第九話 謳歌 その4
そんなこんなで次の日が訪れ、
自宅の側で玲香の運転する車に全員が乗り込んだことで
この小旅行は始まりを告げる
少年は、両親へ嘘をついたことに対する罪悪感はあったものの、
車に揺られていたところで今日という日への期待が
それを上回ったらしい
そうこうしているうちに、車は無事目的地へ到着し、
壮大な景色が出迎えてくれた
小さな駐車場に車が停まったところで、
四人が揃って外へ出る
移動中動かせなかった体をほぐすように、
あるいは潮風を感じるようにそれぞれが体を伸ばしていると、
玲香が全員に声をかけた
「さ、着きましたわ♪
ここが今日の目的地、当家のプライベートビーチです♪」
「玲香ちゃん、運転お疲れ様♪
荷物置いたらちょっと休んでく?」
「いえ、問題ありません♪
・・・と言うより、本当のところ、
皆様と遊ぶのが楽しみで仕方ありませんので♪」
「ふふ、そうか・・・♪
ではひとまずお主の荷はわしらに任せておくれ♪
・・・あちらの建物に持って行けば良いのか?」
「ええ、今日は皆であそこに泊まります♪
本日は私たちの貸し切りで、人払いもしておりますので誰もおりません、
宿も浜辺も好きなように使えますわ♪」
「うむ、心得た♪ では史陽よ、
さっそくこれを持っていくかの?」
真狐の呼びかけに元気よく頷くと、
少年は自分のものを含め、手近な荷物をいくつか持ち上げる
と言っても食料など大半のものは
宿泊用の建物に用意してあると言われていた通り、
大して重いものは入っていなかった
「ふふっ♪ 男手として力の見せどころかのう?♪
いや、早く海へ行きたい意志の表れと言うべきか♪」
「ま、楽しみなのはみんな一緒だよね♪
それじゃ、早いところ荷物を置きに行こっか♪」
「はい、では参りましょう♪
私がカギを持っておりますので、
すぐに開けますわ♪」
そう言いつつ歩き出す玲香と、
その後ろを着いていく三人
宿に着くまでの間、物珍しさからか、
真狐たちは浜辺を横目に見続け、
自然と歩みが遅くなる
「ふむ・・・、良い眺めじゃな・・・♪
しかし、周りは木々や山ばかりで建物が見当たらんのう、
ここは家からどのくらい離れておるのやら・・・」
「そうだねぇ・・・、具体的には良く分かんないけど、
ボクたち大きくなって走れば休みを挟まなくても
来れる距離ではあるよ♪」
「そうか・・・、とすると・・・、ふむ、
車というものは初めて乗らせてもらったが、
乗り物でそこまで遠くへ行けるようになったんじゃな」
「まあそういうことだね♪
おっと、お話はここまでにして、中へ入ろう♪」
談笑しながら進んでいたところで、
三人は建物の入口へ到着した
扉は既に開かれており、
玲香は中へ入っているらしい
それぞれが軽く挨拶をしつつ建物の中へ足を踏み入れると、
やはり先に居た玲香がそれを出迎えてくれた
「改めて、当家のプライベートビーチへようこそ♪
今日は何も気にせずここで好きなだけ遊んでくださいね♪」
「うむ、今日は世話にならせていただくぞ♪」
「よろしくね、玲香ちゃん♪
じゃあ荷物置いたらさっそく着替えて浜辺へ行こっか♪」
「はい、では私たちは向こうの部屋へ行きますので、
史陽様はあちらの部屋をお使いください」
「じゃあみんな水着になって浜辺へ集合ね~♪
さ、真狐ちゃんもこっち、水着は私の方で用意してあるから
すぐに着替えよっ♪」
「な、なんじゃ? 着いたばかりでもう外へ行くのか?
こ、これっ、押すでないっ」
「あ、史くん? 多分私たちの方が遅くなっちゃうけど、
危ないから一人で先に海の中入っちゃだめだぞ~?♪」
宿に着くなり海へ行くと言い出した海狸は、
真狐を部屋へ押し込みつつ
水には入らないよう少年へ言い含める
すぐにでも泳ぎたかった少年は、
鋭い忠告に苦笑いしつつ返事をすると、
自分にあてがわれた部屋へと入っていった・・・




