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お題小説

サイン帳

作者: 水泡歌

 今日は高校の卒業式。

 いままでお世話になった先生や友達に別れを言う日。

 私は気持ちのいい別れをしようと思っていた。

 なのに、何でこんなことになったんだろう……。


 卒業式が終わった後、私は親友の友香と話していた。

 一緒に写真をとって、また絶対会おうね。なんて約束して。

 そこまでは良かったんだ……。

 それは友香の一言から始まった。

「あ、けど、私達、同じ大学なんだから、また絶対会えるじゃない」

 友香が何気なく言った。

 私の動きがとまる。

「え?」

 友香は不思議そうに笑いながら言った。

「だって優の所にも昨日合格通知来たでしょ?」

 私は唇を噛む。

 そして言う。

「私の所、来てないよ。」

「え?」

 友香の驚いた顔。

 私は自嘲気味に笑って言った。

「私の所に来たのは「不合格」って書いた紙だけ。友香受かったんだ。良かったね」

「あ……」

 友香はそう言うと下を向いてポソッとつぶやいた。

「ごめん……」

 その言葉で私の中の感情が爆発してしまった。

「あやまらないでよ! 同情の言葉なんてかけられたくない!!」

 友香の体がビクッと揺れる。

「私、みじめじゃない……」

 私はかすれた声で友香にそう言うと、その場から駆けだした。

 それが卒業式での私と友香の別れ方だった。


 家に帰ってから、私は自分の部屋に入り、激しい自己嫌悪におそわれていた。

 友香は悪くないのに、何であんなことを言ってしまったんだろうって。

 ふと机の上の不合格の通知が目に入る。

 私はそれを乱暴に取るとビリビリに破きだした。

「こんなものがあるからっ、これのせいでっ」

 破かれた紙が部屋に舞った。

 私はベッドに突っ伏すとボソッと一言つぶやく。

「ごめん、友香」


 次の日の朝。

 私はボーっとした頭のまま台所に行った。

 昨日はほとんど眠れなかった。

 携帯を握ったまま、ずっと友香のことを考えていた。

 台所に行くと母が朝食を作っていた。

「おはよう、母さん」

 私がそう言うと母は後ろをむいたまま私に言った。

「優、ごめんだけど、新聞取ってきてくれる?」

 私はその言葉に従うとパジャマ姿のまま、のろのろとポストにむかった。

 ポストを開けるとそこにあったのは新聞と……一枚の紙だった。

「?」

 私は不思議に思い、その紙を取り出す。

 それは、一枚のサイン帳だった。

 私は思い出す。

 私が卒業式の前日に友香に「書いて」と言って渡したものだと。

 急いでサイン帳を見ると名前の所に飯田友香と友香の名前が書いてあった。

 友香がここに来て入れていったのだ。

 私はその場に座り込み、そのサイン帳を見ていく。

 あなたの好きな食べ物。あなたの好きな歌手。そんなとりとめのない質問が続くなか、私は一つの質問で目を見開いた。

 あなたの大切な人は?

 石田優!

 涙が止まらなかった。

 でかでかと枠をはみ出すぐらいに書かれた私の名前が涙が止まることを許してくれなかった。

 そして最後の「私に一言」の欄に彼女は書いていた。

『昨日はごめんなさい。私、まだ優の友達でいたいよ』

 私は立ち上がり、急いで自分の部屋に向かった。

 することは決まっている。

 友香に電話するのだ。

 わたしの大切な人に電話するのだ。

 そして伝えるんだ。

「これからも友達でいてください」って。

「私の大切な人は飯田友香だよ」って。

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