渡れよ荒波、と警官は言った
願いの一つは聞き遂げられ、もう一つは黙殺された。
なんのことはない。僕を連れ去った二人組は、浮浪児を保護しに来た警官だったのだ。彼らは温かいスープと、とびきり苦い薬草──おそらくは風邪薬だろう──を与えてくれ、留置所と呼ぶにはあまりに清潔な小部屋に案内してくれた。
僕が布団に包まれている間、彼ら大人たちがどのような手続きを踏んだのかはわからない。寝る前に尿を採取され、呼気を嗅がれたのは覚えているのだけど──おそらくはアルコールやドラッグの検査だったのだろう。
ともかく次に目を覚ました時、僕が最初に見たものは見知らぬ天井だった。
花のような、蔓のような模様が施された天井。そこは見慣れた僕の部屋、七歳の時に与えられた子供部屋ではなかった。留置所でさえなかった。調度品はおしなべてアンティーク調で、そして床は絶えず重たげに揺れていた。
そこは船室だった。僕はどういうわけか生まれ育った街から引き離され、そして今度は陸にもサヨナラさせられてしまったのだ。どれだけ寝ても覚めても、この事実は厳然として眼前に広がったままだった。
かくして僕の、長いながい異世界の航海は始まったのだった。