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7匹目

異世界ものの話を読み漁っていた私は、もちろんゲームにも手を出した。


いわゆる乙女ゲームだ。



主人公は異世界に召喚された女子高生。

魔王討伐のための特別な光魔法の使い手として召喚されるんだけど、お話は魔法の練習のための学園からはじまり、魔王討伐まで。


攻略対象は、

学園で出会う第2王子、その友達の魔法使い。

第3王子と、その護衛。


途中、旅の段階で登場する神官と、傭兵。

正体を隠した魔王が攻略対象に加わる。


学園メンバーは好感度の高さで、旅の同行メンバーに出きるかが決まったり、旅の途中の魔物とのバトルがうまくいかないとバッドエンドになってしまう。


全攻略対象をクリアしつつ、隠しキャラまでクリアすると、ようやく逆ハーレムルートが解禁されるやりこみ系だった。




「私ことジュカは名前も出てこない学園のお助けキャラだったけどね」

「待て待て待て待て」

「先輩、図書館ではお静かに」



学園は基本、外部者立ち入り禁止なんだけど、唯一解放されているのが、ここ、大図書館。

図書館に『大』がつくのでお分かりのように、ものすごくデカい。


学園側からも外からも入れるようになってるので、外部者との待ち合わせには格好の場所なんだ。



そこの学習室という名の個室に「じっくり話をしようじゃないか」と私を呼び出したのは、隠れてきたつもりの、マントをフードまですっぽりかぶった、怪しさ満点の先輩だ。


つか、バレバレだって。

アシュ先輩がいる!ってカウンターで騒がれてたぞ。



「つまりなんだ、お前は産まれる前の記憶があって、そこで遊んだゲーム?がこの世界だっていうのか?」

「あくまで、似た世界だけどね」


「確かに登場する人物?は類似しているが、違う箇所も多いじゃないか」


そうなんだよね。名前も微妙に違うし、神官であるヒュースなんか初っぱなからいる。

そもそも旅の目的である魔王は一応討伐されてるし。



「でも私の努力もあったんだよー」

「なんだ努力って」

「先輩と王子が在学中にヒラリちゃんが編入しないように、私の入学を遅らせて」


学園のサポートキャラが私から別の子に変わってしまえばそれまでだったけど。


「ヒラリちゃんだけは大丈夫ってなるはずだった、先輩の女性恐怖症を克服させー」

「怖かった訳じゃない!」


うそこけ。お姉さま方に囲まれて、クールな表情のままぶっ倒れそうだったくせに。


「んで、ヒラリちゃんとは偶然を装って学園外でお知り合いになりー」

「それで普段は他人に無関心なお前が積極的に関わってたんだな。だが、おかしいだろ」

「なにがすか」

「話の通りなら、お前はヒラリの手伝い?をするだけだろ?仮にそのゲームとやらの通りに話が進んでも、お前には痛くも痒くもないだろ」




手首の白黒毛玉を外して机の上に置く。



白毛玉をつつくと、がじがじ噛んでくる。

「先輩、これ魔王なんです」

「あ?」


黒毛玉がぽわんぽわんと跳ねて肩の上に乗ってきたのでつつくと、やっぱり齧られた。


「昔むかし、爺ちゃんな勇者に討伐されたはずの魔王なの。んで、私はこれらがいないとすごく困る」


先輩、頭押さえてないでお話聞いてー


「ゲームではヒラリちゃんは浄化に特化した、すごい光魔法の使い手で、魔王の体内で凝りになっていたものまで浄化しちゃうの。じつはそれが原因で、苦しんでた魔法士が魔王になってましたーって設定でね。

結果、助けられた元魔王も協力して周囲一帯も浄化。ついでにヒラリちゃんとの仲も深まるんだけど・・・手当たり次第、浄化されちゃうとね、困るんだよ」

「・・・・・なんで困る」




「死にたくないし、死なせたくないから」




「ジュカ、珍しく素直だね」

「そうなる前に相手をヤればいいだろ」


するりと首に巻かれた2組の腕の持ち主を、先輩が目を見開いて凝視してる。

まぁ、突然目の前で毛玉から人になったら驚くよね。


「べえさんめえさん、ここ狭いんだから毛玉でいてよ」


そしてめえさん、相手をヤるは、殺るって書いちゃうでしょ。あかんやつね。



「彼らは・・・本当に、魔王、なのか」

「聞いてなかったの?セ・ン・パ・イ君」


べえさん、挑発すんなっての



「ゲームの魔王とは全く別物だけどね。彼らは元魔法士じゃないし、凝りに困ってもいない。むしろ清浄な魔素だけじゃ生きていけない」


「・・・ヒラリの光魔法の強さを見極めてたのは彼等のためだったんだな」

「まあ、概ね」

「僕たちのご飯が少なくなったら、僕たちがお腹ペコペコで弱くなって死んじゃうかもしれないって、ジュカは心配だった?ゲームのとおり、あの子との仲が深まったら困るから?ねえねえ」

「べえさん、ニヤニヤしない!」


そしてついでのように頬を舐めるんじゃない!


「・・・・・『死にたくない』ってなんだ」



顔赤らめつつ視線そらしてスルーするくらいなら、べえさんの行動をつっこんでよ、先輩。


「こいつは先天的な特異体質でな・・・・」


まさかのめえさんが私の体質のことを先輩に説明をしてくれる。




眉をひそめた先輩の苦渋の顔に、気持ち悪がられたかなって、さすがの私もちょみっとへこんでたら、突然袖をがっっと捲られた。


え、突然のセクハラ何事ですか?


