地獄に仏天国に悪神
「マジかよ」
混乱と疑問がぐるぐる頭を回るが、ただ一つわかっている事としては、俺はやらかしてしまったのだろう。
最後に言った、「魔法を使いたい」でなぜあそこまで怒られたのかは謎では有るが、仏の顔も三度までではなかったのか?
あ、仏じゃなかったわ。
「あーもう、こんなバカなこと考えてる暇じゃねえんだよな。」
とは言え、何をするべきか皆目検討つかない。
「まじ、死んだのに救済措置とか、地獄に仏じゃんとか思ってたのに、カンダタの蜘蛛の糸だったとは…」
自分の悲運が、非常に悔しい。
やっぱりいいことの後にはそれ以上の悪いことが起こるのだろう。
「そういえば、母さんと親父元気かな〜。」
こういう時に出来ることなんて、現実逃避ぐらいしかない。
生産性のない行動も、心の余裕のためには必要だろう。
しっかし天国で神様にあって神様の偉大さを感じてたっていうのに、意味分かんねーよ。
落とされたところで上げられたと思ったらまた落とされた気分だ。
少しこの状況に慣れてきたのもあるのか、現状の不満も出てくる。
しかし困ったことが一つ。
「はー、これからどうすりゃ良いのさ」
よくわからない場所に一人取り残されてしまって、どうすれば良いのかさっぱりわからない。
帰りたくても、どう帰ればいいのか。そもそもここはどこなのだろうか。
そうやって一人途方に暮れていた。
「ここで待ってたら、誰か来るかな?」
そう思いながら座って待つことにした。
「一向に変化ないな!」
その後しばらくじっとしていたが誰も何も来ないし起こらない。
流石に焦れて立ち上がろうとした俺だったが、何かお尻に違和感を感じて立ち上がれなくなった。
「え?なんかのイタズラ」
なぜかは分からないが地面とお尻がくっついてしまっている様で、立とうとしても立ち上がれない。
「ああ、もうウザったいな!」
現状の不満でイライラしていたこともあり、勢いをつけて一気に立ち上がろうとしたその時、俺の尻に痛みが走った。
結果として立てたのだが、何か右の尻に刺された様な痛みを感じて手を伸ばす。
すると、何やら木の根っこの様なものが手に触れた。
急な感触に驚いたが、一番の驚きはそれが実際にお尻から生えていたことだった。
さながら木になってしまったかの様に俺のお尻からは複数の根っこが生えていたのだ。
「なんだこれ?え?根っこ!?」
焦りでパニックになるが、その疑問に答えてくれる様な人は周りには居なかった。
「いや、誰か説明が欲しいんだけど!誰か!」
その声は虚しく響くだけで。
「ほんと、勘弁してくれよ。なんで俺だけこんな目に…」
悲しくて泣けてくる。
「誰か、助けて…神様」
言って気づいたが、神様はさっき俺にブチ切れて、今のこの状況を作り出してる奴だった。
「はぁ〜、神は死んだのか。」
「勝手に殺すな」
誰も居ないと思っていたからこその、完全な独り言だったのだが、急に頭に声が響く
「は!?え?いや、すいません!そういう意味じゃ」
驚いて周りを見渡すが、誰もいない。
あ、ってことはさっきの声は神様の…じゃあ全部見られてたって事じゃ
「あの!神様、ほんとさっきは申し訳なかったです。この通りなのでどうかご勘弁を。」
俺は恥も外聞も無くその場に土下座する。
「いやそんなに怒ってないわ。それよりここで何をしておる?」
「へ?いや何も」
「なら何故ここにおるのだ?」
何故と言われてもこちらが聞きたい。
というより、ここにいるのは神様に送られて…ってさっきと若干声違くね?
「えーと、失礼ですがどなたでしょうか?」
「質問に質問で返されるとは…」
あ、対応まずったかも。
「すいません!あの、俺は…」
そう言って今までの事の顛末を喋り始めた俺の話を、神様らしき声は適当に相槌を打ちながら聞いていた。
「つまりは見放されたのだな」
全てを聴き終えて、言われたのはそんな言葉だった。
「そもそも、魔法というのは魔の者が使う法で、お前さんがよく話を聞いてなかったのだろうが、魔法や魔力が有るという説明は、それら悪しきものを排除しろと暗に伝えるものだったのだろうよ。」
「そうだったのか…って分かるわけないじゃんそんなの!」
「カカカカ。まあ、そんな少しの間違いなら普通は訂正されて許されるのだろうが、お前さんはその前に神をおちょくってたからなぁ。」
確かにそれは俺が全面的に悪い。
「でも、おちょくったわけじゃ無くて、いっぱい力もらえるための交渉というか何というか。」
「あやつは不誠実さというのに敏感すぎるくらいに敏感だからの。それで、こんな場所に送られて神界に取り込まれようとしておるのか。」
「取り込まれる?」
なんだそれは?初耳だが?
「迷い人はこの世で生きるには弱すぎる上に存在が希薄すぎて、長らく居ると世界に侵食されて取り込まれるのよ。今のお前の様にな」
「ってことは、この根っこの尻尾も?」
「それは尻尾ではないがそう言うことよ」
「ってことは、このままだと俺は木になるって事?」
「木になって、お前さんの意識は消滅してなくなるだろうな。」
なんだよそれ!非常にまずい!
「それってどうにか助かる手立ては?」
「あるぞ。」
おー!良かった。やっぱ有るのか。
「先ほど聞いた様に、縁を結んで存在の繋がりを持つか、輪廻の輪に戻るか。どちらも、神助けが必要だがな。」
それって結局、神に見放された俺には無理って事じゃねぇか!
って、ちょっと待てよ
「さっきから気になってたんだけど、貴方は神じゃないんですか?」
さっきから、超常的な力で会話をしているから多分間違いないとは思うが
「うーむ。神というのは、基本的には先ほどの話に出てきた神殿に居って、各々の神界に住んでおるのだよ。」
「ってことは、神ではないって事?」
「私は少々特殊でね。神の中では爪弾きものだからねぇ。神殿には居れぬ身よ。」
「じゃあ、神様なんだ!お願いします!契約してくれないですか?!」
「やめておいた方がいい」
藁にもすがる気持ちで頼んでみたのだが、返答はNOだった。
しかしそれでもこちらは命がかかっている。
「お願いします!このままじゃ俺、神木になっちゃうんです!」
「神木という言葉が正しいのか…でもまあ、そうだな。うーむ。そのままでは取り込まれてしまうであろう。そこに井戸があるだろう?その中に私の神界がある。私もそこに居る。此処に来れば、取り込まれることはなくなるだろう。」
「神様の神界に?そこに行けば一応は安全なんですよね?」
「ああ。」
俺の必死の説得が届いたのか多分神様のプライベートなスペースであろう神界に入ることを許される。
「神様、ありがとうございます。」
感謝の言葉に返答は無かったが、気にせずに神界の入り口である井戸に向かった