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3匹目

「おお、下界に帰って来た」

「ジュカさん、それじゃ仙人みたいですよ」



王都まで遠く離れていないこの街は、さほど大きくはないがそれなりに賑わいがある。

立ち並ぶ露店を冷やかしていると、先触れが出てたのか、明らかに教会関係者な佇まいの面々が行く手を塞いでいた。



街では浄化作業ではなく、教会に参拝(という名の布教活動)がお仕事らしい。関係者しか招かれないことが殆どで、ヒラリちゃんと銀髪がドナドナされていくのを手を振ってにこやかに見送ると、他にやることがない。


とどのつまり私は暇人になった。



ひつじたちをつれてる私は悪目立ちもするので、要らぬトラブルを避けるために早々に宿に引きこもる。

先輩のような従魔をつれてる旅人用の宿に泊まるので、ひつじも同室だ。従魔じゃないけど。


あ、ちなみに先輩の従魔はお空を飛んでる首が2つある大きな鳥さんで、喚ばない限り降りてこない。

学園で初お目見えしたときに涎を垂らしてからは、私の前には極力姿を見せてくれない恥ずかしがり屋さんだ。






「で、実のところ何のために旅に同行してるんだ」



滞在が2日になると知ると、ガラさんとチュイムさんは装備の手入れのために街へと出ていってしまった。

夜には戻るって言ってたから、夜までは戻らないつもりなはず。


そうそう、2人は教会に雇われた傭兵さんなんだって。

「そこそこのランク」の傭兵だと言っていたから、実際はBランク以上じゃないかな。

仮にも、わざわざ召喚した大事なヒラリちゃんのお供だしね。



そして、なぜかヒラリちゃんのお誘いを断り、宿に居残って私の作業を手伝っているアシュ先輩は、渋い顔で問いかけたあと、ぐっと石に魔力を込めると私に手渡した。


「おお、さすが先輩!あっちゅー間に均一に魔力込めとか片手間か。どんどんやってくれたまえ」

「誤魔化すな、ジュカ。お前にとって同行のメリットはないだろ?」



私は先輩の質問をまるっとシカトする。

これから集中力が必要な作業すんのに、私のなけなしの集中力を奪っちゃいかん。


昨日採ったばかりの薬草から生成した薬液に石を浸すと、術式陣の紙の上にそっと置き、指先でとんとんとたたく。



『其は悪しきを弾くもの。害なすものの壁となれ』



ちかっと光を灯すと完成だ。


「よきよき、さすが私」

「相変わらず細かい作業が得意だな」

「得意分野はぐんぐん伸ばす方針なんで」



この世界の人は生活魔道具を使えるくらいには、みんな魔力をもっている。魔方陣からなにかを呼び出したり、魔法少女よろしく呪文を唱えて事象を引き起こすには、一定以上の魔力が必要になるけどね。


術式陣の紙を摘まんで「守護石づくりか」と呟く先輩は、魔力が多過ぎて細かな作業は苦手なタイプだ。


注ぎ口が大きすぎて溢しすぎちゃうか、受け手を壊しちゃうんだと。

贅沢な悩みだな。

私は普通よりちょい多い魔力を無駄なく効率よく使えるのだ、えっへん。


・・・だれだ、ケチ臭いとか言ったやつ。




「学園の課題か?」

「んーや。そろそろお暇しようと思って。なんで謝礼兼餞別」


ちゃちゃっと残りを作ってしまい、振り返ると先輩の目が怖い。


「お暇だと?」

「はい、これみんなに渡してね。もう学園のある王都まで街1つじゃん。早く着きすぎだし、他にやりたいこともあるから、この街までかなって」

「なんだやりたいことって。本当の理由はなんだ」


えー、先輩えっちーってはぐらかしたら腕を取られた。

しまった


「とっとと吐け」

「もうメリットがないからですよー」

「だからそれを聞いてただろうが」

「光魔法の使い手の実力の検分です、以上」


力が緩んだ隙に腕を取り返す。先輩もでしょ、言うと目を見開いた。


「平定しているはずの今、なぜわざわざ教会が召喚をしたのか。実力はいかほどか。・・・・先輩が誰の指示で動いてるのか想像はつくけどさ。色仕掛けでもして手の内にいれておけ、とか言われたんじゃないっすか」


「お前どこで!」

「先輩のスペックと背後関係知ってるし、ちょっと考えればわかるっしょ。ほんでもって私は、先輩たちとは全く別の理由で探ってました」

「なんの理由だ」

「ひみつ」


紺色の綺麗な髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜて、大きなため息をつく。

イケメンはどんな格好でも見れますな。



「わざわざ色仕掛けしなくてもヒラリちゃんは先輩に惹かれてるみたいだし、よかったね」

「いいわけあるか。だいたい彼女自身は召喚の裏側の情報は何も知らないんだぞ」

「お付き神官のヒュースもさほど知らないしね。だからこそ教会に滞在するときがチャンスなのに。ここで何してんの、アシュ先輩」


がっと頭を両手で掴まれ、ぐりぐりされる。

やめれ、地味に痛い!