「・・・・痣は、ないみたいだな」


ホッとしたように息をつく先輩は、やっぱりお人好しだと思う。


「お陰様で」


「僕たちが常時舐めとってるからね」

「いや、触るだけで吸収できんだろ。べえさんよ」

「つまらないでしょう?」


何がだ。



先輩は何やら考え込んだ後、確認させてくれと向き直った。


「ジュカの覚えているゲームとは、ヒラリの力も含め、だいぶ違うんだな?」

「そうだね。だけど、学園には第2王子のかわりに第3王子がいるし、大まかなストーリーは踏襲してるんだよ。似たようなイベントやアクシデントも起こってるし」


この前のフィールドワークも、ゲームでは第3王子と護衛君じゃなく、第2王子とアシュ先輩だった。

登場人物違いで、でも話は同じ流れだ。



「だから、まだ心配。か」


はぁーーって、そんな大きなため息つかなくても。


「彼らは従魔じゃない?」

「じゃない」

「僕たちもっと深い仲だもんね?」

「シャラァァアップ!!べえさん、話をわざと拗らせないで!!」

「深い、仲」


先輩、先輩、そこ気にならないで!!

つか、魔王云々を直ぐに受け入れたほうがおかしいからね!


「得体が知れない程の魔力を有しているからな、納得だ」ってさ。おかしいからね!



「除名うんぬんもお前の体質絡みか?」

「これは私からホイホイ話せないからナイショ」

「わかった。・・・できることは協力する、くれぐれも1人で無茶なことをするなよ」



マントのフードを深くかぶり直した先輩に礼を言って見送る。


先輩、早速声掛けられてるくらいなんだし、フードは取ってもいいんじゃないかな?





さて、せっかくの学習室だし、少し調べものでもするか。って、刺青の腕が邪魔じゃ!


「めえさんべえさん、毛玉に戻ろうよ」

「お前があちこちの頼みをきいてやってたのは、俺たちの為だったってことか」

「健気だよね。この世界の魔法ごときで僕たちが弱るわけないのにね」


「めぇさんべえさん毛玉に戻ろうか」

「俺たちに事情を話した方が手っ取り早いだろうが」

「健気だよね。隠れてひっそり何とかしたかったんだもんね」


「ぐぬぬぬぬぬ」




だって私は、彼らに返さなきゃいけないものがたくさんあるんだ。



彼らは元々魔王じゃない。

もちろん魔獣でも、魔物でもない。



・・・人でもない。



彼らは私に託された神様だったのに










これは、昔々の私の記憶。




・・・・・・寒い


最初に感じたのは寒さで、次いで痛みが襲ってきた。


冷たく濡れた石畳に寝ていたらしい体を起こすと、ひどくあちこちが痛んで、体を縮めた。

変な模様が描かれた床の上にいる私を、灰色のローブを着た人たちがたくさん取り囲んでいた。



ざわざわとうるさい声は、聞き慣れない言語。



どす、っと棒でつつかれ話し掛けられたけど何を言ってるのか分からず首を捻ると、体に激痛が走った。

棒で殴られ、再び石畳の床に倒れた私の手足に、枷がつけられた。




訳が分からない。

ここはどこ

ここはどこ



自分の部屋のベッドで寝ていたはずだ。


薄い寝間着の着物は、いまはじっとり濡れて体を冷やすばかりだ。


枷から伸びる鎖を引っ張られながらつれてこられた部屋にはたくさんの檻があり、その中のひとつに放り投げられ、がちゃんと錠が下ろされた。



訳が分からない

ここはどこ

ここはどこ

自分はどうなったのだ



小さく体を縮こませながら、指輪にそっと息を吹き掛けて呪文を唱える。


ようやく言葉が理解できるようになると、そこには絶望しかなかった。




私は別の世界に召喚されたんだ。




同じ部屋の檻の中には、背中に鳥の羽のある人、掌ほどの大きさの人。体半分が獣の人など様々だった。

この中で唯一1人だけ思念で会話できる人がいて、この世界の事を教えてくれた。


彼は部屋の中では一番古株で、60日程前に別世界から召喚された、2足歩行する鳥のような人だった。



この国では王家と、教会とで権力を2分しているらしく、私たちは相手の脅威となるべく召喚された駒なのだという。

権威と力の主張として見世物にされ、実際に闘わされるのさ、と彼は言った。



帰ってこない奴もたくさんいるんだと。




大体20日に1度、強そうな奴から連れていかれると聞いていたのに、召喚された3日目に檻から出されて、初めて絶叫して抵抗した。




けれど連れていかれたのは闘う場所ではなく、最初の冷たい石畳の場所で、そこが召喚の間なのだと知った。


闘わされずに済んだと安堵していると、灰色のローブを着た3人に囲まれ、お前より強い奴を召喚しろ、と言われた。

言葉が分からないふりをしたら、頬をはられ、頭を石畳に打ち付けられた。



カラスから報告をうけてるんだと、ローブの人たちは言った。



この世界を教えてくれた人は、親切だった訳じゃなく、次回の呼び出し免除のかわりに、私が僅かながら魔法を使えることも、言葉が分かるようになったことも密告してたんだ。



代わる代わる蹴られ、殴られ、王家に尽くせることを光栄に思えと迫る。お前じゃ役立たずだと詰り、召喚しろと言われ続けた。


ふるわれる暴力が怖くて恐くて、




3日目に、喚んではいけない名前を喚んだ。





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