オーシャンクルーズ
こんばんは。
とうとう6月になり、コロナの自粛もとけてきましたね。
例年ならゴールデンウィークという今年はコロナによって忘れ去られた休日後からはまとまった休日というものは長らく無い訳ですが、今回のコロナ在宅時間がもう休日みたいなものですよね。
家にいる時間が暇だったので、色々とAmazonで買う事が増えて、要らないものがどんどん増えました。
皆さんも、Amazonの脅威にお気をつけて下さい
「おいおい、せっかくのバカンスなのになんでそんな仏頂面してんだよ〜」
そう言って俺の頭を小突いて来たのは毒島茂明。俺の父さんだ。
母さんも少し離れた所に座って休んでいる。
俺たちが今どこにいるかというと、大海原のど真ん中。
もっと詳しく言えば、豪華なクルーズ船の中にある温水プールであり、船外は水で囲まれてるというのに、船内にも水がある不思議な感覚だ。
「いや、やっぱちょっと不安なんだよな。マジで、この船安全なの?」
「本当お前ビビリだよな〜。やっぱり家でお留守番してたほうがよかったか?せっかく無理言って定員2名のところを3名に増やして貰ったってのに。」
「そんなん、乗ってから初めて知ったわ。むしろ、無理やり乗せられた感じだろ。」
そう。このクルーズ船に乗るに当たって俺らは実質タダ同然での乗船を果たしている。
決して、密航したわけでは無い。きちんとお天道様に顔向けできるような行動をいつも心がけている俺が、そんなことは許さない。
じゃあ、どんなトリックかと言えば簡単で、親の忘年会で当たった選べる旅行券を利用して久しぶりの家族旅とばかりに一番高いこの豪華客船に乗っているという訳だ。
「正直、豪華な客船ってまじで豪華なんだな〜って驚いたけど、なんでこの船タイタニック号モチーフに作ってんだよ!縁起悪すぎない?」
そう。この豪華客船は名前に負けず劣らずめちゃくちゃ豪華ではあるものの、何を思ったのかタイタニック号の構造を内装以外で忠実に再現しておりその名も、タイタニック3号。
2号はどうしたと思うだろう。俺も思った。
ので調べてみると2号はすでに作られており、使用できなかったから3号にしたらしい。
「まあまあ、タイタニック号って沈む前は不沈船って言われてたらしいし、過去から学んできちんと耐久性は上げてるでしょ。」
「だと良いんだけどな。」
「それより、楽しんだほうが良いだろ?せっかくなんだし。プールだってお前が来ようって言ったんだろ?」
「そう、だね。じゃあ、沈没したときのために泳ぎの練習してくるわ。じゃあな!」
「おい、やめろよ、演技でもない」
俺ら親子はそう言ってふざけあいながらその日はプールを満喫して、はしゃぎすぎてダウンした父さんを部屋まで運んですぐに寝てしまった。
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次の日の朝は、あまりすっきりとした起床ではなかった。
俺らの部屋は大きな窓がついており、いつもはそこから外の景色(と言ってもいつ見ても同じような海しか見えない)が見えるはずなのだが、その日の朝はまるで洗車中の車内のように叩きつけるような雨が窓に当たり、眠い目で携帯をいじって時間を確認するまでは今が朝9時過ぎだと気づけないくらいに外も暗かった。
「おー、外めちゃくちゃ雨降ってるじゃん。」
豪華客船というだけは有り、窓ガラスも非常に高級なものを使っているのか遮音性に優れていた為、雨の音は全く聞こえ無かった。
だが、曇り空のせいでお日様が見えず、長年の間朝は太陽に起こしてもらっていた俺としてはまだ全然目がシャキッとせず、携帯の画面をいじることで省エネモードになっている脳みそのエンジンを稼働させるべくこの頃ハマっているモバイル版のFPSゲームに精を出した。
「正義、まだゲーム?きちんと寝なさいよ。」
しばらくして、母親が少し起きたのかゲームをしている俺に向かって声をかけてくる。
外の暗さでまだ夜だと思ったのだろう。
「今、もう朝9時半だよ?」
俺の言葉で、ノソノソと傍に置いてあったケータイに手を伸ばし、時刻を確認したのか起きてくる。
