第一話 邂逅 その6
笑みを浮かべる狐とは対照的に、少年は驚いた表情のまま固まっていた
突然部屋に侵入した女性が頭に耳を付け、腰に尻尾を付けながら
自分のことを狐だと称している
当然すんなり信じることは出来なかったが、
暗がりでも分かるほど、特に尻尾が大きく動き
虚言だと一蹴することも出来ない
少年は明かりをつけてはっきりと影の姿を確かめるため、
暗い部屋の中にアタリをつけて電灯の紐を探し始めた
「んん? お主は一体何をしておるのじゃ・・・?」
少年の行動が理解出来ていないのか、
影から素っ頓狂な声が上がる
そんな声を流しつつ、少年は電灯の紐を掴むことに成功し、
そのまま軽く引っ張った
一拍おいて、部屋の中に煌々とした光が広がる
改めて影の姿形を見ようと向き直る少年だが、
顔を抑えてうずくまる女性の姿が目に入り、
慌てて駆け寄った
「ど、どうしたことじゃ、部屋の中が突然昼のように
明るくなったではないか・・・」
「うう、ま、眩しい・・・、すまぬがわしの体を支えてくれんか・・・」
側へ来た少年に体を預けながら、女性は少し苦しそうに呟く
少年は慌てながらも女性を支えようと、体に思い切り力を入れた
しかし、その重さは体の大きさからは想像出来ないほど軽く、
少年の力でも充分に支えられるほどだった
見た目と裏腹の軽さに困惑しつつも
少年は女性の体をしっかりと抱きしめ、倒れないように支えている
「おお、かたじけないの・・・、
どうやら眩しくて目がくらんでしまったようじゃ・・・」
「少し休めば直によくなるじゃろう・・・、しばし我慢しておくれ・・・」
女性は少年の体に顔をうずめつつ、くぐもった声でそう呟く
特に危ない状態ではなかったことに安心しながら、
少年はしばらくの間女性を支えることにした
「・・・・・・」
電灯に照らされた部屋の中で、沈黙したまま二人の男女が抱き合っている
落ち着いてきた少年は、次第に自分の置かれている状況を
改めて認識し始めた
簡素な和服に身を包んだその女性は、
抱きとめる一瞬しか顔を見ることが出来なかったが、
整った顔立ちの、充分に美人と言える容姿をしている
しかし、頭の天辺から真っすぐに伸びる耳と、
腰から垂れ下がり精巧に動く尻尾はどう見ても本物にしか見えない
それでも、手入れの行き届いた髪の毛に柔らかな体、
そして自分の下腹部に触れる巨大な乳房が、
目の前の相手を人間の女性だと少年に認識させる
少年は頬を赤らめ、胸を高鳴らせながら
女性の具合が良くなるまで抱きしめ続けた
腹部に埋まる女性の顔に、口の端が少しだけ釣り上がるという
変化が現れたことにも気付かないまま・・・