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妖縁奇縁  作者: T&E
60/76

第八話 看病 その6

一方の二人は、部屋を出た玲香が扉を閉めたところで

海狸がどこからともなく取り出した葉っぱを

入口に張り付けていた



「これで良し、と♪」


「海狸様、そちらは・・・?」


「これ? ボクの術でね、張り付けておくと

この部屋に音が入らなくなるの♪

だから、そう声落とさなくても二人には聞こえないよ?」


「まあ、海狸様はそのようなことが出来るのですか・・・」


「結構便利な術なんだよね~♪」



怪しげな術で音が聞こえなくなると説明しつつ、

階段を降りていく海狸


玲香は半信半疑ではったものの、

葉っぱの張り付いた扉を見てなんとなく信じる気になったのか

同じように普通の声で会話することにした



「そうそう、今日はありがとうね~、

ほんと助かったよ~♪」



階下へ降りた海狸は、ふと思い出したかのように・・・、

恐らくは言う機会を狙っていたお礼の言葉を口にする



「いえ・・・、先日のお詫びができたましたので、

私としても良かったです♪」


「ふふ、それでもお礼は言っとかないとね~♪

真狐ちゃんと史くんの分も私から言わせてもらうよ、

ありがとう♪」


「そうですか?♪ なら素直に受け取っておきましょう♪」



二人とも、先日出会ったばかりながら

すっかり打ち解けているようだ


そうこうしている内に台所へ到着した二人は

料理に使った器具へ目を落とす



「では、水に浸けておいた洗い物を

片付けておきましょう」


「はいよ~♪ と言ってもあんまり広くないから

並んで立てないね~」


「そのようですね、なら私が洗い、

海狸様に水気を取っていただきましょう」


「おっけ~、じゃあお願いね~」


「はい♪」



小さな部屋の中は、水音と食器の触れ合う音、

そして楽しそうな笑い声で満たされていた



「これで最後だね、お疲れ様♪」


「はい、お疲れ様でした♪」



最後の食器を拭き終わった海狸と、

洗い物を終えて手拭く玲香がそれぞれを労う


元通り綺麗になった食器類を元の場所へ戻し、

海狸が誇らしげな笑みを浮かべた



「よし、これで全部元に戻せたよ♪

さて、それじゃあ・・・」


「お部屋に戻りますか?」


「あ~・・・、ううん、

もう少し二人っきりにさせとこう」


「そうですね・・・♪ では少し休みましょうか」



少年と真狐を二人にしておくと決めた二人は、

手近なところにあった椅子へ座ると

思い思いに手や足を伸ばす


そうやってくつろいでいる中、

海狸が今度は本当に思いついたのか、

ふと玲香に質問をした



「ところでさ、玲香ちゃん、

あの二人、どう思う?」


「はい・・・、どう、とは・・・?」


「う~ん・・・、なんていうか、

この前出会った時に比べて

なんか距離感が変わったように思わない?」


「う~ん・・・、私、二人のやり取りを

そう身近に見ているわけではないので良く分かりませんが・・・、

そうですね、言われてみれば少し離れ気味に思えたかもしれません」



唐突な問いかけに戸惑いながらも、

玲香は自分なりの印象を素直に言う



「うん・・・、その見立てで大体合ってるかな・・・、

玲香ちゃん、やっぱりそういう感覚は

結構鋭いんだろうね」


「それで・・・、お二方の間に

何かあったのでしょうか・・・」


「ううん・・・、そうじゃないんだよね、

ただ、真狐ちゃんがさ・・・」



心配そうな表情で二人の仲を尋ねる玲香に、

海狸はその不安を否定しながら話を続けた



「真狐ちゃんの呪い、覚えてるよね?」


「はい・・・、真狐様が「真実の愛」を見つけた時、

力を封じている呪いが解けると・・・」


「そう・・・、まあ真狐ちゃんは妖力なんて

今やどうでもいいみたいだけど・・・、

問題は「真実の愛」の方」


「そこに、一体どんな問題が・・・?」


「真狐ちゃん、呪いが完全に解けていないのは

自分が史くんのこと、心から愛せていないんだって

