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2匹目

「え、爺ちゃんボケた?っったぁ!!!」


デコピンを喰らった額が割れそうに痛い。加減を知らんのか、爺ちゃんめ。


「本気か、爺さん。この娘を一緒につれていけなんて、俺たちただ旅してるわけじゃないんだぜ」

「魔素の浄化してるのよ?当然魔物にだってよく出くわすのよ?怪我するだけじゃ済まないかもしれないのに」



召喚されて半月。基本的な情報だけかっ詰められると、後は実践でとばかりに旅に出されたらしいヒラリちゃん。

右も左も分からんまま、言われるがままの旅は最初は楽しくもあったけど、すぐにしんどくなってしまったそうだ。


・・・そりゃそうだろ



余程疲れていたのか、離れに泊まったその晩に熱を出して寝込んでしまったヒラリちゃんの回復を待つこと4日。


ごりマッチョことガラさんは畑仕事に。男前お姉さんことチュイムさんは狩人として働かされ、銀髪ことヒュース(いやこいつは銀髪でいいや)は、ヒラリちゃんの周りをウロチョロ邪魔くさいので、手に魔石を持たせてヒラリちゃんの部屋の前に設置。魔道具の蓄電池として消耗されていた。爺ちゃんに。


すっかり元気になったヒラリちゃんが出す、もっと日本のお話したいです、一緒にいたいですオーラを問答無用ではね除け続けたってのに、明日出立って時になって爺ちゃんが「ジュカも一緒に連れて行け」とか言いやがったのだ。



「なに。王都へむかっておるのじゃろ?ここまでくれば、あと山2つに街も2、3程だったはず。どうせひと月後には学園が始まるんじゃ。ジュカはちと早い帰省終了なだけじゃろ」

「爺ちゃん、さては旅費ケチるつもりか」


実は私は今、王都の学園からの帰省中だ。年に3回ある長期休暇以外は、学園の寮住まいなのだ。

ここから王都の学園までは歩いて10日程。いつもは近くの街まで歩き、そこからは乗り合い馬車でいくんだけど、さては馬車代浮かせるつもりだな。



「ガラさんよ。こやつは王立学園に通ってることから判るように、阿呆じゃが馬鹿ではない。だが圧倒的に足りんのが実戦での」

「俺らに子守しろっての?」

「子守はそこの羊どもがやる。その環境に身を置かせてくれるだけでいいんじゃ。手助けも必要ない。余程足手まといになるようなら途中で置いていってよい」

「え、爺ちゃん。スパルタすぎない?私かわいそうじゃん」



なぜか私の押し売りのようになっている。扱いがあまりにアレで泣きそう。どうせ嘘泣きバレるから泣かないけどさ。



と、元気な帰宅の声とともにヒラリちゃんと銀髪が帰って来た。

前の街で別れ、途中で合流する予定だったという仲間を迎えに行っていたのだが。




「なぜお前がここにいる」

「おー、アシュ先輩ひっさしぶりー。え、先輩がヒラリちゃんのお仲間?」


去年卒業した、頭脳明晰魔法超エリート顔よし性格よしの先輩は、魔法省の各部門から引く手あまただったはず。


「あれ、魔法省クビになったんです?」

「そんなわけあるか。・・もしやここはお前の家か」

「正しくは爺ちゃんの家ね。あ、みんなごめんね」


すっかり置いてけぼりになっていたヒラリちゃんたちに先輩との関係を話しておく。面倒くさいから先輩どうぞ。


「学園の在学中に散々迷惑をかけられてたんだ」

「えー。女狐怖いって泣くから、助けてあげたじゃないですかー」

「・・・泣いてはいない。こいつとはこいつの入学直後からの知り合いでな。まぁ何だかんだと世話をした」

「世話してやりました!」

「俺が!お前を!だ!!」



「・・・仲良しなんですね」

ヒラリちゃんの泣きそうな顔に、ピンときた賢い私はもぐっと口を閉じた。


恋する乙女的なアレですね?了解了解、私はライバルじゃないですよー




「で、アシュカルスはお嬢ちゃんを随分知ってるようだが、一緒に連れてっても問題はないのか?」

「こいつを?あぁ、学園に戻る時期か。能力的なことを問うているなら問題ないぞ。自分の身は守れるはずだ」

「私は反対だ!こんなお荷物の女など、ヒラリ様の御迷惑になるではないか!」


銀髪がギャンギャン騒いだけど、ヒラリちゃんに上目遣いで『お願い』されて、あっさり陥落してた。

つくづくダメな奴だな、銀髪よ





そんなこんなで、ヒラリちゃんこと聖精教会に召喚された光魔法の使い手な女子高生を中心に、大剣使い、弓使い、神官、魔法士の中に、私とひつじ2体が加わった変則パーティが出来上がったのだ。





