね」
「はい、おいしいですね。そういえば、今日のサンドイッチは、僕の好きな物ばかりです」
「まあ、よかったわね」
「昨日、ミミさんと会ったのですよね。もしかして、僕の好きな物とか、話しましたか?」
コレットは、サンドイッチをくわえたまま固まってしまい、そして小さくうなずいた。
ミミさんと、内緒にする約束でもしたのかな。
「ええ、話したわ。レンリに可愛い婚約者ができて嬉しい。すっごく」
「ありがとうございます。あの、近衛騎士の試験、どうだったんですか? 手応えというか……」
「うん。実は、合格できて、三次試験が決まったの。実技だけだったから、すぐ結果が出せたみたい。他の受講者は三日前に結果が出ているし、私だけに準備期間が短くならないように配慮してくださっていたみたい」
もう合格が決まったのか。少し寂しいけれど、コレットの嬉しそうな顔を見たら、応援したいと思った。
「そうですか。じゃあ、もう同僚ではなくなるんですね。──でも、ずっと応援してますよ。友人として」
「ありがとう。私も応援してるわ。レンリなら、私の応援なんてなくても、立派な宮廷魔導師になれるだろうけど」
「まぁ、そうかもしれませんね。コレットはどうなのですか?」
「私は、ルーティ様の護衛が主な任務になる予定なの。正直なところ、近衛騎士には知り合いもいないし、少し心細いわ。団長のクウェイル様は女性近衛騎士がお嫌いだという噂も聞いていたから。……でも、今日クウェイル様と剣を交えて」
「えっ、試験で決闘でもしたのですか!?」
「ち、違うわ。少し手合わせをしてくださっただけよ。気難しい方なのかと思っていたけど、そうでもなくて、とても気高くて力強い素敵な剣技だったわ」
手合わせも決闘も、僕には違いがよく分からないけれど、剣技に見とれるくらいコレットに余裕があったってことかな。
やっぱりよく分からないけれど、楽しそうでよかった。
「剣技……ですか。まぁ、うまくやっていけそうで良かったです」
「ええ。レンリはどう思う? その……メルヒオール様は喜んでくださるかしら」
「あっ、そっか。まだ何も知らないんですね。はははっ、楽しみですね」
もしかしたら、またメルヒオール様の爆笑する姿が見られるかもしれないな。
「ええ。楽しみだわ」
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