第八話 看病 その5
「御代わりもあるが、もう良いのか?♪ うむ、よう食べたの♪」
「お粗末様でした・・・♪」
「それじゃあ史くん、次はお昼寝でもしたらどう?♪」
食事も無事に終わり、お腹の満ちた少年へ
それぞれが思い思いに言葉をかける
少年は、全員にお礼を言うと
海狸の助言に従い横になることを決めた
「ではわしらの方は片付けをしておくよ♪
ひと眠りすれば、きっとようなっておるじゃろう♪」
「ああ、片付けはボクと玲香ちゃんでやっておくからさ、
真狐ちゃん側にいてあげなよ♪」
「私もそれが良いと思います♪
具合の良くない時は、誰かにいてもらえれば
心細さも消えますわ♪」
昼寝の邪魔をしないようにと立ち上がった真狐に、
海狸と玲香が声をかける
「うむ? いや、今日はずいぶん世話になってしもうたし、
そのくらいはわしも手伝ってやるべきかと・・・、
それにどちらかがついてやれば史陽は・・・、はぅっ!?」
言葉の途中で、真狐は唐突に体を弾ませてしまう
困惑しながら振り返ると、手を上げる少年の姿が見えた
「なんじゃ・・・? 史陽、尾を掴むのはやめておくれと
言ったではないか・・・」
どうやら、少年が手近なところにあった真狐の尾を
軽く引いたらしい
少年は真狐のたしなめに軽く謝罪をすると、
眠るまで側にいて欲しいと静かに伝えた
「何・・・、そうなのか・・・?
じゃが、二人は・・・」
「ほら♪ 史くんもああ言ってくれてるんだし、
真狐ちゃんついててあげなよ~♪」
「私たちは構いませんので、
どうかお側へいてあげてください♪」
「そうか・・・♪ ではお言葉に甘えて
そうさせてもらうとしよう・・・♪」
そう言うと、真狐は着物の裾を直しつつ、
正座の状態で座り込む
そして、少年の手を取りながら優しく微笑んだ
「じゃあ真狐ちゃん、史くんのことよろしくね~♪
静かに眠れるよう、この部屋だけ音を断っておくから♪」
「では、私たちは下で片付けをしております♪」
今度は二人が立ち上がると、玲香は手を振り、
海狸は真狐に見えないよう親指を上げて見せながら
部屋の出入り口へ歩いていく
「二人とも、かたじけないのう、
よろしく頼んだぞ」
真狐の言葉に微笑みで返事をしながら
二人は部屋を出ていった
「・・・・・・」
小さな部屋の中に、再び静寂が訪れる
しかし、今度は真狐がいるためか
少年は寂しさなどまるで感じられなかった
「史陽よ・・・、少しいいか・・・?」
少年の方へ向き直った真狐が、
静かに尋ねてくる
少年は、一つ大きな欠伸をしながら
どうかしたのか真狐に聞き返した
「今日のことでな・・・、色々と、
皆に迷惑をかけてしもうたと思うて・・・」
「わしは・・・、苦しむお主に何もしてやれんかった・・・」
「どうすれば良いか調べたのは海狸であり、
お主に粥を作ってやったのは玲香じゃ・・・」
「わしは右往左往するばかりで、
どうすることも・・・」
膝の上で両手を組み、不意に言葉を詰まらせてしまう真狐
だが、少年はその手をそっと取りながら
感謝の言葉を口にした
「史陽・・・?」
困惑する真狐に、少年は続けて口を開く
真狐が側にいてくれるだけで安心できること、
誰もいなかった部屋が妙に静かだと感じたこと、
そして真狐の姿が見えた時に一番安心できたこと
具合が良くないこともあってか、
普段と違う状況に少年も不安を覚えていたようだ
「そうか・・・、こんなわしにも、
お主にしてやれることはあるのじゃな・・・」
「ありがとう、史陽・・・、
お礼を言うべきは、わしのほうじゃ・・・♪」
固く閉じていた両手を開き、
少年の手を包み込みながら真狐が言う
その言葉に微笑みで返したかと思うと、
少年はそのまま目を閉じた
「史陽・・・、眠ってしもうたのじゃな・・・」
「顔色も随分ようなっておる・・・、
明日には調子も戻っておるじゃろう・・・♪」
柔らかな表情で眠る少年の顔を覗きながら
真狐が静かに呟く
「おやすみ、史陽・・・♥」
就寝の挨拶をする真狐の表情は、
今日一番の嬉しそうな笑顔だった




