最終話 奇縁 その3
(ん・・・、おっと、
いつの間にかわしも寝ておったようじゃ・・・)
(史陽、は・・・、まだ起きておらんようじゃな)
それからいくらか時間が経った後、
真狐が静かに目を覚ます
膝元を見ると少年はまだ眠っており、
外へ目をやると既に日が傾き始めていた
(むう・・・、どうやらわしもそれなりに
眠ってしもうたようじゃな・・・)
折角史陽と二人きりじゃったのに、
この時間を機会も逃してしもうたか・・・)
(寝顔を眺めたり、頭を撫でてみたりと、
したいことはいくつもあったのじゃがな・・・、
まあ済んでしもうたものは仕方がない)
(そういえば、つかの間に夢を見たような気もするが・・・、
はて、どんな内容だったやら・・・)
貴重な時間を消費してしまったことを残念がりつつ
自分が少しだけ見た夢について考えようとする真狐
しかし、覚えていないものについて思考を働かせても
どうにかなることはなかったため、
それも長く続くことはなかった
そこへ少年が身じろぎをし始めたため、
真狐は夢のことなど完全に忘れてしまう
「おっと・・・、史陽よ、起きたかの?♪
目が覚め切ってないとしても、
もう少しすれば夕餉じゃろうから起きた方が良いぞ?♪」
優しい声をかけられたこともあり、
少年は意識が急速に覚醒し始めため
ゆっくりと目を開ける
そして、目の前にあるたわわな双丘へ焦点が合ったところで、
自分がどこにいるかを認識し、慌てて飛び起きた
「おはよう史陽♪ 随分元気の良い起床じゃったな?♪
そんなに食事が楽しみかの?♪」
意図が分かりやすい行動に楽しそうな笑みを浮かべつつ
からかうような言葉をかける真狐
少年は、頬を掻きつつ恥ずかしそうな笑顔を見せ、
改めて起床の挨拶をした
「ふふ・・・♪ わしの膝枕は良く眠れたようじゃな?♪
お主にやってあげたのはあの時以来じゃが・・・、
あの時と変わらぬ反応はなかなか可愛いかったぞ?♪」
「とはいえ、この恰好では少々刺激が強いのも
やむなしかのう?♪ ふふ・・・♪
お主に全てを曝け出せる日はまだまだ先ということか♪」
「とはいえ、それを待つのもまた
一つの楽しみであることは確かじゃな♪」
少年の相も変わらない顔を見れたためか、
はてまた膝枕中に眠っていた時間を取り戻すつもりなのか、
真狐は饒舌にあれこれと言葉をかける
返答に困った少年は、話を逸らすつもりなのか
海狸と玲香はどこへいるかを尋ねていた
「ああ、あの二人ならばわしらを残して外出したが、
夕食の準備もすると言うておったな」
「呼びに来るとは言うておったがもう良い時間じゃろう、
わしらの方から行くとするか♪
お主も夕食が気になることは確かじゃろうからの♪」
そう言うと、真狐は立ち上がって背筋を伸ばし
気持ち良さそうに一つ息を吐く
その動作で弾む豊満な乳房から顔を背けつつ、
話題が変わったことに胸を撫でおろしながら
少年は真狐と共に部屋を出た
真狐と少年が二人を探して外へ出たところで、
すぐ近くにいた海狸と玲香の存在に気付き近付いていく
少年たちの存在に気が付いた二人は、
作業の手を止めて話しかけてきた
「あっ、二人とも起きたんだ♪ 良く眠れた?♪」
「こちらの準備も大体終わりましたので、
そろそろ呼びに行こうと思っていたところでした♪」
「おお、それはちょうど良かったのう♪
それで・・・、これが今日の夕餉か?」
「うん、と言ってもまだ材料の段階だけど・・・、
史くんは当然これが何か分かるよね?♪」
用意された器具や食材を見せながら、
海狸が少年に問いかける
そこにあったのは、切り分けられた肉や野菜と
食材を指すことに適していそうな金串、
そして炭が入れられ網も乗せられた焚き火台
紛れもないバーベキューの準備がされており、
少年は思わず顔を綻ばせながら
海狸の問いかけに答えた
「そ、正解♪ 今日のディナーは
豪華なバーベキューだよ♪」
「ばーべきゅー、とな? 聞いたことが
あるようなないような・・・、
それは一体どういう料理じゃ?」
「簡単に申し上げますと、こちらの串に食材を刺して、
網の上に置いて炭火で焼くのです♪」
「ほほう、そういう食べ方をする料理か♪
火にかけるとは古き趣のある手法じゃな♪」
「その言い方はおしゃれじゃないな~、まあいいけど♪」
「では、全員集まったことですので、
そろそろ火を入れましょうか?」
「あ、それじゃあお願いしよっか♪
玲香ちゃん、頼んだよ♪」
「はい、では皆さま少し離れていてくださいね?
・・・よいしょっと」
火を点けると告げた玲香は
置いてあったバーナーを手に取ると、
台の横側から中へ火を入れた
すると、火はすぐに木炭へ移り、
段々と煙が上がり始める
「おお!? 一瞬で火が点いたぞ?
一体どういう絡繰りじゃ?」
「そうですね、詳しい説明は省きますが、
つまりはこの炭に燃えやすくなる仕掛けが
施されているのです♪」
「なるほど、そういうものか・・・、
っと、こほっ、煙が・・・」
「あ、あんまり近付くと煙たいよ?
真狐ちゃんこっちに・・・」
バーベキューコンロを近くで覗き込んでいた真狐だが、
風にあおられた煙が顔へ来たため咳き込んでしまう
それを見た海狸が真狐を煙から遠ざけようとしたが、
言い終えるよりも早く少年が真狐の手を取り
風上へと誘導した
「けほっ・・・、お、おお・・・、
史陽、すまんな・・・」
涙目になりながらも、少年にお礼を言いつつ
軽く握られた手へ意識を向ける真狐
しかし、少年は真狐を移動させることしか
考えていなかったらしく、目的を果たすと共に
その手は何の葛藤もなく放されてしまった
反射的に名残惜しい表情を見せる真狐だが、
少年から不思議そうな目で見られたために
慌てて取り繕う言葉を口にする
「う、うむ・・・、ばーべきゅーとは
煙の出やすい料理のようじゃから、
あまり近付くのは良くないのじゃな」
「そ、そうだね真狐ちゃん、
それじゃあ網が温まってきたころだろうし
焼き始めようか?」
「そうですね、では皆様、この串に
好きな食べ物を刺して網へ置いてください♪
真狐の言葉へ続くように海狸と玲香が口を開き、
全員の意識を料理へと向ける
少年は率先して串を取り、自分の好きなものを、
主に肉類を串刺しにしていた・・・