出立してから早3日。

魔素の凝っている箇所を銀髪が探してはヒラリちゃんが浄化。近くをウロウロしてる魔物はその他メンバーが討伐。

私は邪魔にならないところで学園で使うための素材を採取しつつ、討伐の手伝いをしている。

主にひつじが。




「ごっはん、ごっはーん」

ふふふーんと鼻唄を歌いながら、鍋をぐるぐるかき回す。


「お前が着いてきたよかったのは、飯が格段に美味くなったことだな」

「今まで、焼く!食う!のみの日々とかどんな試練か。ヒラリちゃんが不憫すぎる」

「仕方ないじゃなーい。誰も料理できないんだもの」

「ジュカさん大好きです!!このあと日本のお話もしたいです!」

「そっちは却下で」


大好き、の言葉に銀髪がぎっっと睨んできたけど、だったら旅の前に料理出来るやつを手配したれ。


チュイムさんが射落とした鳥さんはスープの中でお肉ホロホロで大変美味っす。骨もだし用にとってある、賢い私をもっと誉めるといい。


「確かに飯の出来でやる気も変わるもんだな。次の旅からは考えないとだなー」

「ガラさんならすぐ気づきそうだけど、何で今頃」

「アタシもガラも、野営の不味い飯を食べなれちゃってる弊害よね。それより、ほんとうに貴女、手がかからないわね」

「だな。足腰強いし、勘も鋭い。正直、あの神官より手がかからんな」


あざっす。

爺ちゃんに17年鍛えられるとこうなるよ!オススメしないけどね!


「それに、時々ヒラリはおかしなことを言うだろ?」

「ニホンの・・・ってやつ?」

「ああ、まったくどこから連れてきたんだか」


だから日本ってとこだけど、知らない人にとっちゃ意味不明だもんね。




「そしてあの羊たち。本当に羊なの?」

「見たとおり」

「魔獣の類いじゃなく?魔物、バッタバッタ倒してたけど?」

「私の護衛兼寝床兼癒しです。機嫌を損ねると私の生死に関わるので取り扱いにご注意下さい」



皆で焚き火を囲んでご飯を食べてる間は、私の背後でもっさり丸くなっている白黒ひつじたち。

微動だにしないけど、こっちの話を聞いてることも、ちゃあんとわかっておりますよ。


「そういえば、魔獣と普通の動物の違いって何なんですか?見た目で魔物はわかるんですけど・・・」

「わぉ、まさかの今更疑問」


銀髪め、そんな基本的なこともヒラリちゃんに教えとらんのかい。


「あ、目が紅いのは知ってますよ?だからその羊さんたちが魔獣じゃないってこともわかります!」

「おいおい、それだけか?」


さすがにガラさんも呆れ顔で銀髪に目をやると、バツが悪いのか顔を赤らめて、出立までの時間があまりに少なかったのです!と捲し立てた。


いやいや。他所から喚んだ女の子を旅に出させるなら、せめて基本知識をいれてからにしてやれよ。


「先輩教えたげてー」

「何で俺だよ」


なんだかんだ1番面倒見がよいからです。




「普通の動物との違いは、体に魔素を取り込んでるかどうかだな。そして知能が格段に高い。瞳は紅く、動物に比べて体がひとまわり大きいことが多いな」

「魔素を取り込んでるから、変な魔法みたいの使うやつもいるわよー」

「へぇー」


魔物は、形状が明らかに動物とは違うんだけど、特性は似たようなもので、魔獣と同じように従魔として使役する人も多い、などなど。


丁寧に説明する先輩を、頬を紅潮させて一生懸命聞いてるヒラリちゃんは、見ててムズムズするくらいかわいい。



先輩はちっとも気付いてないし、銀髪が歯がかけるんじゃないかってほど、歯軋りしてるけど。





ひつじたちがすり寄ってきたので、もっふとめえさんの首に抱きつくと、べえさんが首筋をれろりと舐めやがった。やめれ



「おい、ジュカ。学園についたら羊はどうするんだ。さすがに入れないだろう?」

「先輩が使役するような従魔とは違うからねえ。まぁ、賢いひつじ達なのでどうとでも」

「馬じゃないんだし、羊だけで帰らせたら狩られちゃうんじゃないの?」

「チュイムさん、狩れると思います?」

「・・・・・無理だな」

「無理ね」


うん、うちのひつじ強いんで。





明日は森を出て街に出る予定らしい。この分だと学園に大分早くつきそうだなぁ。どーすっかなぁ。


私は火の番を最後にしてもらって早めに休む。ヒラリちゃんは簡易テントの中だけど、私は自前のお布団をお持ちのひつじに埋もれさせてもらう。



教会から特別に支給されたっていう、異次元収納バッグはそれなりの容量が入るらしく、ヒラリちゃんたち身軽だなと思ったら、殆どの荷物をそこに入れてるらしい。


だからこそガラさん達とは違い、簡易とはいえテントで寝られるヒラリちゃんだけど、今日も別れ際、ひつじにダイブする私を羨ましそうに見てた。


気持ちは判るが、これは私専用だ。



めえさんとべえさんの間に挟まるように体を埋めると、両脇から隙間をなくすようにぎゅむっと押してくる。


安心感の中で思いっきり息を吸い込むと、僅かに両脇が揺れる。

ナイススメルだひつじたち。こしょばゆいのはわかってるけど、頬を舐めるのはよしてくれ。掌の甘噛みもやめていただきたい。


「おやすみ、めえさんべえさん。何かあったらよろしくね」




こうして爆睡コースに入った私は高確率で寝過ごし、先輩に叩き起こされるまでが、野営のパターンとなっていた。


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