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6匹目

私は彼らがいないと生きていけない





この世界がどんなにファンタジー成分満載だろうと、医療技術に変わる治癒とかの反則技があろうと、不治の病や呪いとか、治せないものも存在する。


聖女の血筋に産まれても、聖魔法の力に恵まれないことは珍しくないけど、私の場合、反則技の効かない特異体質として発現してしまった。



凝った魔素まで体内に取り込んでしまうのだ。



通常、人はその辺にうようよしてる魔素を取り込んで魔力に変換するんだけど、体の防御機能で、凝って毒性を持った魔素は本来は弾かれる。


だけど、吸引力の衰えない掃除機も驚く程、周囲の魔素ならどんなものでも吸い込んでしまう私は、浄化の為の聖魔法を付ききりでぶっ通し掛けて貰わねばならず、産まれて3日目には余命を宣告されてしまったのだった。



凝りの毒は体内に溜まり、痣のように肌に浮き出る。


婆ちゃんと母ちゃんがへとへとになるまで頑張ってくれても、元の肌の色が分からなくなるほど、全身赤黒く染まっていた生後1週間の私を助けてくれたのは、べえさんことベーゲルドットと、めえさんことメーデルダットだった。



彼らは魔素が主食だ。

凝りの毒性などは屁でもないらしく、対象に触れて魔素を吸収摂取できた。



私はずっとずっとずっと、彼らに助けられ続けて生きている。






「だからって、貪りすぎだと思う、今日この頃。ジュカ、こころの俳句字余り」

「ジュカ様、そちらに行きましたー」


メンバーの子の声に、身を潜めていた繁みから覗くと、丸々太った兎が数羽こっちに向かってきていた。


可愛いけど容赦はしないよ。

短剣に魔力を乗っけて投擲すると、晩御飯のお肉ゲットだぜ!




「いただきます」

「おいひぃ!でゅかはん、おいひぃ!」

「そりゃなにより」



基礎科のフィールドワークって2泊3日の野外研修は、ヒラヒラドレスが普段着な高貴な学生には不評この上ないけど、私からすれば従魔つれててもよくて、魔獣にもほぼ遭遇しない、素材採取するだけの、ぬるーい研修だ。


5人組のメンバーのうちの1人はヒラリちゃんで、私が兎ちゃんの毛皮をばりばり剥いで血抜きしてる間は、涙流してぶるぶるしてたくせに、今は串焼肉を頬張っている。


人間てゲンキンだよね


こちとら腰痛を我慢して仕留めて調理までしたんだい。


「はー、どっこらしょ」

「ジュカ様は手慣れていらっしゃいますね。いつもそのように従魔と連携を取って、ご自分で素材を採取されていますの?」


食後に白黒羊毛クッションにばっふりと寄り掛かってダレていると、メンバーの子に話し掛けられた。

広範囲系の魔法が得意な子爵令嬢だ。うん、話し方も令嬢だよね。


「連携ねぇ」

「賢い羊さんですよね!私も従魔ほしいなぁ」

「あらヒラリさん。貴女には付き従ってくれるかたがいるじゃありませんか」

「ヒュースさんじゃ、かわいくありませんもん」


ひつじどもも可愛さとは無縁ですぜ。


腰痛の原因のひつじたちにレロレロ舐められてた手を引っこ抜くと、本当によく懐いてますわね、と微笑ましそうにしている子爵令嬢に、ひきつり笑いを返す。



「明日は目的の湿地に着きそうだな。ヒラリには凝りの浄化をして貰うから、今夜はしっかりからだをやすめてくれ」

「はい王子!」

「はは、王子はやめてくれ。同じチームなんだしレナウドでよい」


なんと同じチームにいる、第3王子のキラキラスマイルにヒラリちゃんともう1人がぽわん、としている隙に、護衛君の脇腹をつつく。


「あんたんとこの坊っちゃんはいつからキャラ変したのさ」

「兄君たちの良いところを手本にするらしいです」

「現実は」

「人はそんなに直ぐには変わらない」



学園に入学するに当たり、私の裏事情な立場とか身分がなくても積極的に関わりたくなかったんで、他人の振り知らんぷりしてたってのに、第2とともにやたら絡んできやがった阿呆が、同期でもある、この第3王子だ。