「本当にもう朝なんだ…って外すごい雨ね。ちょっと、お父さん。起きて!外すごいよ!見てみて!」
「え〜、何?どうしたの?外?」
お母さんが起こして、父も起きて来る。
「おー、本当だ。すっごいな。今日雨降る予報出てた?」
「海の上の天気予報なんて知らないわよ。」
「航路上の天気予報なら、大広間のモニターで見れたけど、雨降る予報は全く無かった気がしたけど。てかこれ雨じゃなくて嵐じゃない?」
窓から見える外の天気は、ちょっとした雨ではなく大荒れであり、嵐か台風かといった凄惨な状況だった。
「これさ、甲板に出たらどんななんだろうね?」
「確かに、窓あると全然音も聞こえないしあんまり分かんね〜な。ちょっと、見にいってみる?」
毒島家恒例の男達の悪ノリが始まった。
「ちょっとあんたら、さすがに危ないでしょ。やめときな。」
「確かに、外出るのはガチで危険そうだから、扉開けて少し外見るだけぐらいで勘弁しとく?」
「そーだな。じゃあ、気をつけてちょっくら見にいってくるか!」
「遅くならないで帰って来てね。帰って来たら、お父さんの好きなハンバーグよ。」
「なんで、ちょっと死亡フラグ建てようとしてるの?」
「え、父さん自分にかけられてる保険金額知らないの?」
「そういうリアルな事言うんじゃねぇよ」
「ハハッ。まあ、すぐ帰ってくるよ。じゃ」
「いってきー」
ガチャ
バタン
そう言って二人で部屋を飛び出て甲板に繋がるドアへと向かう。
「でもお前、まじ嵐の時に無闇な行動は良くないからな。」
「って!甲板行こうって父さんが言い出したじゃん!」
「ハハ、確かに。でもさ、正直ちょっとこう言う非日常現象ってワクワクしない?」
「戦場だとそういう奴から死んでく。って俺の友達の学者さんが言ってた。」
「お前、学者の友達居ないだろ。それに、ここは戦場じゃねぇしヘーキヘーキ」
「まあ、ちょっと見て帰るだけなら大丈夫って医者の友達も言ってたわ」
「医者も居ねえだろ」
そうこうして冗談を言い合っているうちに、扉に到着したのだがここで少し問題が発生した。
「アレ、鍵閉まってるわ」
「甲板には出るなってことか。」
そう。肝心の扉は鍵が掛かっているらしく、押しても引いてもピクリともしなかった。
「まあ、しゃーないわな。この天気で来るとこじゃねぇわ、帰るか。」
「あ、鍵開いたー」
帰ろうかと思っていた矢先に、ドアノブの下の部分に見えないようにちょこっとついていた鍵のボタンを発見。
押してみると鍵は開いた。
「どうする?開けちゃう?」
わざわざ閉められていた鍵を開けて、扉まで開けるのは少しだけ罪悪感を感じたので、手を汚すのは父さんに委ねる事にした。
「ちょっと開けるだけだし大丈夫だろ」
そう言ってドアノブを回し、少しだけ開いた瞬間、暴風雨によって扉が思いきりこじ開けられドアノブを握っていた父さんは思いっきり外に倒れこんだ。
「いや〜、ひでぇ雨だったな。」
「死ぬかと思った」
あの後俺らは、無事船内に帰還する事が出来た。
父さんが外に倒れて出て行った後、俺は父さんを助けるべく外に向かったがとてつもなく強い雨風に目も開けられず、手探りで倒れた父さんを回収し、やっとこさ扉を閉めて現在に至る。
「服も何もびちょびちょだよ。携帯持ってこなくて良かったわ」
「あ、最悪!俺のスマホ…よかったなんともない。」
二人とも全身びしょ濡れだったが、俺のポケットに入れていたスマホは何とか無事だったようだ。
「部屋帰って風呂入るか」
「いいけど、この格好で船内歩くのは迷惑だろ。ちょい服脱いで雨絞るわ。人来ないか見といて。」
「オッケー」
その後、びしょ濡れの濡れ鼠と化した状態で部屋に帰り、二人仲良く母さんにしこたま怒られた。
この時はまだ、この天気が一過性の問題ないものだと特に気にしても居なかった。
今は、家族の関わり方が昔と変わっているみたいですね。
うちの家族は、結構みんな自立していてあまり関わり合いが薄かったので、家族のシーンというのを書くときに、友達との絡みのようにしか書けなかったのですが、今の家族の形はこう言ったものが逆にリアルな形になっているのでしょうかね。
とりあえず、異世界転移まであと数話ありますのでどうかよしなに。