思っちゃってるんだよね」


「そんな・・・、出会って間もない私ですが、

真狐様ほど史陽様のことを愛していらっしゃるお方はいないと

はっきり言えますわ」


「うん、そこはボクもそう思う、

でも、真狐ちゃん自身はそう思ってないんだよね~、

何せ、呪いが解けていないっていう確かな指標があるものだから・・・」


「そうですか・・・、厄介なものですね・・・、

なんとかして解くことが出来れば・・・、

いえ、別の方法を取ったとしても同じことですか・・・」


「そういうこと、なんだけど・・・、

ボクの見立てでは、多分きっかけさえあれば

呪いは解けてくれると思うんだ」


「そう思うに至った理由はなんでしょうか?」


「だって・・・、二人ともすっごいラブラブじゃない♪

ボクもちょくちょくちょっかい出してるけど、

割って入れない縁を二人の間に感じるんだよね~♪」


「それは・・・、理由としては素晴らしいものですが、

呪いのこととはまた別なような・・・、

それと、あまりお二方の仲に亀裂が入るようなことは・・・」


「あはは♪ これはまだ控えめな玲ちゃんには

良く分からないかな?♪」



他人の恋人に手出しなどするべきではないと考える玲香は

海狸の行動にあまり賛同できず、もっともなことを言う


だが、海狸はまったく気にする様子もなく

あっけらかんとした様子で会話を再開した



「ボクさ~、真狐ちゃんには早いところ「真実の愛」を

見つけて欲しいんだよね~、そうじゃないと・・・」


「そうじゃないと・・・?」


「史くんに、今よりも過激なちょっかいを

かけてあげられないからさ~♪」


「え、ええ・・・っ!?」



思いもよらぬ言葉に、玲香は思わず驚きの声を出す


そんな玲香の反応を楽しむかのように

海狸はすらすらと言葉を続けた



「言ったよね~?♪ ボク、史くんのこと好きだって♪」


「でも真狐ちゃんのことも好きだから、

二人の仲を裂くような真似はしたくないの♪

ま、今の時点でもボクにそれが出来るとは思ってないけどね♪」


「でも、二人の縁が、今よりもずっとずっと固くなったらさ、

そんなこと気にすることなくアタック出来るじゃん♪」


「は・・・、はぁ・・・」



人と妖怪で根本的に倫理観が異なるのか、

海狸の発言についていけない玲香は

どう返事をすれば良いのかまるで分からない


だが、海狸は悪戯っぽく微笑むと

わざとらしく顔を近づけて内緒話を始めた



「玲ちゃんだってさ・・・、史くんと

二人っきりになって、いちゃいちゃしてみたいって思わない・・・?」


「えっ・・・? そ、それは・・・」


「絶対聞こえないから思い切って言っちゃいなよ~♪

真狐ちゃんだって、好きになるくらいなら構わないとかなんとか

言ってたじゃん♪」


「いえ、それは建前と受け取るべきでは・・・?」


「そうでもないって、ボクたち人間じゃないんだから、

そういう感覚はちょっと違うんだよ~♪」


「し、しかし・・・、今悩んでいる真狐様のことを思えば

尚更そのようなことを口にするわけには・・・」


「もう半分認めてるようなものじゃん♪

それに・・・、真狐ちゃんが「真実の愛」を見つけるには

ボクたちがお膳立てしてあげる必要があると思うんだ」


「お膳立て、ですか・・・?」


「そう♪ 当事者だけでどうにもならないなら、

周りの出番だよ♪ 特に真狐ちゃん、

そういう相談あんまりしたがらないから

こっちから動いてあげないと♪」


「何やらうまくはぐらかされてる気もしますが・・・、

そうですね、そういうことならご協力させていただきます」


「そうこなくっちゃ♪

ついでにその過程で史くんと二人きりになって

思う存分いちゃついちゃえ♪」


「そ・・・、それは・・・、

遠慮・・・、して・・・、おき、ます・・・?」



誰に対しても大胆に距離を詰める海狸と

戸惑いながらも流されそうになっていく玲香


二人の「悪だくみ」は着実に

進んでしまったようだ

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