「堂々巡りさせる気か。お前の旅の同行理由をはっきりさせるためだろうが」

「・・・先輩。人を思いやる優しさも程々にしないと、自分が痛い目見ることになりますよ」

「あぁ?」


私の頭を掴んでいる腕を引っ張って、高いところにある先輩の頭を引き寄せる。


「学園でしか付き合いのなかった後輩の心配なんぞしなくていいんです。私がどんな理由で同行してようが、その結果どうなろうが、そりゃ私の責任なんだから知らんぷりすりゃいいんですよ・・・チュイムさんは先輩も見張ってるよ、気を付けて」


耳元で囁き、イタズラ心でそのまま耳に口づける。


「んじゃ!皆さんに宜しくね!」

「ばっ。おまっっ、ま、待て!」



相変わらず女子への免疫ないな。

顔真っ赤だよー


背後に回り込んでいためえさんの背に乗ると、窓から飛び出す。おひゃ!3階からダイブとかスリル満点!!


タイミングよーし

荷物よーし

うちのひつじたち、やっぱり優秀だわー


「ジュカ!!待て!!!」


待つわけないじゃーん。


背中に先輩の声を浴びつつ、振り返らずに街を駆け抜ける。先輩の空飛ぶ従魔に見つかると厄介なので、森に逆戻りして息を潜めるかな。







「もうちょっと奥まで潜ったほうがいいかな、どうする? めえさん」


さっき背中に乗せていたのは緊急事態だったからだとばかりに振り落としてくれた白ひつじは、ちらとも振り返らずに森の奥へとずんずん進んでいく。


もうすぐ日暮れだ。

出来れば火をおこしても空からわかりづらい場所が見つかるといいんだけど、羊毛から立ち上る怒気に声が掛けられぬ。



「・・・なんかめえさん怒ってるんだけど。べえさん、私なんかやらかした?」


ごす、と頭突きをうける。

うん、やらかしたんだね。さっぱりわからんけど



黒ひつじに小突かれながら白ひつじを追ってしばらく歩くと、山小屋が見えてきた。

「めえさん、べえさん、ここひとん家じゃ・・ないのか」


扉にある張り紙をみると、共同の休憩場所のようで自由に使っていいみたいだ。家具とか何もないけど、部屋の中で寝られるんなら文句は言わない。



「ほんじゃ、暗くなる前に腹拵えのための材料調達に行ってくるよー。・・・・行かせてよー」


外に出ようとする私の腕を、がっちり2本の腕が引き留めた。

ひつじのモフモフ感ゼロの、人の腕。



「こっちの腹拵えが先だ」

「わかってるんでしょ、ジュカ」


不思議な紋様が刺青みたいに入っている腕の持ち主たちを、もちろん知ってる。

黒髪と白髪の、神々しい美しさと荒々しさが絶妙にブレンドされた、見上げるほど大きな2人。


知らないはずない、だってひつじたちだ。



なんで屋内に連れてこられたのかも、本当はわかってるさ。



「あははははは。いやぁ、もしかしなくても、2人とも腹ぺこな感じ?」

「散々こき使っておいて。当たり前だ」

「先送りにするほど負担がかかるのはジュカ自身でしょ?」

「・・・・・・・・へい」




部屋の隅にあった、なけなしの敷物の上に転がされる。

覆い被さるように首筋に顔を埋められると、白髪がかさってこそばゆい。


「ん・・・・・いった!」

ガブっと噛みやがった!


「メーデル痛い!なになに、なんで怒ってんのぉ!」

「・・・・・」

「だんまりか!ふぁっ」


反対の首筋をれろり、と舐め上げた黒髪がにたりと嗤う。

怖っっ


「僕らの目の前で唇を男に寄せるなんてさ、どーいうつもりなのかじっくりとっくり聞かないとね」

「ベーゲル、あれはただのイタズラでっ、んやっ。ちょ、たんまたんま!」

「待つわけないでしょ、馬鹿なの」

「思い知れアホジュカ」


「おおおおお手柔らかにぃぃ」







自分の腹の虫で目が覚めたときはすっかり外は暗くて、いつどっちがつけたのか、ランプがぼんやり明るい。


・・・ムーディーですね



「お腹ずいだぁあ」

「ジュカはいつまでたっても情緒が欠如してるよね」

「情緒で腹はふくれないもん。ベえさんご飯食べたいよぉ。ん?」


お肉様のいい匂い。


転がったままちょびっと顔を上げて、ふんふん匂いを嗅ぐと「犬猫かよ」ってめえさんが鼻で嗤う。

・・・ひつじめ



「ほらこっちこい。これたらな」


お肉様に向かってずりずり這っていくけど、腕がプルプルして全くもって進めない。なんの苦行だ。


「ベーゲルぅ、メーデルぅぅ」

無念、ここまでじゃ


パタリと腕を落とした私を拾い上げたべえさんは、胡座をかいためえさんの足の間に私を設置してくれる。大人と子供ほどの体格差があるから安定感は抜群だ。


ホクホクしながら串焼き肉に手を伸ばすと、べえさんが代わりにとって口に運んでくれる。

うまうまもぐもぐ


「たくさん食べなね。この後も長いから」


もぐ

「・・・・・この、後」

「家を出てから6日たってんだぞ。まだまだ全然足りないに決まってんだろ」

「もう終わりだと思ってたの?バカだねジュカ」

「・・・・デスネ」





意識が時折吹っ飛んでるので『多分』それから2日後、

私達は白亜の聖殿で優雅にお茶会に参加していた。



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