012 あってはならないこと(団長視点)
試験当日、彼女は簡素なズボン姿で試験会場に現れた。
第二の女性近衛騎士の誕生なるかと、城内で騒がれているが、私は女性近衛騎士など認めない。
ましてや、あのコレット・キールスだ。ライアスの妹であり、実の兄を近衛騎士から抹消させた張本人。
私はコレットの父、アストン・キールスと近衛騎士の同期だった。ガスパルの審議会の後、獄中のアストンからコレットのことを聞いた。
コレットは、周囲を惑わす魔性の女であり、コレットのせいで、キールス家は落ちぶれてしまったのだと彼は嘆いていた。
実の娘に対して、そんな事を言うのは、己の状況に混乱しているせいかと思ったが、コレット・キールスは、ラシュレ公爵を味方につけ、今や彼の婚約者だと聞いた。
兄を、そして元婚約者の弟である幼馴染のガスパル・ダヴィアをも陥れ、公爵を、そして王女すら手駒にする魔性の女。
アストンの言っていた通りだった。
かつて私はアストンを信頼していた。いずれ彼は、団長の座を競う相手になるだろうと確信していた。
しかし、そんな日は来なかった。彼は、外遊先にて賊に襲われた王女を身を挺して守り、腕に傷を負い、剣を振るうことが出来なくなってしまったのだ。
しかし、不運なことに、その功績は称えられることなく、公爵令嬢ラミエル・ラシュレによって無かったことにさせられてしまった。
王女の友人として同席していた、たった十歳のか弱い令嬢が、その賊を短刀で斬り伏せ撃退したのだ。それはアストンが賊に傷を負わせ弱らせていたから出来たことで、決してラミエルの功績ではないのに。
その現場に居合わせていた王妃は、ラミエル・ラシュレだけを褒め称え、自らの権限を行使し近衛騎士の称号を与え、外遊先に必ず彼女を同行させるようになった。
ただのお飾り近衛騎士の誕生だ。
あんなことは二度と繰り返すべきでない。
女性近衛騎士など、近衛騎士の権威を失墜させるものであり、近衛騎士唯一の汚点である。
あの件がなければ、アストンが道を踏み外すこともなかったかもしれないと、私は今でも思っている。
アストンの人生を狂わせた女性近衛騎士の座に、同じく彼の人生を狂わせたコレットが就いたら、彼は何を思うだろうか。
王女に女性の付き添いが必要であり、なおかつ魔法適性がある者をというのなら、宮廷魔導師の中から、王女の身の回りの世話をできる人間を見繕えばよいのだ。
しかし、近衛騎士一人で王女と付き添いを護衛するには難がある。それならば、魔法適性のない近衛騎士は、留学先に常駐させておけばよいだけのこと。
女性に剣を持たせ近衛騎士とする必要はないのだ。
それに、その候補であるコレットは、ただ剣を持つだけでなく、魔法なんぞを使って剣を振るうという。
イカサマを使い我らと肩を並べようなど、言語道断である。
やはり、女が剣を握るなど、ましてや近衛騎士という名誉ある職に就くことなど、あってはならないのだ。
「団長、たのしみですね」
声をかけてきたのは、ガルシア伯爵の嫡男のリアムだ。
近衛騎士の中で唯一高度な魔力適性があり、ルーティ様の護衛が確定している男だ。
「リアム、お前も嫌だろう? 王女とあの者と二人分の護衛など」
「あの者とは、コレット・キールスのことですか?」
「ああ、他に候補を探さねばならないな」
「ほぉ、そうですか。私は彼女に期待していますよ。二人目の女性近衛騎士。格好いいではありませんか」
穏やかに微笑み、リアムはコレットを見ながらそう言った。どうやら、本心からそう言っている様子だ。
ガルシア家は魔法使いを多く輩出している家系だからだろうか、騎士の家系の者達とは、考え方がずれているように感じる。
「格好いいだと?」
「はい。私は、ラミエル様に憧れて近衛騎士になりましたので。ご存じですか? ラミエル様の武勇伝の数々を──」
リアムはラミエルが近衛騎士として帯同した際の、数々の武功を話し始めた。
そんなことは誰でも知っている。
その儚げな美しい姿とは裏腹に、剣に手をかけると帯びる瞳の威圧だけで相手が萎縮したとか、彼女が帯同するとそれだけで襲撃しようとする者すらいなくなるとか。
彼女の背後には、あの前ラシュレ公爵がいると思えば誰もがそうなるであろう。
「女性だからと舐められて決闘を申し込まれたこともあるそうで、たった一瞬で相手の首に切っ先を向け黙らせたこともあるとか」
「……その話は知らないな」
「メルヒオールから聞いたんです。彼とは同級なので。メルヒオールもラミエル様に勝てたことがないそうですよ。ラミエル様は誰よりも俊敏で、相手の観察を怠らないから、こちらの動きは全て読まれてしまうそうです。コレット・キールスは、どんな剣を見せてくれますかね」
「……さぁ?」
どうでもいい。どうせ結果は決まっている。
「それでは試験を開始する。流れは分かっているな」
「はい! よろしくお願いします」
コレットは返事と共に剣を構えた。
癖のない良い構え方だ。形だけは練習してきたのだろう。
近衛騎士の試験には何パターンかあるが、今回の試験は要人警護を主とした試験になる。コレットの背後にある丸太の人形を、襲ってきた者たちから守り切るのが試験だ。
剣は先ほど、こちらで用意した物を渡してある。試験官の目の前で、強化魔法を施したと聞くが、いかほどのものだろうか。
開始の合図とともに、五人の中堅近衛騎士が一気にコレットへと飛びかかった。
彼女は三人分の剣を一度に受けた。常人なら受けきれず飛ばされるか、手が痺れて隙ができるかだろう。
しかし彼女はそれを押し返し、怯んだ隙に左から順に彼らの剣を弾いていった。
これは試験だからルールがある。敵の剣を一人につき、三度弾き返すか、受ける事が出来れば、その敵はその場にしゃがみ込み、それ以上攻撃はしないのだ。
「おお、すごいですね。三人を一気に弾き返しましたよ。返しも早いですね。あの腕なら、護衛として共に行動することができそうです」
「どうせ魔法を使っているから、なのだろう?」
「魔法を使って身体を強化したとしても、あの動きは鍛錬を積まないとできませんよ。どんなに強い弓を作っても、的を射る技術がなければ意味がないですよね。そんな感覚ですよ。あー、私も強化魔法には興味があるのですが、なかなかうまくいかないんですよね。武器の強化は失敗すると逆に壊れやすくなりますし、身体強化は加減が難しくて、使用後に立てなくなったりします。あ、話している内にもう終わりましたね。試験時間は三分ジャスト。ライアスと同じ記録です」
リアムが長々と話している間に、試験は終了していた。
時間はライアスと同じ。確かに、コレットの動きはライアスに重なる部分がある。
しかし、それは魔法あってのものなのだろう。
所詮見せかけだけだ。
皆の前で、彼女のイカサマを曝してやろう。
私は部下たちを下がらせ、コレットの前に立った。
「試験は以上。……だが、いくつか質問がある。よいか?」
「はいっ!」
息ひとつ乱さずコレットは答えた。回復魔法でも自身にかけたのだろうか。
さっきのは朝飯前だとでも見せるためか。癇に障る娘だ。
私は彼女の前へと進み、剣を抜いた。
「構えよ」
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