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001 私の兄妹

 ずっと自分を偽り続けて生きてきた。

 女性らしく淑やかに。

 兄より目立たず、妹よりも慎ましく謙虚に。

 そんな自分を演じてきた。


 そうするように押し付けてきたのは私の家族だ。  

 でも、いくら努力しても認めてくれる人はいなかった。


「お姉様っ! ブーツの紐がほどけてしまったわ。早く結んでっ」

「ええ。ヒルベルタ」


 毎朝、妹の身支度は私が手伝っている。

 朝起こすのも、髪を結うのも私。

 妹もそれを当たり前だと思っている。


「早くしてっ。学園に遅刻してしまうの。あ、課題なんだけど、終わってますわよね?」

「ええ。庭に咲く花とその――」

「内容はいいわ。お姉様は物好きよね。無駄な知識の宝庫ですもの。私は無駄な知識はいらないわ。――あっ、今日はパーティーね。ドレスの準備をしておいて」

「でも……」

「どうせ暇でしょ。あ、もう行かなきゃ。ちゃんとやっておいてねっ」


 ヒルベルタがバタバタと廊下を走り去ると、後ろから声をかけられた。


「コレット。妹の頼みも聞けないのか?」

「お兄様。ですが今日は私の婚約式で……」

「ああ。そうだったか? ヴェルネルも趣味が悪い。新手の嫌がらせか?」

「ヴェルネル様は、そんな方ではございません」

「ふん。まあいい。俺ももう出る。早く剣を用意しろ」

「はい」


 兄は乱暴に剣を取り腰に差すと、私を睨み付けた。


「婚約式か。……お前がこの屋敷から出ていく日が近いと思うと、気分が良いな。――今日は俺の部屋の剣や鎧も磨いておけ」

「えっ?」


 きっと兄は、私に婚約式の準備をさせたくなくて言っている。


 準備が疎かになれば、恥をかくのは私だけではない。

 キールス侯爵家にも傷が付くだろう。

 それを忘れてしまうほど、兄は私のことが嫌いなのだ。

 それとも、婚約式で無様な姿を曝し、婚約を取り消されてしまえば良いと思っているのかもしれない。


「嫌なのか?」

「いえ。お任せください」


 私は深々と頭を下げた後、兄の部屋へ足を向けた。




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