そして兄弟で一番ネチネチ君だ。


護衛兼側近君は、入学当初から何故か私に絡みたがる王子の奇行に苦労した人で、何気に私とは仲良しだ。




護衛君の苦労を労っていると、湿度のある視線が。

さっきまで振り撒いてた愛想はどこ捨てたんだよ、暗すぎて怖いわ。ので、被害に合う前にバイバイして自分のテントに戻る。




個人用の小さなテントはプライバシーは保てるけど、ひつじたちと一緒に寝るには窮屈なサイズ。

だけど外で寝てくれるって選択肢はないみたいで、結果ぎゅうぎゅう詰めだ。


「べえさんめえさん、明日の湿地には多少魔獣がいるんだけど、その討伐も研修のうちだから、さくっとやっつけちゃダメね」


返事のかわりにれろり、と頬をめえさんが舐める。

やめれ


「魔獣から魔素をとるのは討伐後なら大丈夫って、そっちの話じゃないの?」


べえさんが耳の魔石のピアスをべろりと舐める。

やめれ


「あー、そだね。私も討伐に参加せにゃいかんから、多少魔力は使うよ。だから明日はあんまり食べて貰わなくて大丈夫かもね」



ピアスの魔石は私の中の魔素センサーだ。

凝りの場合は分かりやすく痣になるけど、ただの魔素だって溜まりすぎたらはち切れるので、私が破裂しないように、取り込んだ量で色が変わる。


その色を目安に、べえさんとめえさんが魔素を引っこ抜いてくれるんだけど


「やめれ!!両側から舐めに来るとか!っつうか、ほんと今更だけど、ぎゅってするだけでいいんじゃなかったのか!」


ひつじの目でもわかる。

べえさん、呆れたな、今。


いやいや、確か触るだけで吸収できたはずだぞ。

転生記憶が戻る前までは、おさわりメイン、時々頬チューくらいだったのに、おかしいな。


「ちょ、めぇさん!くすぐったいから!!っあ、

っうひゃっ。やめっっ、どこ舐めてっっっ、んあ」


ぎゅう詰めであんまり身動き出来ないのをいいことに、寝に落ちるまで舐められ放題で大変な晩になった。





「おぬしは従魔と何をしているのだ!!」


翌朝、頬を赤く染めつつ興味津々なヒラリちゃんたちを背後に、目をギラギラさせた王子に食って掛かられだ。


「何って?ひつじとじゃれてました」

「あ、あ、あんな、あんな声を出すなど破廉恥だっ」

「あんな声?」


・・・わかったけど、もちろんとぼけるさ。

ひつじどもめ、防音の結界、わざと張らなかったな。


「レナウド殿下、そろそろ出立しませんと」

護衛君に促されてようやく立ち直った王子が、ごほんと咳払いする。


「よ、よし。ここから北に進むと湿地にたどり着く。そこに住むベアフロッグという魔獣をたおし、粘膜を採取すれば研修修了だ」



王子と護衛が前衛。私と子爵令嬢で後衛と支援。ヒラリちゃんは辺りの凝りの魔素の浄化。護衛君の従魔とひつじたちを合わせれば戦力としては申し分ない。


むしろ過剰なんだけどね




湿地に近付くと、地響きみたいな蛙の大合唱が聞こえてきた。ベアフロッグの名前通り、熊サイズな蛙がドン引きするくらいの数がいる。


「ま、まずは私が辺りを浄化します!」


ヒラリちゃんの光魔法を合図に討伐が開始だ。


こやつらは跳ばれると厄介だけど、的が大きいから狙いやすく当てやすい。その上、ヒラリちゃんの浄化で行動が鈍くなってるので、ひつじの蹄パンチだと一撃で済む。楽チン。



あらかた討伐を終えて、それぞれが粘液採取を始めた頃、私はちょっと離れたところから、王子とヒラリちゃんを見ていた。




蛙討伐を終えて気が弛んでいるのだ。

鼻歌なんて歌いながら採取をしているヒラリちゃんに、湿地にいるのは蛙だけじゃないぜとばかりに躍りかかってきた大木みたいなミミズを、王子がヒラリちゃんを抱き寄せつつ剣で応戦。


護衛君も参戦し、あっという間にミミズは討伐されてしまった。



抱かれたままだったヒラリちゃんが、真っ赤な顔で王子にお礼を言うと、王子が真っ赤になって慌てて手を離したもんだから、体制を崩したヒラリちゃんを再び胸に抱き止めることになり、2人とも湯気が出るほど赤くなっていた。



「うーん、やっぱりある程度はストーリーなぞってるるんだな」


ぽそりと呟くと、足元のひつじたちにごすごすと頭突きをうけた。


「帰ったらね。そろそろ白状するってば。因みに今夜、二人の仲はもうちょっと進むはず」



たしか、夕飯の後、みんなで囲んでいた焚き火から離れていく王子を心配してヒラリちゃんが後を追う。

ヒラリちゃんは改めてお礼を言うんだけど、王子は気を抜いた自分が悪かったと項垂れてしまう。


兄王子に比べてリーダーとして上手く出来ない事を悩んでいた王子は苦しげにそう告白すると、ヒラリちゃんは、何でもそつなくこなす人じゃないからこそ親しみがもてる。私なんかでも手が届きそうで勘違いしちゃいます、とおどけるのだ。


王子がヒラリちゃんを意識し始めるきっかけとなり、悩みから片足踏み出すきっかけとなる場面だ。



登場人物も微妙に異なっている現状と、今のヒラリちゃんが、どこまでストーリーをなぞるのかはわからないけど、近しいアクションはあるはず。






ここが、私の知ってるゲームの話に似た世界であるのなら。


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