第九話 謳歌 その2
一行は、目的地と思しき「海」が見える距離まで
近付いてきたことに期待を膨らませているらしい
後ろの座席に乗っていた二人の女性・・・、
頭に獣の耳が、腰から尻尾が伸びていること以外は
普通の女性と呼べる二人が心躍る表情を見せている
片方の、タヌキのような耳と尾を持つ女性は海狸、
そして、キツネのような耳と尾を持つ女性は真狐
二人とも、数百年は生きている
物の怪と言える存在である
そこに、車を運転していた一人の女性・・・、
頭に耳、腰に尻尾といった不自然な部分の存在しない、
ごく普通の女性と言える玲香が声をかけた
「この一帯は当家で管理しておりますので、
景観には特別気を配っておりますの♪」
「へ~♪ なかなか徹底しているね~♪
言うだけあってすっごく素敵だよ~♪」
「しかし・・・、ここから見える景色全てが、
本当にその、ぷらいべえとびいち、というやつなのか・・・?」
「全て、とは言いませんが、とにかく浜辺や建物などは、
全て当家の所有物といって差支えありません♪
今日は私たちの貸し切りですので、自由に使えますわ♪」
「なんとまあ・・・、わしらのために
何から何まで面倒を見てもらったようじゃのう・・・」
「だね~♪ 玲香ちゃんには感謝しないとね~♪
そんでもって、今日は張り切って遊んじゃおっか♪」
「ええ♪ 今日は皆様に楽しんでもらうのが一番の目的ですから♪
そういうわけですので、史陽様も存分に楽しんでくださいね♪」
三人が楽しそうに話をしていたところで、
玲香が助手席に座っていた一人の少年、
史陽にも話しかける
一つの偶然から真狐と出会い、
そして海狸、玲香とも出会ったこの少年は、
嬉しそうな顔をしつつ頷いて見せた
真狐や海狸と違い、しきりに騒ぎはしないものの、
高揚を抑えきれないらしく、時折身体が動いている
どうやら、この中で一番到着が待ち遠しいようだ
「もうすぐ着きますので、そうしたら
早速めいっぱい遊ぶとしましょう♪
あそこの曲がり角を曲がれば・・・、ほら♪」
「おぉ・・・♪ これは・・・♪」
「わぁ・・・♪ いい眺め・・・♪」
玲香の言葉に釣られて外を見た三人は、
揃って感嘆の言葉を零す
そこにあったのは、
宝石を敷き詰めたように輝く真っ白な砂浜に、
青く透き通った、別の世界と思えるほど美しい海
これから始まる一日が素晴らしいものになると約束してくれる、
最高の景色が一行を出迎えた・・・




