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全力少年時代  作者: 野神真琴
第一次峰が丘合戦
9/43

コインパース

 僕は走った。片手にミズゴロウの絵が描かれた財布を握りしめ、時々後ろを確認しながら走り回った。追手が居ない事をしっかりと確認してから、自転車を隠しているコインパーキングへ向かう。コインパーキングには既に皆が揃っていた。

 ムラサキ以外はボロボロに成っているし、消火器の粉で服が汚く成っている。ケイ君が「大ちゃん大丈夫やったか?」と聞いて来たので、僕は黙って頷いた。


「ほらよ」と格好つけながら、ミズゴロウの財布をあっくんに向かって投げた。財布は綺麗な放物線を描き、あっくんの手元へ帰った。


「ありがとう大ちゃん。ほんで、みんなありがとうなぁ」


 あっくんは一人ずつ手を握って感謝を伝え、目には涙を浮かべている。この姿を見れただけで、僕達は浮かばれるだろう。必死に戦った価値はある。

 遠くからは消防車のサイレンが聞こえる。きっと何処かで火事があったか、誰かが非常ベルでも鳴らしたのだろう。


「みんな、一寸待ってて」


 あっくんは財布を握りしめて走り出し、近くに在った酒屋の前にある自販機でカップ酒を買ってきた。


「せめてもの御礼や」とあっくんは言って、カップ酒1つを皆に差し出した。皆で回し飲みした勝利の美酒はとても不味かった。それに、口の中が切れていたので傷口に染みて少し痛かった。だけど僕はこの日本酒の味を一生忘れる事はないだろう。忘れてはいけない気がする。




 僕の後ろにはムラサキが乗っている。皆と別れた後に、僕はムラサキを家まで送る事にした。ケイ君が少し嫌そうな顔をしていたが、特に何も言ってこなかった。


「別に、家まで送らなくったって良かったのに」

「まぁ、ついでやな」

「ありがとうね……」


 ムラサキは急に黙った。何を言えば良いか解らないから、僕も黙って自転車を漕いだ。自転車のダイナモライトがタイヤに擦れて「ジジジジ」と鳴っている。空に浮かんだ月は綺麗な満月で、顔が付いていても可笑しくない様な怪しい光を放っていた。


「今日は皆と遊べて楽しかったし、仲間に入れてくれて嬉しかった」


 僕達は遊んでなんかいない。小林を倒すために戦ったので、決して楽しく遊んでいた訳じゃあないんだ。だけどムラサキからすれば、所詮は子供の遊びに過ぎないのだろう。女子は僕達男子よりも妙に大人びていて厄介だ。


「また皆で戦おうや」

「そうだね」




§〜○☞☆★†◇●◇†★☆☜○〜§




 こうして第一次峰が丘合戦の幕は下りた訳だ。小林に勝ったとは言い難いし、結局僕のサイコショッカーが戻って来なかったのは最高にショックだったけど、今となってはいい思い出でもある。


 小林と僕が再開するのは中学2年生に成ってからの話になる。小林と僕は同じ中学校だったんだ。悪童小林はパワーアップしていて、中学校でも恐れられていたし、僕が中学3年生に成る頃には学校の番長に成っていた。小林の右腕にはアランが採用されていた。どこの時点でアランと小林が仲良くなったのかは謎だ。


 中学校でも小林の噂は尽きなかった。


 曰く、七つの大罪を十二個犯した。

 曰く、十戒を二十四個破った。

 曰く、犯罪シンジゲートとの太い繋がりがある。

 曰く、ちんちんがズル剥け。

 曰く、狂犬病を患っている。

 曰く、チャックノリスと喧嘩した事がある。


 どれも真偽の程は定かじゃないし、きっと全てが嘘なのだろう。最後に小林の噂を聞いたのは、僕が高校生に成ってからだ。アランと小林は盗難したバイクやら車を売って、中途半端に金を稼いで逮捕されたらしい。この事件は新聞にも載っていて、北川住宅を含めた僕達の地元で話題になった。


 小林とアランが人生の坂道を転げ落ちようが、今の僕にはどうだっていい。彼等とは永遠に会う事も無いし、向こうは僕の事なんて忘れているだろう。きっと今も何処かで悪さをして人に迷惑を掛けている筈だ。人はそうそう変われない。悪童は悪童のまま大人に成る。僕の様な馬鹿が、馬鹿のまま大人になるのと同じ原理なんだよ。

※フィクションです。


最近調子悪くないですかぁ?

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