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010 替えが利くモノ

 翌日、昼過ぎに私は物置から出された。

 渡された簡素な服に着替え、何も知らされぬまま食堂へ連れて行かれると、皆は楽しそうに昼食をいただいていた。

 そして、かつて私の席だった場所に座っているのはガスパルだった。父は、私を見るなり食事の手を止め不機嫌そうに口を開いた。


「お前のせいで要らぬ苦労ばかりした。今後、お前はいなかったものとする。この屋敷から、いや。この国から出ていけ。荷物は用意させた。それを持ってさっさと去れっ!」


 父の言葉を聞いて、私は自分の感情に驚いた。

 悲しさよりも喜びの方が大きかったから。


 私はこの生活から解放されるんだ。

 今回の責任を取るとでも言って自分から出ていこうと思っていたけれど、父から言ってくれて良かった。


 家族を捨てることはどうしても気が引けたから。

 捨てられるのなら、何の未練もなく去って行ける。

 むしろ清々しさすら感じた。


 しかし、その気持ちに水を差したのは、突然立ち上がったヒルベルタの金切り声だった。


「お、お父様っ!? どうしてお姉様を追い出してしまうの? 私にはお姉様が必要だわ。お言葉を撤回してくださいませ!」

「無理をいうな。ダヴィア侯爵とも話し合って決めたことだ。そうだな、ガスパル?」

「はい。コレットを処分しないと、兄との婚約は無理です。父が酷くご立腹で。こんな女と身内になんてなれませんから」


 身内になりたくないのは同意する。

 私はここにいる全員と、家族にも親戚にもなりたくない。

 

「でもっ」

「ヒルベルタ。昨日コレットの事をドアマットと言ったそうじゃないか。あれだってボロボロで使えなくなったら捨てるだろう?」


 グズグズうるさいヒルベルタは、兄が口添えすると、口を尖らせ不満そうに席に着いた。


「お兄様。でも、ドアマットだって、ないと困りますでしょ?」

「いくらでも替えが利くだろう?」

「替え? ……そうだわっ! フィリエルが連れていたメイドみたいな有能な方を雇ってくださいませ」

「そうだな。考えておこう。――おい。いつまで居るのだ。さっさと出ていけっ」


 まだ居たのか。皆そんな目で私を見ていた。

 私は、こんな人達から認めてもらいかたったのだと思うと、馬鹿らしくて笑えてくる。


「……はい。キールス侯爵様。今までお世話になりました。失礼します」


 私は笑顔で礼をし、食堂を出ていった。





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